1―0.プロローグ
噛めば噛むほど味が出るスルメのような作品を目指してます。
応援よろしくお願いします。
『ねぇさん!見ーつけたっ!』
王宮の一角にあるテラスにて、手慰みに花と戯れる少女に1人の少年が抱き着く。
少女は思わず抱き留め、護衛や侍女の見咎める眼差しと見慣れた様子で見守る視線を一身に受ける少年の頭をそっと撫でた。
仕方なさそうに、でもじんわりと喜びを表すように口元を緩ませる。
『人前でねぇさんって呼ぶのは止めなさいって言ったでしょう?』
『えー、ねぇさんはねぇさんだもん!』
本当のねぇさんだったら良かったのに……と残念がる少年を見やり、伏し目がちに声をかける。どこか冷え冷えとした声音で。
『貴方も王族になりたいの?』
少年は力いっぱい首を振って否定した。
『王様の家族じゃなくて、ねぇさんと家族になりたいの!』
どこまでも真っ直ぐなその目が、底無しに純粋な言葉が、少女の心を打つ。
少女は一瞬きょとんとした後、雪解けの柔らかな笑みを浮かべた。
『そう……情熱的ね。嫌いじゃないわ』
目配せして護衛と侍女を下がらせる。
人払いを済ませた少女は己より低い位置にある少年の目に合わせて屈み、慈しむような手付きで再度頭を撫でた。
『また、いつもの魔法を見せてちょうだい。貴方の、貴方だけの魔法を』
少年は無邪気に笑って了承する。
『皆にはナイショだよ。僕たちだけのヒミツだからね!』
テラスの中で悠然と佇む植物達を背景に、少女も同じく笑う。蕾が花開くようにふわりと笑う。
『ええ。私達だけの秘密よ』
なんてことない平穏な日常。
身分の垣根を越えた和やかな風景。
そんな幸せな日々が、これからもずっと続くと信じていた――――――……