<三日月島>
四国から南に約800km、四国海盆海域の真ん中には三日月形をした面積20㎢ほどの小さな島があった。この島は様々な種族の獣人やドワーフ、エルフたちが暮らし、どの国や宗教からも独立している島だ。
そしてこの島の産業はただ一つ、この島の安全である。彼らはこの島に来るものに島での安全を保障し、島を一つの休養所として経営している。そのため、この島は夏になると多くの王族や貴族たちがこの島に大勢の従者たちを引き連れて休養をしに来るのだ。
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狼の獣人であるヴォルフは岬から一人、空を眺めていた。今は雲に覆われていて見えないが、数日前の空気が澄んだ日にそこへ謎の陸地が現れたのだ。もともと島に滞在している貴族は冬ということもあり少なかったのだが、今では陸地の出現ともに皆自分の国へ帰国してしまい誰も残っていない。
少なくとも陸地が現れるという異常事態に対応するため帰国したのは間違いないが、少なくとも地理的にこの島が一番近いというのも関係しているのだろう。今のところ何も問題は起きていないが何かあってからでは遅いのだ。警戒しておくに越したことはないだろう。
しかし、その時はすぐやってきた。
「あ、ヴォルフ団長」
「状況はどうだ」
「海防騎士団の帆船が向かっていますが、今のところ動きはありません」
数時間後、ヴォルフの姿は港にあった。部下と同じように鍛えられた筋肉をかたどったような逞しさを感じさせる鎧を身に纏い、頭には狼の造形美をそのまま残した兜を被って、その姿はまさに鉄の狼だ。
そしてその目線の先、島の沖合には数隻の帆船とともに大きな灰色の船がいる。ヴォルフにとってあの船が敵なのかそうでないのかはわからないが、それは重要なことではない。敵であれば戦うのみそれだけなのだ。
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突然現れた正体不明の相手に、三日月島の獣人たちは冷静に対応していた。
この島の者たちには種族ごとに割り当てられた役割がある。島の主戦力である狼族、島の諜報と防諜に当たる猫族、島にいる人間や獣人を問わず魔法による芸能を見せる狐族、そしてこの島を統治する兎族だ。これらの獣人たちは戦闘時には例外なく協力して戦い、このほかドワーフやエルフたちは武器の製作や景観の保全といったことをするが、今は子供などの非戦闘員を保護している。
元々この島は兎族が暮らしており、ほかの迫害されていた獣人たちを受け入れたのが今のこの島なのだ。つまりこの島は多くの獣人たちに恩のある島であり、最後の居場所でもある。そんな彼らの士気は高く、獣人たちは船の出現から数十分後にはいつでも戦えるように準備を終えていた。