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第六・ドラゴン女子、クラフティ参上

今度はクラフティとかいうドラゴンが登場して

第六・ドラゴン女子、クラフティ参上



「さすが早朝の異世界っていうのはすごいなぁ。こんな感じ、前世では想像もできなかった」


 午前5時30にとある森の中を散歩する悠がいる。早起きが好きだなんて思った事はないし、今もそうだ。しかしこの辺りの事を知るためには歩くが一番と思ったら、異世界のフィーリングと早朝の消え去る前の夢みたいな感じが良く合うはずだと考え、午前5時にスフレ宅を出てここに来ていた。


「ふわぁ……」


 ドラゴン女子たるパネトーネが夜中において部屋を訪ねてきた。それによって睡眠の一部分が破けてしまい、脳には眠気が残っている。だがアタマがボーッとなったとしても迷子になったりする心配はない。右腕につけている貰いモノたる腕時計はスフレ宅と現在地を示すことができ、道筋もおおよその時間もわかる。


「これでだいたい30分くらいかぁ。一番奥まではたしか5時間くらいかかるとかスフレが言っていたような気がする」


 再び眠そうなアクビをする悠はスフレから色々な話を聞かせてもらっていた。この森のものすごく奥深いところには、ものすごい年齢のドラゴンが住んでいるという噂がある。そのドラゴンの名はジョーカーとかいい、噂によれば男が存在していた大昔から生き続けているとかなんとか。


「ジョーカーか……怖そうな感じ」


 そんな事をつぶやいていたら、木々がない開けた空間に出た。森の中に突然登場する広大な解放感という部分に早朝の色合いや空気は溶けあうように合う。1日の始まりにおいて夢を見るようなキブンが味わえる。


「今日はここでずっと寝て過ごそうかな」


 冗談っぽくつぶやいてゴロっと体を横にした。草一杯の地面に仰向けになり、夜の魔物を撃退したように明るくなっていく空を見た。


(ん?)


 寝転ぶ悠は空に小さな点が見えると思った。するとそれグングン大きくなっていく。いや、正確に言うなら上から下に向かって進んでくる。


「え、何々……」


 悠、グッと体を曲げると華麗なネックスプリングで跳ね起きる。そして少し離れたところにドーン! と落下ではなく着地した巨体に目を向ける。それは紛れもないドラゴンであるが、一瞬パネトーネ? と思ったりもしたが、多分べつのドラゴンだろうと思い相手が何か言いだすのを待つ。


「おまえが男というやつだな?」


 明らかにパネトーネとはちがう女子の声でドラゴンが悠を見る。


「うん、男だけど……そちらは?」


 質問されたドラゴン、我が名はクラフティと言ってゆっくり前進。相手との距離を縮め見つめ合う。そして男とはめずらしいとか奇妙だと言いたげに顔を動かし、おまえの名前は悠だろう? とつぶやく。


「え、なんで知ってるの?」


「ちょい前に友人が男とかいうのを見て暴力を振るわれたと言った。なんだそれは? と思っていたら、今度はパネトーネがおかしくなった」


「お、おかしくなった?」


「パネトーネはまぁ……あまりアタマはよくないが、それでもなんかおかしい。悠とか言って一人でデレデレしている。その姿を見たわたしはこう思ったんだ。どういうわけか女としてはひどく無様な気がすると。そこでいったい何があった! とパネトーネに聞くと、悠と仲良くなるとかなんとか、それはもう元よりよくないアタマが一層クルクルパーになったよう。同じ女としてだまっていられないのは当然。だからパネトーネに聞きだし、悠の部屋に挨拶しにいった。そしたらもぬけの殻だから追いかけてきたんだ」


「よくわかったね……」


「パネトーネが悠のハンカチというのを持っていたからな、そこからあふれ流れてくるニオイを覚えた。わたしはパネトーネとちがってそこそこ鼻がいいからな」


「ハンカチ? あぁ……」


「悠、パネトーネに何をした」


「な、何もしてないよ……ただ会話しただけ」


「パネトーネのあのデレデレ腑抜けた感じ、あざとい女に成り下がってでもシアワセになるためならよろこんで媚を売ると宣言するようなオーラ、いったいどんな魔法をかけたらパネトーネがあんな風になるんだ。アタマが悪いだけでは済まない何かがあるとわたしは思っている」


「いや、ぼく変な魔法とか持ってないから」


「わたしが悠を見に行くといったとき、パネトーネは何と言ったと思う?」


「さ、さぁ……」


「えぇ、止めてよぉとか、ぜったい悠には乱暴しないでよ? とか、悠にシッポをあげるのはわたしの仕事なんだからね! とか言った。なんだそれって感じだ。わたしに言わせれば異常エラーそのもの。絶対悠がパネトーネに変な事をしたとわたしは思わずにいられない、ちがうか!」


