第一・同窓会から逃亡、そして死亡
第一・同窓会から逃亡、そして死亡
ここはとあるファミレス。時刻は20時をちょい回った所で、にぎやかさとか楽しさはまだまだ終わらないってフンイキが、とあるスペースには活気と共に満ち溢れる。何テーブルかに分かれて座っている18歳の少年とか少女たちは、中学3年生頃には同級生だった。そして今宵は同窓会という名を利用して久々に会っているというわけだった。
(はぁ……)
窓際のテーブルで窓側に座っている内藤悠は正直浮かなかった。というか、ハッキリ言えば楽しくないと思っていた。悠は一見ふつうの少年っぽいし問題は少なめ。しかし人間関係があまり得意ではない。積極的に前へ出てみたいと思いながら後ろに下がるタイプ。だから自分を変えてみたいとか思って参加してみたのに、1時間もするとにぎやかな同窓会においてけっこうな孤独に胸を突かれる。
「え、おまえ彼女とかできたのか?」
「え、ほんとうに? だったら教えてよ」
「どうしようかなぁ、聞きたい? 聞きたい? だったら教えちゃうよ!」
悠を除く3人がとっても話に盛り上がっている。というより、悠に言わせれば色気の話ばかりでうんざり。それは悠が同級生たちに抱く不思議の一つでもあった。あの頃から4年ほど経過すると、ほぼすべての男女が肉食みたいに色気話を好むのか。中学3年の時はそんな感じではなかったはずだ! と悠は思いながら黙る。
「なぁ悠、おまえもそろそろ何かしゃべれ」
「そうよ、聞いてばかりとか度が過ぎているよ」
「彼女がいないならさ、同級生の女で誰が好みかくらい言ってみろ」
3人、内訳すれば2人の男子とひとりの女子が悠を見てニンマリ。おまえもたのしめよって笑顔で誘う。
「えっと……」
全然しゃべらないせいで悠のデザートであるプリンパフェだけはあっという間にすっからかん。つまり食べるふりして語らないという演技がとてもやりにくくなってしまった。だったら思い切ってみようか? って胸の内にちょっと勢いが沸いてきた。
ただいま予備校生たる悠が内情で好みと思う女子というのは、ショートヘアーが似合っていてふっくらな輪郭でバストが豊かな巨乳とかいうモノ。そういう女の子が好みだって、言うくらいならいいよな? 言っちゃえ! と自ら自分の背中をガンガンつよく押してみたりする。
「ぼくの好みっていうのは……」
悠が今まさにしゃべろうとしたので、3人は興味津々な顔を崩さない。この3人に言わせるなら、どういう女子が好みか言うくらいで恥ずかしがるんじゃねぇ! であった。しかし悠は恥ずかしさに打ち負かされてしまった。
「あ、ごめん、電話……ちょっとごめん」
イスにかけている上着のポケットに手を当てスマホを取り出す。ハッキリ言って少々わざとらしい演技ではあったが、この場から逃亡するにはベストな手。
「悠って相変わらず根暗だよなぁ」
「見た目はふつうにいい感じなのにね」
「あいつ、あれだと彼女とか絶対にできないな」
こんな風に少しは悠を気遣ったものの、次の瞬間には笑顔で別の話題に切り替える3人だった。
「あぁ~面倒くさい。昔の話なんかしたっておもしろくないし、彼女は? 好きな女の子は? 彼女がいないんだったら紹介しようか? とか、そんな話ばっかり耳に入るのもうんざり。みんな中学のときは純情とか思っていたけど、18歳になったら男も女もエロい奴ばっかりじゃん」
トイレに入って小さな声でぼやいた悠、これはもう帰るしかないねと結論付けた。予定ではこのあとにカラオケというのがあるが、もう一抜けしようと悠はつよく決心。悠は昔から後ろ向きの決断はがっちりやる男子だった。
「ごめん、ぼく帰るよ」
座席に戻るやいなやすぐ上着をイスから引っ張り上げる悠。家から電話があって帰らなきゃいけなくなったという、王道めいたウソで同窓会の離脱を表明。サイフを取り出すと自分が食べた食事とデザートの分だということで、おつりは要らないということで2500円をテーブルに置く。
「じゃぁ、これで」
自分のテーブルにいた3人にそう言うと、盛り上がっている他のテーブルには特に挨拶もせずそそくさレジに行く悠だった。
「ふぅ……」
支払いを終えてドアを開けるとカランカランって音がなり、そのドアが閉まると今度は道路を走る車の音や空気の静けさみたいなモノが悠を包む。
「離脱しちゃった……」
階段を下りて地上に両足をつけた悠、自分がやった事を少しばかり後悔はした。こんな事をしていたら前向きにはなれないよなぁと思ってみたり、だからといってここで引き返したらただのバカだよねと胸をキュッと苦しくさせたりする。
「まぁ……いいや」
昔から変わらぬ「まぁ……いいや」 というセリフでの締めが出た。まだ18歳、青春なんて20歳になってからでも間に合うだろうと開き直り、夜の道を自宅方向に向かって歩き出す。
「帰ったら……恋愛シュミレーションゲームでもやるか」
誰に聞かれる心配もないのでそうつぶやいたとき、ふと前を見ておどろいた。信号が赤色になったというのに、スマホ片手にしている女性が平然とわたり始めたのだ。気が付かないのかもしれないが、あまりに露骨っぽくすごい姿に見える。
「あぶないですよ!」
さすがにだまっていられないので20代後半くらいであろう女性に声をかけた。すると女性はスマホ片手に立ち止まって悠の方へ振り向く。そこにけっこうなスピードの車が近づいてくる。
―あぶないー
いったい何が悠の背中を押したというのだろう。いつもなら注意するだけで猛烈なダッシュなんて行動に踏み出せない方が多いのに、このときは正義のランナーとばかり駆け出していた。
「あぶない!」
悠は女性を軽く突き飛ばした。しかしその代わりとして勢いよく走って来た、一説によれば事故率の高い青色という車に求愛されんがごとく衝突する。
「あぅ!!」
ドン! と大きな音がして悠が吹っ飛ばされた。ただ不幸中の幸いだったのは、悠の体が横にそれた事である。もしそうでなかったら急には止まれない車のタイヤに体もしくは頭を引かれていたかもしれない。
ガン! 固いアスファルトに転がる時、受け身を取るなんてすばらしい事ができるはずはない。だから最後の方で悠は後頭部をつめたいアスファルトに強打。そして仰向け大の字になると、ほんの一瞬ものすごい感情に包まれた。
(今日って同窓会の日だと思っていたけど……今日はぼくの命日だったのか。こんな風になるとわかっていたら……もっと積極的に最後まで同窓会を楽しんでおけばよかった。一回、一回くらい……女の子と親しくなったりしてみたかったなぁ……)
すさまじい濃度のさみしさが沸き上がったものの、それと並行しておそろしい意識の終焉が悠を暗闇に引っ張り込む。
「きみ、だいじょうか!」
停車した車から40代くらいの男性が下りて悠に駆け寄る。だが後頭部からジワーっと赤い血を出し周囲に広げる悠の両目は、スーッときれいに閉じられていくのだった。そして最後に悠はこう思った、死にたくないよぉ……と。
「息吹アシスタント」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/861687667/369533042
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