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青春(てんし)はエンゲル係数と共に。  作者: しめ鯖ルイ
第一天:青春(てんし)は突然やってくる。
9/10

青春は学祭と共に

ちょっと長編始まるかも

エピソード8 〰青春は学祭と共に〰



良くある話だが古く寂れたアパートは湿気も多い上に日当たりが悪い。

現代では開発も進みアパートよりも高く設計された一軒家やマンションが立ち並ぶからだ。

だが隣が神社のため幸秀の住むアパートでは日光が良く当たる。


そんな部屋では朝の日差しによって眠りから目覚める。

朝は6時程であり早めに起きて勉強などに有効活用する。


これが幸秀の日常"だった"。

そして――


「う~ん・・幸秀くんもう朝ですか~?」


「・・・一応まだ少し時間はあるけど起きた方が健康的だ」


「朝ご飯作ってくれたら起きます」


「・・・お前僕が料理できないの知ってるだろ」


この様に最近では一人の少女の来訪によって生活は変わった。

とは言っても天子が来てから3週間程になるのだ。流石に少しは慣れてきた。


天子が来た日が最も激動の一日だった。

その日は朝から晩までかなり騒がしくなったのは言うまでもない。


最近では騒いでいた学校のクラスメイトも落ち着きを取り戻している。

アルバイトも僕と一緒に経験し、かなり慣れてきたみたいだ。

≪ただバイト代は基本食費に消えるているけど・・≫


今では見慣れたとはいえ天子はよく食べる。朝昼晩きちんと3食は勿論、時間とお金さえあれば甘い物を食べているのを目にする。


正直貧乏人の幸秀にとって食事は必要分を除けば嗜好品だ。デザートを食べたくなる気持ちは分かるが掃除用具や衣服など最低限の生活必需品にバイト代を使いたい。安いが家賃や他にいる費用もある。


そして最近加わったルーティンとして――


「おっは~ユキ、天子ちゃん!二人とも起きてる~?」

「っ!!朝ご飯さん!!玲奈作ってくれるの待ってました!!」

「おい天子よ腹が減りすぎて逆になってるぞ」


玲奈が家に良く来るようになった。

玲奈だけではない光莉もだ。和弘は大変鬱陶しいので追い返している。


「あはは~天子ちゃんちょっと待っててね~、あっ!それと今日も襲われてない?大丈夫?」

「幸秀くんは驚くほど何もしてこないです。病気でしょうか?」

「ま~ね・・・ユキは頭が普通じゃないから」


・・僕の扱いがひどい。普通なら褒められるくらいじゃないか?


「勝手に人を病人扱いするな。逆に聞くけど僕は毎晩襲えばいいのか?」

「あはは~面白いこと言うねユキく~ん」

「・・・」


口では笑っているが目が笑ってない玲奈。

正直男子高校生としての好奇心で聞いた事を後悔するレベルだ。


「じょ、冗談だ!いくらなんでも天子にそんな事しない!」・・・多分

「まぁ私もマジににユキが天子ちゃんにするとは思ってないよ」

「そうなんですね〜安心です」


僕も男だ。正直に言うと興味はゼロではない。

しかし付き合ってもいない男女が――というのは許せない。


「ふふっ住まわせて頂く身なので襲われても何も言えないな~って思ってました」

「・・・」

「・・・」


コイツはわざとらしく言うので絶対分かって言っている。悪魔か!

