年齢歴=彼氏ナシ歴女子の場合(その2)
独り身の気楽さはさみしさとバーターだと思ってた。強盗とかと出くわす危険なんて、この日本でそんなにあるわけないと高をくくってた部分はあると思う。
だけど目の前でにこにこしてる不審者(?)の存在に、悲鳴を上げる気にはなれなかった。
ゆるっとした白いローブ……っていうんだろうか?でもバスローブとはぜんぜん違う、ドレープの多い服をまとっていたのが、アイドルグループ花鳥風月の花くんにそっくりな、でももっと優しい表情の華やかな顔の男性だったせいはあると思う。(面食いで悪かったね!)
声に一聞き惚れした声優の雪yu-kiさんより深みのある、穏やかな声のせいもあるとは思う。
でも宙に浮けるところ見ちゃったら、人間じゃないって納得しちゃうじゃない?
うっかり浮遊霊とかに間違えそうにも、その雰囲気がねー。
悪意が欠片も感じられないのは、まあ当然なのかもしれないけど。
……なんていうか、見ているだけでこっちが陽だまりにヘソ天な猫状態になるというか。ずっと撫でててください側にいてください気分。
「藤菱緋梅さん。あ、緋梅さんでいいかな?話したこと、覚えてるかな?」
「ごめんなさいすいませんまったく欠片も覚えてません!」
あたしは即行土下座した。
なんというスカポンタンなんだあたしは!たとえ人間じゃなくてもこんなイケメンと話をしたことを忘れてるとか!
ここは切腹すべきだろう。
「ああ、気にしなくていいから。というかいきなり切腹はしないでくださいお願いします」
「はい!」
生きろというなら喜んでー!お前は美しいまで言われたら、むしろ死ねますー!
「……えーと。もう一度最初から説明するね?」
「はい、ぜひともお願いします!」
ぶんぶん首を振ると、苦笑したイケメンさんは(その苦笑すら魅力的すぎる!)信じられないようなことを説明してくれた。
自分が夢の中の真っ白オーブと同一存在で、神様だということ。
ただし、あまり力はないということ。
寝落ち間際のあたしが、うっかりスマホの画面をタッチしちゃったせいで、神様憑きになったということ。
……即座に信じろと言われても無理案件だと思う。
だけど、目の前でオーブに戻って見せられるとね。信じるしかないでしょ。
なんてこったい。そんな幸運を寝落ちしてたとか。
に、しても。
「あの、ひとつ聞いて…伺ってもよろしいですか?」
「どうぞ。それと、しゃべりやすい話し方でいいよ」
「なんで、その顔とその声なんでしょう?!」
「好きじゃなかった?「いえ素敵すぎます!」……あ、そう。喜んでくれてよかった」
いやほんと、花くんは外見こそ好みだが、声はツヤがあまりないし、しかも高すぎる。雪yu-kiさんの声は好きだけど、…うん、顔はちょっとごめん。
「むしろいいとこハイブリッドさらにアドバンスとか。なにこの好みドストライク過ぎてつらい存在。まさしく神!」
「そこは神ですから」
口からダダ漏れだった本心にもかかわらず、神様はどん引きもせずにこにこと笑ってくれた。
なんという神対応。
いや、神なら当然なのかもしれないけれども。