<外交の進展>
初めて異世界と接触した日本の外交は順調に進みだしていた。日本が突如として現れた国だというのは周知の事実であり、あんな燃え盛る陸地でも人間の生きることができる場所がわずかながらでもあるのだろうという勘違いがありつつもまともな外交を展開することができていたのだ。
そして、日本にとって最も助かったのは三日月島による他国の仲介である。多くの王族や貴族が滞在するこの島は様々な国とのパイプが太く、日本が外交の拠点とするには申し分なかった。
日本、というより外務省が最も気にしたのは海上自衛隊の護衛艦で各国を訪問することによって異世界の国々を刺激しないかということだ。異世界の人間にとってみれば護衛艦も巡視船も色以外違わないと思うだろうが、事なかれ主義で本来の仕事よりもどうでもいいことを気にするのが外務省なのだ。最終的に未知の海洋生物などを警戒した政府の意向で護衛艦を派遣することになり、この三日月島への派遣ということになった。
「外園さん。各国の外交団の到着予定がわかりました」
「おお!そうか」
外務省の外園は部下である浅野から書類を受け取るとゆっくりと目を通す。
「一時はどうなるかと思ったが、魔法で長距離通信ができるとはなあ」
「上の方もアポなしで護衛艦を乗りつけなくて済むって安心てるみたいです」
外務省は三日月島の全面的な協力のもと、他国の外交団を三日月島に呼び寄せて最初の接触を行ない、そこで日程を決めてから訪問するという方法で国交を結ぶことにした。これは各国の王族や貴族が三日月島に来る際に事前に予約するための出張所、日本で言う大使館を通して各国の外務担当に要請を出したものであり、外交団が三日月島で滞在する費用も日本政府が出すことになっている。
なぜこのようになったのかというと外務省が相手の国に直接護衛艦で乗り付けて刺激しないようにと決めたもので、三日月島としてはそもそも滞在する人があまりいない時期であったため、連絡の代行や外交団の滞在などを夏に比べればだいぶ安い費用で一括契約して受け入れることになったのだ。
コンコン
「はい」
外園と浅野がドアを見ると長い兎の耳をしたメイド服の獣人が入ってきた。
「外園様、浅野様、昼食の用意ができました」
「わかりました今行きます」
外園は食堂へ向かう途中、窓の外を見る。この島にはここ以外にもいくつもの館が存在しており、さすが各国の高貴な人間の滞在場所なだけあって立派な館が建てられている。
一応、ほかの滞在者は自分の従者などとともに来るらしいが外園はあくまで外務省の一職員でしかない。三日月島ではこういった時の対応も決まっているらしく、こういった場合は兎族の獣人が従者の足りない場合には裏方として働き、従者がいない場合には普通に従者として働くことになっているらしい。
それにしても・・・、外園は前を歩くメイドのうさ耳を見る。今頃本土にはこの島の獣人たちからなる使節団が派遣されており、多くの国民がわかりやすい異世界を感じているだろう。しかし国によっては獣人を迫害し、皆殺しにすることを国是としている国があるそうだ。少なくとも日本は獣人たちといい関係を築くことができるだろうが、そのような国とどう付き合っていくべきなのか・・・外園はそれを心配するのだった。