「いや……そう言われても……」


「悠、おまえはつよいと聞いている」


「そうかな……ふつうだよ、多分」


「パネトーネにかけた変な魔法を解除しないなら、わたしが相手する。悠を倒せばパネトーネの悪いアタマも少しは治るはず」


「えぇ……」


「問答無用、戦いあるのみ!」


 ドラゴンが大きく右腕を振り上げ、目にもとまらぬ速度で振り下ろす。まともに食らったらスルメみたいなヒラヒラにされていただろう。


「なに?」


 ドラゴンは悠の姿がない事におどろく。そしてハッと顔を木々並ぶ方に向けると、悠が中に逃げ込んでいく。その走るスピードはクラフティが初めて見るおどろき以外の何でもない。


「あんな身軽に早く走るなんて、男とはいったい……」


 ドラゴンは空に再び舞い上がった。そして森を上空から見つめ、左右前足を開き赤い火の玉を作る。


「出て来ないなら絨毯爆撃あるのみ」


 その声と同時にドラゴンは左右の前足から地上へ火の玉連打を放つ。朝のうつくしさに反する騒音や砂の舞い上がりに木の倒れなどが起こる。


「どうしようかな……」


 ドデカい木を背中に立つ悠、雨あられみたいに降り注ぐ攻撃とドラゴンを見上げて考える、このままジャンプしても避けにくいよなぁと。 


「そうだ……忘れてた……ぼくはファンタジスタだった」


 死んでこの世界に来る前、カステラというモノからファンタジスタとか戦闘魔法とか話をしたのを思い出す。


「できるか……」


 右手を開き自身のエナジーを集中させてみると、手から光球が浮かび上がる。そしてもう一つ、左手で背中の剣を持ったら両目を閉じ少しばかり念を整えてから確信。これであのドラゴンと戦えると気合を入れる悠だった。


「どうした悠、男っていうのは逃げるだけなのか。女みたいに戦う事はできないというのか!」


 クラフティは攻撃をストップし見下ろす森に向かって叫ぶ。それでも何も起こらない、何も聞こえないとなれば、無視されているみたいでキモチがイラ立ってくる。


 しかしそのとき、森から何かが階転しながら猛烈なスピードで飛んできた。その速さはクラフティが何かを思い反応するにはぎりぎりの猶予しか与えない。


「け、剣か……」


 反射的に避けたことで直撃はしなかったが、ズサっと体の前面を下から上に通り抜けていった。もうちょっと近かったら体に破損部分が生じたと思われる。だからしてクラフティはつめたい緊張に体勢を崩す。だがおどろきはこれからであって、飛んでいったはずの剣が逆行し始めるサマを見る。


「く、悠め!」


 バッと剣の軌道から体を横に移動させた。するとどうだろう、通り過ぎ落下していく剣を見つめながら、突然背中にはげしい衝撃を食らう。


「な、なに?」


 振り向いても悠の姿はないが、光球がまた一発自分に向かってきていると見た。だがそれに対する回避はとても間に合わせられない。


「あんぐ!!」


 背中にもう一発はげしく攻撃を受けたクラフティ、痛みに表情をゆがめ落下し始めるが、そこで両目を大きく開いてドキッとする。


「ゆ、悠……」


 そう、いつのまにか上から悠が向かってきていた。グググっと右手をつよく握りしめ、ブン! と太い音の立つ右フックを一発お見舞い。


「あんぎぅぅ」


 オゲ! っと顔を歪めるドラゴン、姿勢の整えや上昇へ転ずるが出来ず森の中に落下してしまう。


「あぁ……ぅ……」


 いかにドラゴンでもこれは痛かったということで、体を横にしたまま立ち上がれない。するとそこに悠がやってきてかがみ込む。


「だいじょうぶ?」


 てっきり追撃されると思っていたクラフティ、悠に気遣われおどろいた。なぜそんな風にやさしい? と聞いたりもしてしまう。


「だって、別に傷つけあう理由なんかないしね」


 ここで悠はニコっと笑って見せた。


「ぁ……」


 スマイルを目にしたドラゴン、急に顔を赤くし悠から顔を逸らすように寝返りを打ってからつぶやく。


「お、男っていうのは……やさしい生物?」


「まぁ、だいたいはね、それに……」


「それに?」


「女子に乱暴できる男なんていないよ。だって男は女を守らなきゃいけないモノ。それに……女の子はステキな生き物だから」」


「はぁ……ぅ」


 クラフティから出たその声は、胸の内にちいさなヤケドを負ったような音色だった。そしてようやく起き上がると、いきなり襲ったりして悪かったと悠に謝る。


「いや、気にしてないからいいよ」


「ぅ……悠、今はちょっとキモチを落ち着かせたいから退散するが、一度話をしてみたいとか思ったら……ダメかな?」


「話?」


「自分でもよくわからないのだけど、悠と話がしてみたいと胸がうずく」


「い、いいよ話をするくらい」


「そ、そう……わかった、じゃぁ、今日はこれで」


 こうしてクラフティという名前のドラゴンが去っていく。悠はその姿を見送った後、朝からけっこう運動しちゃったなぁと思いながら剣を背中に戻す。そしてグゥっと鳴ったお腹に左手を当てながら、スフレ宅に戻らんと歩き出す。

アルファポリスで連載中小説、よろしくヽ(・∀・)ノ


息吹アシスタント(息吹という名の援護人)


https://www.alphapolis.co.jp/novel/861687667/369533042

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