<使節団>
外務省による異世界の国々の訪問は順調に進んでいた。サマール王国を初めとして十数か国と接触を図り、すでに数か国とは国交を結ぶことができている。しかし、これもまだごく少数の国と国交を結べたという状況でしかない。
これからもいくつかの国に使節団を派遣することが決まっており、直近では東にあるアメリ開拓国との国交開設を前提とした使節団の派遣が決定している。
事前の情報によればこの国は大陸の東側が発展した国家であり、最近になって西部の開拓がはじまったばかりの国だ。また開拓のために技術が進んだのかほかの国とは違い、唯一近代的な国家でもある。ほかの国が帆船を使用している中、外輪船という蒸気機関で水車を回して進む船を発明しており、技術という観点から言えば今まで接触した国の中では一番高く、急速に発展していくと考えられている国なのだ。
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アメリ開拓国の港町であるロサでは、多くの住民たちが日本の使節団が来るのを今か今かと待ち構えていた。彼らにとって他国の使節団がやってくるというのは大きな娯楽の一つであり、開拓に明け暮れる彼らにとっては最大の息抜きなのだ。
そのうえ自分たちが文明の頂点に立っている思っているならば、一体どんな未開の国の野蛮人たちが来るのだろうというのも楽しみの一つなのである。
「船が来たぞー」
灯台からそう声が聞こえると住民たちは一斉に歓声を上げ、教会は鐘を鳴らして船を迎え入れようとする。
しかし、先導する帆船の後ろにいるにも関わらず船全体がわかるほど大きい白い船、外務省がゴリ押しして護衛艦の代わりに派遣されることになった海上保安庁の巡視船を見て彼らは騒然となった。
「なんだあれは」
「あれはとんでもない船だぞ」
人々の中には日本のすごさをすぐさま見抜いてそう口走る者もいる。しかし、今の今まで自分たちは優れた文化を持ち、最も文明的なのだという考えを持っていた人間の中にはそう認められないものもいるのだ。
「ふざけるな!あんなのはハリボテに決まっている」
「そう見えるだけで我々のほうが文化的にも技術的にも優れているんだ!」
こういった事実を受け入れられない者たちは、自分たちこそが優秀なのだと思い込むことによって自身のプライドを保つことになる。
しかし、アメリ開拓国でこのような者はごく少数であった。ほとんどの国民は開拓魂にあふれており、ある商人は日本のものを売りさばいて金を稼ぎ、ある開拓民は開拓技術を取り入れてより大規模な開拓を、といった具合でそれぞれが一攫千金を夢見て日本への期待をもって迎え入れたのだった。