第四・ドラゴン女子・パネトーネ参上1
スフレと共にドラゴンのシッポ狩りに出かける事になったのだが
第四・ドラゴン女子・パネトーネ参上1
(うぅ……朝……)
いま自分は眠っているんだと自覚が悠の脳内に走る。閉じているまぶたを刺激するだけの明るさが広がっているという理解する。。そして夢と現実の境目で悶えるような声を出したら、体がほんの一瞬重力を拒否して傾く。
「あいたたた……」
ドサって音と同時に両目が開き体に発生した生な痛み。うっすら肌に当たって感じる空気もまた、これまで経験した事のない感じだと受け取る。
「ふわぁ……」
あくびをしながら、この時間に至るまでの事をサラっと思い出す悠だった。ここは2階建てコンテナハウスでスフレの住むところ。昨日はこのかわいい巨乳女子と出会い、行く場所がないという事でここにお邪魔することになった。ドラゴンシッポを使ったステーキにスープとかゲテモノっぽい見た目に反してうまい料理を食べさせてもらった。そして夜中は2階にある客間という場所で寝かせてもらったわけである。
「うわぁ……やっぱり異世界……」
厚めのカーテンと窓を開ければ心地よい風が室内入ってくる。しかしそれが頬に当たってキモチいいと思う以上に、目にする光景の新鮮味に酔う。前世では海外ってフィールドに出向かない限りは得られなかったであろうフィーリングにまみれる。ここでドアからコンコンって控えめな音が鳴る。どうやら向こうにはスフレがいるらしく、起きてる? とモーニングコールをしてくれている。
「起きてるよ、開けてもいいよ」
「そう?」
ガチャっと定番っぽい音がした次、ドアを開けたエプロン姿のスフレはおはようと言って窓際に立つ悠に目をやる。そしてギョッとして顔を赤くする。
「ゆ、悠……なに、その格好は……」
「え? あ、あぁ……ぼくはいつもこういう格好で寝るんだけど」
悠はスフレが用意してくれていたパジャマがどう見ても女子向けで着れるわけがなかったことと、前世よりの習慣としてTシャツにトランクス1枚って格好で寝た。
「え、ちゃんとパンツは穿いてるけど?」
そんなにおどろく事? と思う悠が何気にTシャツを捲くり上げようとしたら、スフレは赤い顔を横に向け、待って待って! と大げさな感じの声を出し、グッと右手の平を真っ直ぐ前に伸ばす。
「ハァハァ……な、なんでかなと思うんだけど、悠のそういう格好にはドキドキする。女だったら全然気にならないはずなんだけど、男だから? 悠の場合はなんかこう目にすると毒のある光がチラつくような感じがして」
「毒のある光……」
「と、とにかくごはんの時はちゃんとズボン穿いてよ?」
「も、もちろん穿くよ、当たり前じゃんか」
こうして悠は部屋から出て一階へと階段を降りる。一見すると素朴なようで女子力と生活感とビューティーにあふれたこのコンテナハウスはスフレが自力で購入したお城だという。ひとり暮らしにあこがれつつ、それが出来ずに死んでしまった悠にしてみれば、スフレはえらいなぁと感動的に感心させられて止まない。
「さ、とりあえず朝ごはんにしよう」
白いパーカーの上に砥粉色のエプロンをしているスフレはかわいい巨乳女子だなぁと見惚れたくなるがグッとガマン。黄色いテーブルの上に並べられた料理に目を向けて着席する悠だった。
「ねぇ、悠」
向かいのイスに座ったスフレ、ドラゴンのシッポやらタマゴなどを挟んだサンド一致のひとつにかじりつくと、お金は持っているの? と質問する。
「お金……」
白い皿に入っている温かそうなスープを飲もうとしていた悠は一瞬口を開きかけた。サイフの中には4000円くらいあるとポケットから財布を取り出すようなアクションになりかけた。しかしよくよく考えると絶対その4000円がここで使えるとは思えないので、無いよと言うしかない。
「行く場所がなくてお金もなかったらどうするの?」
「えっと……どうしよう」
「じゃぁ、とりあえずここに身を置く?」
「え、でもそれは悪いような気が……」
「わたしは困っている人を見捨てられない。とはいえ悠の分まで稼ぐのはちょっときついから、悠もいっしょにドラゴンのシッポ狩りをやって。シッポはいい値段で売れるんだよ。その稼ぎの半分をわたしにちょうだい。そうしたら2人分のやりくりができるし、残りの半分は悠が自由に使えばいいってことで」
「しばらくいてもいいの?」
「いいよ、正直言うと……」
「なに?」
「ひとり暮らしはたまにさみしいという気がするから」
「そ、そう……でもひとり暮らししているスフレはえらいよね」
「べ、べ、べつに偉くはないよ」
スフレというのはかなり正直に感情が出るタイプらしく、動揺しながら手に持っていたサンドイッチをヒザの上に落としてしまったりする。そういう姿を見ると胸の左側がクッと心地よく萌えてしまう悠だった。そんな自分を隠すためにひとつ質問。
