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3.トイレを使ってみた

 ぼりぼりぼりぼり。


 これがラビットコレクションか? 旨いけど、ショップで食ってたやつと変わらんな。


 その日の夜、絵留はさっき言っていたペレットを、ケージに付属しているエサ入れに入れてくれた。

 五ミリ程度の、茶色い円筒形の物体だ。


 牧草が主食だとすれば、ペレットは副食と言える存在で、ショップにいた頃も、決まった量を毎日食べていた。


 ん?


 なんか、違うのが混じってるぞ。形はあんまり変わらんが、味と硬さが違う。


「気付いたかな? 君が今までショップで食べてた奴と、ラビコレを混ぜてあるんだよ」


 この、ちょっと柔らかめのやつが、ラビットコレクションだな。

 でも、なんでわざわざ、今までのと混ぜるんだ?


「急に餌を変えたら、驚くもんね。これから少しずつ、ラビコレの量を増やしていくね」


 なるほど、いきなり新しいペレットを食わせると、驚くと思ったわけか。

 気に入らなくて、食べない可能性もあるもんな。


 それで、少しずつラビコレに切り替えていくと。


 変態女にしては、よく考えている。


 絵留は、俺がちゃんと食べているのを確認すると、部屋を出て行った。





 電気が消されて、部屋は真っ暗闇になった。


 俺にとっては、そのほうがありがたい。

 気分が落ち着くのだ。


 バタン、バタン、バタン。


 俺はケージ内で、円を描くように走り回った。

 ショップにいたころよりも、大きなケージなので、スペースが多いのだ。


 ウサギは本来、夜行性の動物だ。

 新しい環境で興奮していることもあって、あまり眠くはない。


 たしか、サイレンススズカという競走馬は、狭い馬房の中でグルグル回る癖があったそうだ。


 俺も、馬に(なら)ったわけではないが、ケージ内で走り回っている。


 だが、かなり大きな音が出ていたようだ。


 何があったのかと心配した絵留がやってきて、部屋の電気をつけた。


「どうしたの、ビグウィグ! 暴れたりして!」


 そして俺を見て、何やらひとり合点した。


「そうだよね、いきなり知らない場所に連れて来られて、不安で寂しいよね」


 そう言って、部屋を出て行くと、布団をかかえて戻ってきた。


「今日から私も、この部屋で寝ることにするね。大丈夫、私が一緒だよ」


 そして、俺のケージの前に布団を敷き、電気を消して横になった。


 いや、俺は誰もいないほうが、気楽でよかったんだが。


 さすがに寝ている人間の前で、うるさく走り回るわけにもいかず、俺も寝ることにした。




 翌朝、なぜかまた、キャリーケースに入れられた。


「ごめん、ビグウィグ。しばらく我慢してね」


 絵留は、どうやらケージを掃除するつもりのようだ。


 まだ一日しか経ってないんだからいいのにな。


「うわっ、たくさん出てる!」


 絵留は楽しそうに声を上げた。


 俺の排泄物(はいせつぶつ)を見て、興奮しているようだ。さすが変態女だ。


 ケージの下部は金網になっていて、俺が糞尿(ふんにょう)をすると、下にあるトレーに落ちていく。

 トレーの中には糞尿がたまっているのだが、これを掃除するのはかなりの重労働だ。

 このケージはサイズが大きめなので、当然トレーも大きく、重い。


 変態女はトレーを抱えて、部屋を出て行った。

 どこかで洗ってくるのだろう。


 ケージ内にトイレを置いてくれりゃ、いいんだがな。

 俺だってトイレで出したいよ。



 掃除を終えた絵留が戻ってきた。

 見るからにへとへとになっている。


「お待たせ、ビグウィグ」


 再びケージが組み立てられ、俺は中に移された。


 絵留はよっぽど疲れたのか、仰向けに寝転んでしまった。


 先が思いやられるな、おい。


「うーん、まだ早いかもだけど、アレを入れてみよっかなあ。すぐには使ってくれないだろうけど」


 そう言うと、絵留は部屋を出て行き、ウサギ用のトイレを持って戻ってきた。


 あるんなら、最初から出せよ!


 トイレはプラスチック製で、三角形の形をしている。

 天板が金網になっていて、下に糞尿が落ちていく構造だ。


 絵留はトイレの中にトイレ砂を入れると、ケージの中に三角コーナーのように設置した。ケージとはフックで固定されている。


「これが君のトイレだよ。ウンチやおしっこは、ここでしてね」


 ケージの扉を閉めると、続けて言った。


「でも、できなくても気にしなくていいよ。初めからトイレでできるなんて、思ってないから」


 バカにすんな!

 トイレぐらい使えるわ!


 俺は、すかさずトイレに乗り、糞を出した。


 コロン、コロン。


 直径一センチぐらいの丸い糞が、下に落ちていく。


 どんなもんじゃいっ!


 俺はドヤ顔をキメた。

 もっとも、人間の目には表情の変化はわからないだろうが。


 絵留の反応をうかがうと、何やら、目が点になっている。


「す、す、……」


 す?


「すごーーーい!!」


 え、いや、そこまで驚くようなことじゃ……。


 絵留はスマホを持ってきて、なんと動画の撮影を始めた。


「すごいよビグウィグ、天才だよ、君は! いきなりトイレを使えるなんて!」


 だから、大げさだと。


「この凄さを世界中の人に見てもらわないと! そのままウンチを出し続けてね」


 そして絵留は、とんでもないことを言った。


「後でyoutubeにアップロードするから」



 人間と動物の違いは、羞恥心(しゅうちしん)の有無と言っていいだろう。

 羞恥心を持つ動物など、存在しない。


 柴犬は、ケツの穴を(さら)したまま町を歩いて、恥じるところがない。

 人間に近い霊長類のチンパンジーでも、排泄行為を見られて恥ずかしがったりはしない。


 だが俺は、中身は人間なのである。

 うんこをしているところを全世界に公開されて、平常でいられるわけがない。


 俺はトイレを下りた。


「えっ、なんでやめちゃうの? もっと続けてよ」


 ふざけんな、この変態女!

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