しかも玲奈が睨んでくるのでかなり怖い。

≪ギャルが睨むとかなり怖いな・・・≫


「そんな事言ってないで支度するぞ!」


布団を片付けて机を出す。折り畳みはこういう時軽くて便利だ。

玲奈は僕の家では珍しく食材が入るようになった冷蔵庫を開けている。


「ユキ~朝ご飯作るから食材と台所使うね」

「おー!ありがとう」


律儀に毎回確認してくる幼馴染に感謝を述べて幸秀も学校へ行く準備を始めた。





\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\



朝は登校中のいつもの通学路で揃い学校に入り3階の教室へ向かう。

僕は和弘と並んで天子と玲奈は前を歩いている形だ。


「・・・今のところ大丈夫そうだな」


周りを見渡して不審な人間がいないか確認する。

別に大丈夫だと思うが念のためだ。


「ああ。だけど天子ちゃんも大変だよな~。変態共がそこら中にいるなんてさ」

「お前が言うと真実味が違うな」

「いやマジでヒデがいない時は大変だったぞ!!」

「・・・そうだったな」


軽く2日程前までは他クラスや別学年の人がかなり集まって大変であった。

勿論転校生である天子の噂を聞きつけて、だ。

その大半の生徒は一目見たい、一度話したいという好奇心だったが部活勧誘や遊びの誘いに来たものもいた。


しかし幸秀が天子と別々に登校してた時に限って連絡先を聞いたり中には玉砕で告白する輩が現れたくらいだ。


しかし―――だ。

別にそれくらいは幸秀としてはいい。

むしろ彼氏ができて天子が幸せならいいと思っている。でも――


「告白のLIMEが僕のところに来るのは勘弁してほしい・・・」


天子は携帯を所持していない。

その結果連絡先は僕のスマホだ。

野郎共から贈られる愛の言葉への返信も僕だ。


「何が悲しくて男同士で愛のメッセージのやり取りをするんだ」

「俺への返信は"死ね"だったけどな」

「当たり前だろ!!」

「ひどいわ!!あてしヒデの事、とぅきだったのにぃ!!」


こんな馬鹿までいるので天子への接触を見張ってるわけだ。

天子にスマホについて一度それとなく聞いてみたが「幸秀くんと離れるつもりはないので要らないです」と断られてしまった。


今日は何も起こらない事に感謝しつつ教室に入る。

愛するは日常だ。平凡な毎日が大好きだ。ナンバーワンだ。


「入江くんお願いがあるの!!!」

「入江マジでお前に頼みたい!!」

「・・・・・・・・」


何度も言うようで悪いが僕は刺激ある日常は求めていない。

    