「で、ドラゴンのシッポ狩りってどういう風にすればいいの?」
「まずは女子力の実がある畑の近くをパトロール。ドラゴンも女子力の実がもらえるなら、少しはシッポをくれてやると思っているんだけど、すんなり渡すのは面白くないから戦ってシッポを切ってみやがれ! 的に思うわけだよ。だからわたしみたいに剣が扱えてドラゴンと戦えるのが条件になるんだけど、悠だったらだいじょうぶだね、昨日の戦いを見たらそう思う」
「つまり、ドラゴンが畑に来たら戦闘開始と?」
「ちがうよ、ドラゴンが自分の分として食べる分には黙認。女子力の実をやらずにシッポだけ分捕るのはあくどいし、そういう事をすると戦争みたいになっちゃうから、持ちつ持たれつという関係がずっと続いているの」
「じゃぁ戦闘の合図っていうのは?」
「ドラゴンが女子力の実を多めに持ち帰ろうとしたとき」
「持ち帰る?」
「ドラゴンポシェットとか身に着けていて、そこに突っ込んで持ち帰ろうとする。ギュウギュウ詰めっていうのが見えたら注意して戦闘するわけ」
「ドラゴンに負けるとかそういう話ってある?」
「ドラゴンもあんまり相手が弱いとかだったら、こんなやつにシッポをくれてやるのはイヤだって腹を立てるから、戦闘力の低い人が挑むと焼かれてバーベキューにされる事はあるかもしれない」
「バーベキュー……」
「悠だったらだいじょうぶだとは思うけど、油断とか相手を甘く見るとかしないように。わたしは人間のバーベキューなんか見たくないし」
「ぼ、ぼくも焼かれる趣味はないです……」
とまぁ、こんな会話を交わして朝食を終えたら、2人は早速とばかりシッポ狩りに出向くことにした。
「けっこう遠いけど、だいじょうぶ?」
手に入れたシッポを入れるためのカゴを背中にして歩くスフレ。
「全然、体力には思いっきり自信がある」
悠もでっかいカゴを背負って歩ているが、誰より自分が自分の体力におどろかされる。前世と無限みたいな体力は使っても全然減らない。その事に本みたいなタイトルをつけるとすれば、「体力ATMみたいな自分が異世界で活躍してもいいですか?」 にしようかなぁと思う悠だった。
(すげぇ……全然疲れない)
町外れから山方面に向かって歩く道は全体としてヒルクライムが多い。スフレと色々会話しながら2時間くらい歩いたが、いまの悠はまったく物足りない。早く暴れたいとウズウズさえする。
「悠って体力あるんだね」
「まぁね」
「で、どこからやってきた人?」
「えっと……ニホンとかいうところ」
「ニホン? 全然聞いた事ないなぁ。で、なんかやっていたの? 体力とかつよさが身に付くような事」
ここで悠、すべては神さまみたいな存在からもらいました! と言うかどうか悩んだ。となりを歩くスフレは自分にちょい興味を持っているみたいに見えるし、正直めっちゃかわいいから良い格好をしたくなる。かっこうよく振舞いたい願望というのは、死のうが死ぬまいが男ってやつは……って事らしい。
「いや、ぼくは別に何もしていないよ」
「えぇ、ほんとうに? わたしだってけっこう色々がんばってやってきたんだけどなぁ」
「ふっ、男っていうのは生まれた時からつよいのさ」
「えぇ、なんかそれってずるくない?」
「そ、そんなことはないよ。だって……」
「だって? なに?」
「男は女の子を守るための存在。男は女の子のためにがんばる。そのために男は生まれた時からつよいんだよ」
前世ではとても人前で言えなかったセリフを言ってみた。ちょっとハズしたかな? なんて不安になったりもした。しかしそれを聞いたスフレは立ち止まり、クッと悠に赤い顔を見せる。あぁかわいい……なんて事は心の中で言うにする悠。
「な、なんだろう……い、いまの悠のセリフ……なんかこう、胸にズキュンと来た。なんでかわたし男っていうのにイチイチドキドキさせられる。自分がおかしくなったような気がしてちょっと恥ずかしいかもしれない。ね、ねぇ悠……」
「は、はい……」
「なんかわたしに変な魔法とかかけたりしてない?」
「し、してないよ、そんな魔法とか持ってないし」
「んぅ……だったらわたしが何かおかしいって事なのか」
ふぅっとため息を落としてから再び歩き出すスフレを横目で見る悠はホクホクしまくりだった。前世では想像することも難しかったモテる男専用の快感を胸に味わいながら、フェロモン1000倍にしてくれたカステラに心より感謝するのだった。
アルファポリスで連載中小説、よろしくヽ(・∀・)ノ
息吹アシスタント(息吹という名の援護人)
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