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12.爪を切ってもらった

「ビグウィグ、お手」


 絵留がそう言って右手を、手のひらを上に向けて差し出してきた。


 また、意味不明なことを始めたぞ。

 俺は犬じゃないってばよ。


「うーん、やっぱり無理かなあ。動画のうさぎは、お手をしてたんだけどなあ」


 なるほど、お手をしているウサギの動画を見て、自分もやってみようと思ったわけか。


 お手ぐらいは、もちろんやろうと思えばできるのだが、意味のないことはしたくない。

 ウサギは犬ではないのだ。


 犬のお手にも、何の意味があるのかわからないが。



 ちなみにウサギは、犬ほどはっきりとではないが、仲間内で順位付けをする生き物だ。


 時には飼い主を下に見ている場合もあり、そんな時は抱っこを拒否したり、飼い主に対してマウンティング(交尾のように腰をカクカクする動作)をすることがある。


 俺は表向きは絵留に従っているが、自分の方が上位にいると思っている。

 だって、俺の方が賢いんだもん。


「お手が無理なら、握手しよう」


 絵留は無理やり俺の手(前足)を握ってきた。

 そして、楽しそうに手を振っている。


 はあ、こういうところが精神的に幼いんだよな。

 俺が守ってやらなきゃならんな。


「あっ、なんか爪が伸びてるね」


 そういえば、まだここに来てから爪を切ったことがなかったな。


「よし、爪切りをしよう。ちょっと待ってて」


 絵留は部屋を出て行った。


 絵留が切るのか?


 俺は不安になった。絵留はそんなに器用な方ではない。 

 動物病院かペットショップで切ってもらった方がいいんじゃないか?


「お待たせ」


 爪切りを持って戻ってきた。ニッパーのような形のやつだ。

 なぜかエプロンを身につけている。


「止血剤とガーゼも用意しといたから、安心してね」


 安心できねえ。


「さ、始めよう」


 絵留は正座をすると、片手で俺の背中の皮をガシッとつかんで持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。

 最近、この持ち方を覚えたようだ。痛くはないから、いいんだけど。


 俺は絵留に尻を向ける形で、膝の上に乗っている。

 絵留は俺の右前足を手に取った。


「えーっと、この白い部分を切ればいいんだよね」


 うさぎの爪には血が通っており、ピンク色になっている。そこを切れば、当然出血する。

 切るべきなのは、白く伸びた部分だ。


「うーん、よくわからないな」


 絵留は爪をよく見ようとして、後ろから覆いかぶさるように密着してきた。


 すると、彼女のあごが俺の頭にのった。

 この行為は、少々問題がある。


 ウサギは、あごに臭腺(しゅうせん)という匂いを出す器官があり、あごを身の回りの物にすりつけ、匂い付けをすることによって、縄張りや所有権を主張するのだ。


 また、あごをのせることには、上下関係を示す意味もある。

 上位の者が下位の者にあごをのせ、すりつけることによって、服従を要求しているわけだ。


 つまり今、絵留は俺に対して、「私はあなたより偉いのよ。従いなさい」と主張していることになる。


 なんたる屈辱か!


 だが、どうも抵抗する気がおきない。

 あごのせの効果が出ているのかもしれない。悔しい。


「ここだな」


 パチン。


 うまく切れたようだ。


 パチン。


「おー、私、爪切り上手いかも」


 俺がおとなしくしてやってるからだぞ。


「よし、次は後ろ足ね」


 絵留は慣れてきたのか、手際よくパチンパチンと切っていく。


「いやー、爪切りは難しいって聞いてたけど、思ったより簡単だなー」


 爪切りが難しいのは、うさぎが暴れるからである。

 こんなふうに体を固定していない状態で爪を切ろうとすれば、普通のウサギは逃げるだろう。


 だから、簡単に爪切りができているのは、俺のおかげだってことは、自覚した方がいいぞ。

 でないと、いつか別のうさぎの爪を切ろうとしたとき、慌てることになる。

 そんなことがあるかどうかは、わからないが。

 

「よし、終わり」


 絵留が手を離すと、俺はすぐさまケージに戻った。

 ここが一番安全な場所なのだ。


 絵留が近づいてきた。


 まだ、なんかあるのか?


「よく頑張ったね。はい、ご褒美だよ」


 ポケットから乾燥フルーツを取り出して、エサ入れに入れてくれた。


 なるほど、これからも爪切りを嫌がらないように、おやつで釣ろうというわけか。

 爪切りが終わるとおやつをもらえる、と学習させるのだ。


 もぐもぐ。

 うめえ。


 おやつを食っていて、俺は気付いた。


 やはり、どう考えても俺の方が絵留よりも順位が下なのだと。

これからは不定期の更新になります。

話を思いついたら投稿します。

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