「学祭のほぼ全・・種目・・・だ・・と」

「ソーマ先生とも話し合ったんだけどさ入江しかいないんだよ」

「私からもお願い!一番適任なのは入江くんなの」

「いや頼まれても運動部じゃないし流石に――」

「いやすまないね~。僕ら生徒会としても今回は入江君に出て頂かないと困るんだ」


教室に入って早々面倒事だと思ったら現在の状況だ。

二人はクラスの委員長だがもう一人は見知らぬ顔だ。

天子の事で忘れていたがこの学校にはこの頃から体育祭・文化祭・テスト勉学期間を含めたイベントがありその内の体育祭がもう1週間後だった。


「というか全種目っていうのはどうなんだ。もっと他にいるだろ?」

「・・・例えばバスケ部の白子くんや水神くんはどうだ?アイツら絶対活躍できるぞ」


部活動が忙しいらしく話す機会はないが元両隣の二人はよく覚えている。

あの二人であれば誰が相手でも勝てるだろう。


「運動部はそれぞれの競技があるしバスケ部の二人は今アメリカよ」

「それはもう高校バスケのレベルを超えてるだろ・・・」

「お願い入江くん~このクラスのピンチなの!!」

「別に皆で頑張った結果負けなら仕方なくないか?」

「それは・・・・そうだけど・・・」


運動部でもない僕一人が、というのは何か違うと思う。

勝つためにクラスの一員として頑張るつもりだが流石にこれは嫌な事を押し付けられている気しかしない。そう思っていると生徒会を名乗る男が話し始めた。


「そういう訳にはいかなくなったんだ。すまない遅くなったね自己紹介させていただくよ。僕は同学年の新生徒会長の|物集女≪もずめ≫と言う。」

「新生徒会長ですか?」

「ああ、9月末から元生徒会長から引き継いだ。生徒会は10月から2年と新1年だけなんだ。」


確かに受験シーズンはもう来ている。3年生はそっちに集中したいだろうし交代の時期なのは間違いないだろう。


「はあ、大変な時期にご苦労様です。それでその生徒会と今回が何の関係があるんですか?」

「今日は6限が学祭準備期間になってる。その時間に生徒会室にきてくれ。そこで説明する」

「・・・わかりました。それで委員長達も構わないか?」


大きく頷く委員長たちを見てひとまず終わりだ。

席に着くと早速天子と玲奈が僕の方に話を聞きに来た。


「ユキ~ちょっち疲れた顔してるけど大丈夫?」

「この感じだと大丈夫ではないな・・・」

「幸秀くんさっきの話私も着いていっていいですか?」

「え?あー知らないけどいいんじゃないか?」

「じゃあ後から私は行きますね」

「まじでこんな時こそ光莉ちゃんがいたらね~」

「まあいないものはしょうがない。6限目まで待つよ」


光莉はちょっとした用事で昨日から学校を休んでいる。

理由があり学校に申請はしてるらしく3日ほどと言っていたので大したことじゃないだろう。

あまり考えても仕方がないので6限までは普通に授業を受けた。




                         ・




いつも通りの生徒会相談室・・・もとい生徒会室だ。

僕も鍵を持っているので使うときがあるが基本的には先生や生徒会の人間しか使ってはいけない。

そんな部屋では生徒会長の物集女くんに他のメンバーが一通り。

僕は「失礼します」と言って用意された会議用の椅子に座った。


「すまない入江君。来てくれてありがとう」

「いえ大丈夫です。それでどんな話ですか?」

「今回の体育祭の話だよ。是非お願いしたいことがあるんだ」

「全種目ってやつですか。でも生徒会がなんで――」


生徒会は生徒の代表であるが今回僕が出て得するのは2-7つまり僕のクラスだけだ。

生徒会が動いてまで頼む理由などないはずだ。


「それはお前が椰子内さんや天子さんと一緒にいるからだ!!」

「お前はっ!!・・・誰だ・・・」

「剛田だ!!ラグビー部の!前踏み台にしただろ!はあ、俺も今は生徒会役員なんだよ」

「・・・それで天子達がどういう事なんだ?」

「入江くんそれは僕が話すよ。といううのも実は生徒会にもクレームがあったんだ。」

「クレームですか?」


ああ、と答えた生徒会長が語るのは要するにこうらしい。


天子や玲奈、光莉までかなりモテるらしく今まで告白する者が多かったらしい。

しかし最近では三人常に一緒にいる上、鬱陶しいのでまとめて男共の告白などを僕が止めていた。

付き合っているならまだしもそうではない奴が間に入ってきた――さらに告白できても流される上に3人全員とも幸秀の名前が出た事でより反感を買ったという。


いやそれって―――

「逆恨みじゃないですか・・・」

「ハハハ、まあ確かにね。流れで告白したり遊びでする生徒が多かったのは僕らも知ってるんだ」

「じゃあ何でですか?」

「実はそれで男子生徒の署名が集まってね、本人に言わずに僕らや委員長に申し立てた訳だ」

「そんな事する労力があったら本人に言えばいいのに・・・」

「まあここまで来たら生徒代表として何か入江くんに言わなければならないけど――」


生徒会長は困った顔からにっこりと笑顔になり楽しそうに幸秀に提案する。


「体育祭で勝負させて実況すれば盛り上がるし一石二鳥かなって思ってね!」

「結局僕が損するだけじゃないですか!!」

「入江くんが凄い運動できるって剛田君から聞いてるよ?」

「金がかかりそうだったから必死な事に必死なだけです」

「後は勝敗を予想させれば――」

「それは賭博だろ!!盛り上がるの意味が違う!燃え上がるの間違いだ!」


≪つまり生徒会として盛り上げたいので丁度良く利用しようって事か≫

しかし委員長達には悪いが全種目は嫌だ。

今更だが僕は子供時代から目立つのは好きではない。


「大体一人で体育祭全種目は間違ってるし体がもた――」

「まあそういうと思ったから今回対価を用意したよ!!」

「――な・・・すみませんもう一度お願いします。」

「ああ、折角盛り上げてくれる御仁に何も渡さないのは失礼だからね!参加してくれたら幸秀くんには特別なお詫びを支払うし男子のMVPになれば特別に景品を出すつもりだよ」

「ち、ちなみにどんな?」

「う~ん全校生徒向けだからMVP景品は悩んでるんだよね~ただ参加報酬は学食の全メニュー30日無料券かな」

「あばばばばばば、ま、マジですか!!」

「あ~でも残念だな~。入江くん出たくないのか~、そっか~」


≪なんて言ったこの人?30食じゃないよな!?30日!?≫

何ていう事だ。安い学食だが僕には妖怪が憑いているため毎日の出費が激しい。

それが30日、食べ放題。バイト代を考えれば貯金できるぞ!!


