<再出発>
月のない真っ暗な空にいくつもの火山が星のように輝いている。いつもは昼間に太陽のように輝き、夜になると月のように輝く異世界の人々に光玉と呼ばれている中心部の玉は、三十日に一度、夜になると消えるのだ。
これが一体どういう現象なのかはわからないようだが、少なくともいつもは太陽や月の向こう側にある火山も見ることができるようになることから光を発さなくなるのではなく完全に消えるということがわかっている。
そして翌朝、夜にはなかった光玉は小さな玉として生まれ、いつもの大きさになる。
「日本がこの世界へと転移してから半年を迎え―――」
テレビでは転移半年の特別番組が組まれ、一日がかりで放送を行なっている。
転移半年で日本の混乱は収まってほぼ安定したといっていいほど落ち着いたものとなった。旧日本海の海底に石油があることがわかり現在では官民合同で作られた海上油田から石油を確保し、食料の確保は農地整備や所有者不明の土地、輸入や捕鯨船による大型のクジラのような海洋生物の狩りなどで賄っている。また、日本主導で友好国の農地を開拓・整備することによって輸入を強化する方針で外務省による協議が行なわれている。
そして、日本にとって幸運だったのはこの世界にも四季があるということだ。転移直後は地域によっては平年よりも気温が低かったりということはあったが、全体的に見れば農業への影響が最小限で済ますことができたのだ。
こうして日本は転移後の地盤固めに成功することができた。しかし、文化はともかくとして時代による価値観の相違は日本にとって最大の悩みとなる。この世界にはいまだに鎖国や統一されず戦国時代の地域があるうえ、戦争が正式な外交手段として存在しているのだ。
そして、日本は自分たちの存在がこの世界にどのような効果をもたらし、どのような変化をもたらしたのか、まだそのことに気が付いてはいなかった。
物語としてはこの異世界で再出発する目処がついたということで終わりになります。
これより後は、この作品を長く書くことにしていた時に考えた閑話になります。