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転生したらウサギだった件  作者: へびうさ


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18/20

18.イライラして足ダンした

 パチン。


 ダ――ン!


 パチン。


 ダ――ン!


「もう、ダンダンうるさいなあ。近所迷惑になるから、静かにしなさい」


 おまえこそ、何でわざわざ俺のケージの前で爪を切るんだよ!

 そのパチンパチンという音が不快なんだよ!



 ウサギはスタンピング(通称:足ダン)と呼ばれる行動をする。

 頭や体は動かさず、後ろ足をダン!と床に叩きつける動作だ。

 俺が今やっているのがそれだ。


 ウサギの足の力は強力なので、飼い主が驚くほど大きな音を立てることがある。

 このケージの床は金網なので、ダーーン!と、辺りに響き渡るほどデカイ音が出るのだ。


 なぜ足ダンをするのか?

 それはウサギに聞いてみなければわからない。


 一般的に言われているのは、危険を察知したときに仲間に教えるため、何か不愉快なことがあるため、飼い主にアピールしたいことがあるため、などの理由があるそうだ。


 俺の場合は、絵留が爪を切るパチンパチンという音が耳障りなのだ。

 だからイライラして、その音が聞こえるたびに足ダンしている。


 だが、絵留は俺の足ダンの意図を察することができず、トンチンカンな解釈をしてしまう。


「うさぎは何かを警戒している時に足ダンをするんだっけ。でも、特におかしなものは無いし、物音も聞こえないし……」


 そう言って辺りをキョロキョロと見回す。


「ひょっとして、この部屋に幽霊がいるの?」


 …………え?

 なんでそんな発想が出てくる?


「そっか、うさぎは人間には見えないものが見えるんだよね。それで私に危険を教えてくれてるんだね」


 俺は、自分のコミュニケーション下手がやるせなかった。

 ああ、言葉を話せたらなあ。

 そしたら、足ダンなんかせずに、「ここで爪を切るのをやめろ!」と言えば済むんだが。


 それにしても、こいつは時々バカになるな。いくらなんでも幽霊はないだろ。

 そんなものがいるわけがない。

 俺は自然科学の法則に反することは、一切信じないのだ。


 …………。

 ……。

 いやいや、それじゃあ俺の存在はどうなる。

 中身が人間のウサギなんて、幽霊以上にあり得ないだろ。


 そもそも、俺はいったい何者だ?


 俺はペットショップで絵留に初めて会った瞬間、前世で人間だったことを思い出した。

 だが、なぜ絵留に会ってからそれを思い出したんだろうか。

 それまでは、普通にウサギとして生きていたはずだ。

 絵留に会う前、ウサギとして生きていた頃のことも、ぼんやりとだが覚えているんだから。


 俺は人間として思考しているにもかかわらず、やってることは完全にウサギである。

 牧草は食うし、盲腸糞も食うし、時々毛づくろいせずにはいられないし、目を開けて寝るし……、

 いや、最近は目を閉じて寝てるな。もう、この環境にもすっかり慣れたから。


「でも大丈夫だよ、ビグウィグ」


 絵留は俺を安心させるように言う。


「この部屋に出る幽霊といえば、お父さんとお母さんしか考えられないから。だから、それは全然怖くない幽霊なの」


 たしか絵留の両親は、一年ほど前に交通事故で亡くなったんだったな。

 こいつは俺に対して弱気な姿は見せないが、その心の中には大きな悲しみを抱えているはずだ。


 こいつも大変だったよな。

 両親が死んで妹と二人っきりになってしまい、その妹はまだ高校生だったから、自分がしっかりしなければならなかったんだ。

 事故の後始末があったし、喪主として葬儀を取り仕切らねばならなかった。


 その後、心を閉ざし気味だった妹の心のケアには特に気を遣っていたな。

 とはいえ自分も仕事があったからあまり構ってやれないし、受験生である妹が勉強に集中できるように、静かな環境を用意してやる必要もあったし……。

 こいつだってつらかったはずなのに、その胸の奥の悲しみを必死で隠している様子が、見ていて痛々しかったな。


 ………………。

 …………。

 ……。

 ちょっと待て!!


 見ていて痛々しかったってなんだ!? 俺が見たことがあるはずはないだろ!?

 ここに来た時に両親が事故で死んだってことは聞かされたが、そこまで詳しい話を聞いてはいない。


 だが、今の俺の頭の中には、その頃の絵留の姿がまざまざと浮かんでいる。

 まるで、その目で見たことがあるかのように……。

 どこで見た……?

 以前に絵留に会ったことがあるのか…………?


 …………………………………………。


 ――ああ、そうか。


 ついに俺は、全てを思い出した。


 俺は、前世が人間で、ウサギに生まれ変わったんだと思っていたが、そうじゃない。

 人間だった俺は、死んだ後に成仏(じょうぶつ)できず、魂は現世に取り残されていた。

 この世に未練を残していたからだ。

 娘たちのことが心配だったんだ。

 だから、ずっと娘たちを見守っていたんだ。


 魂だけの存在となっていた俺は、ウサギの体に飛び込み、その肉体を得た。

 その時、そのウサギの魂と融合してしまった。

 結果、俺はウサギとしての性質を継承し、自分についての記憶は失ってしまっていたのだ。


 そこまでしても、俺は絵留に会いたかったんだ。



 ――だって俺は、絵留の父親だから。

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