「じゃあこの話はなかったこt―――」

「や――ます」

「んー気のせいかな~?入江くん何か言った?」

「全力でやらせて頂きますっ!!生徒カイチョウサマ!!」

「ホントかい!いや~入江くんならそう言ってくれると信じていたよ!嬉しいなぁ」


なんていい人なんだろう。

こんないい人の頼みを断ろうとする奴なんて信じられない奴だ。


「じゃあ急ぎの校内放送で種目公表するから入江くんが出る種目をきめよっか?」

「はい喜んで!」

「こいつ現金すぎるだろ・・・」

「委員長が着いてくる意味なかったわね」

「何を言う。僕のプライドはピサの斜塔より高く設計されてるんだぞ」

「傾いてんじゃねーか!!高くしたらぜってぇ折れてるだろ!!」


こうして決まった体育祭だが100メートル走などは免除してくれるらしい。

合同リレー全般と特殊科目全般だそうだ。

正直全男子との対決・・などではなくて安心だ。

そう思っていると他の皆で話が続いている。


「ところで物集女生徒会長、うちにMVP報酬なんてあったんですね」

「ああ僕が勝手に決めたんだけど、ただ全男子が喜びそうなものって難しくてね」

「ええ!?私も聞いたことなかったけどどうするんですか?」

「今いる男子諸君は何が欲しい?」

「金」

「入江お前な!といっても俺も思いつかんな」

「はいはい!おれ!俺は可愛い女の子の手作り弁当がいいです!!」

「なるほど・・・」


確かにどれもかなり現実的じゃなさそうだ。

≪全校生徒用なら食券とかがいいんじゃないだろうか?≫


そう思っていると一人の少女の声がする―――


「ふふっ話は聞かせてもらいました!!」


突然ドアが開き入ってきたのはどや顔の天子。

皆が呆気にとられる中で堂々と歩きだして話し出す。


「生徒会長さん!MVP報酬でも盛り上げたくないですか!?」

「えっ?あ~まあそうだね~折角だから皆が喜ぶものにしたいかな~」

「なら私にいい考えがあります!!」


完全に嫌な予感がする。

この自信に溢れる天子の表情だがこういう時に爆弾が落ちるのだ。


「MVP商品は私とデートする権利ですっ!!」









【ピンポンパンポーン】

「6限目の相談中に失礼します。2年生徒会長の物集女です」

「今回体育祭にて男女共にMVP景品を設けることになりました。」

「そして男子生徒は少しトラブルがあったため入江幸秀くんと"クラスの女子生徒"のご協力を頂き勝負の場を設けさせていただきます。理事長の許可も頂きました。」


放送室の窓からでも手を止めて真剣に聞いている姿が見える。


「入江くんの参加種目は後程張り出します。この競技で最も入江くんに勝てた人がMVPです」

「そして勝てなかったら今ある男子の署名は処分します。勝負できない人の申し立ては単なる嫌がらせとみなし受け付けません」


ここからでもざわめきが聞こえる。

ふざけるなという声もあるようだがこの生徒会長は本当に色々と上手い人だ。

今回は結局絶対損しないのはこの生徒会長だけだろう。

分かっているがここで僕も引くつもりはない。


「そして勝った時のMVP景品は―――」



入江天子さん


椰子内玲奈さん


天下原光莉さん




「この三人からデートする権利を頂けることになりました」






エピソード8 ~青春は学祭と共に~

本日から長編です。


ここから畳みかけるつもりで頑張ります。


それではごきげんよう

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