<大空へ>
サマール王国の北部にあるラワンという町には空を飛ぶのにあこがれるフライドという青年がいた。ラワンとは北と東に海があり、南と西を山に囲まれた田舎の町であり、フライドはそこで漁師である父親とともに働き家族を支えていた。
「ふざけるな!いつまでこんなことやっているつもりだ」
ある家の扉から勢いよく吹っ飛ばされて出てきたのはフライドである。そして同じ扉から父親が出てくる頃には近所の住人も窓からその様子を見ていた。
原因はフライドが町はずれにある今は使われていない小屋で空を飛ぶための翼を作っていたことである。
「無駄なことはやめろ!人間が空を飛べるわけがないだろう!」
サマール王国、というよりこの世界のすべての人の意見をフライドの父親は代弁していた。この世界には鳥や竜がいて空と飛べるといってもそれは最初から神がそういった能力を与えたから飛べるのだという考えだったのだ。
ましてやこの世界には竜に乗って戦う竜騎士がいるとはいえ、それはあくまで竜の力によって空を飛んでいるのだ。一方フライドは道具によって人間の力だけで飛ぶというもので全く周りに理解してくれる者はいなかったのである。
「船が魚のように泳ぐか?馬車が馬のように走るか?違うだろう。たとえお前が空を飛ぶものを作ったとしても鳥のように飛ぶことはできないんだ」
「でも!」
「でもじゃない!」
二人の口論はフライドが家から閉め出されるということで終了した。そしてフライドは走って町はずれの小屋へと向かったのだった。
・・・・・
「おーい、起きろよ」
聞きなれた声にフライドが目を覚ますと、そこにはいつもの仲間たちがいた。町のはずれにある小さな小屋は街の人間、獣人を問わず子供たちの遊び場でもあるのだ。
「こんなところで寝て大丈夫なのか」
「ああ、親父とケンカしてな・・・」
フライドが小屋の外に出るとすでに辺りは明るくなっていて、周囲では顔見知りの子供たちが木に登ったり小屋の屋根に登ったりと思い思いの遊びをしている。それは騒がしいぐらいではしゃいでいるのだが、それは突如として静まり返った。
ブォォォ―――――
聞いたこともない重低音にその場にいた皆が音の方向を見る。白いそれはまるで翼を広げた鳥のような姿をしていて何か赤い丸がある。当然フライドたちに哨戒機なんていうものがわかるわけもない。
「人間が乗ってるぞ!」
そんな中、目のいい獣人の一人がそう叫ぶ。獣人ほどの視力がないフライドには見えないが、生き物でない何かが空を飛んでいるのだ。空を飛ぶことは決して不可能ではない、それを確信したフライドはその日見た謎の飛行物体を手本として空を飛ぶための道具を作っていく。