<大空の大地>
もともともっと長い作品として書くつもりだったのですが、なかなか書けずできる限り短く書いたものになります。
また国ごと転移したという内容でありますが、自衛隊による無双や有事については書いていないのでどうかご理解ください。
一月一日、早朝。千葉県の灯台がある岬には初日の出を見ようと多くの人が集まっていた。まだ暗い空の下、毎年あるいつもの光景であり皆今か今かとその時を待ちわびている。
しかし、そんなとき突如として地震が発生した。地震の多い日本人でも大きいと感じるほどのものであり群衆の中には悲鳴を上げるものもいる。灯台以外周りに何もない状態で無意味にパニックを起こす人を鎮めるため数人の警察官が人ごみをかき分けて走る。
それからしばらくして、一部で起こったパニックが収まったのはまさに日の出の時間であった。真っ暗であった空が白く染まり始め多くの人が東の水平線へと目をやる。
「あれ、水平線どこだったっけ?」
「見えないよー」
多くの人が目を凝らしても初日の出を見ることができない。空は海との境目がわからないような濃い青色をしていて何人かは落胆していた。
だが、あたりが明るくなるにつれて多くの人がその違和感に気付く。太陽が見えないまま明るくなる空、なぜかありえない位置にある自分の影、ほかの人が空を見上げているなどそれに気が付く理由は様々であったが皆それに気が付いたのだ。水平線から出てくるはずの太陽がすでに昼間の如く高く上がり、青と白で彩られているはずの空が青と緑というあり得ない色の空となっているのを・・・。
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日本の出現はこの異世界の国々にとってもまさに青天の霹靂であった。神の怒りに触れ、その存在を消された大陸があるという神話が存在しているのだが、逆に海に突如として陸地が現れるなどありえなかったのだ。そして今では国や宗教など様々な思惑が入り乱れ、周辺国は資源の獲得や土地の開拓・奴隷化などを考え、宗教家たちも原住民の教化や奴隷化を考えて動き出している。
しかし、この状況を最も歓迎したのは冒険者たちだ。この世界には多くの冒険者がいてこの世界はすでに冒険しつくされているといって過言ではない。そのため今は毎日ギルドでの依頼や魔獣を狩ってその日暮らし生活がほとんどであり、そこに現れた新天地を逃すわけにはいかないのだ。
そして、そのためにはいかに早くあの土地につくのかが勝負になる。珍しいもの、たとえそうでなくても新天地のものというだけで高く取引されるが、ほかの冒険者が持ち帰ってくるほど安くなっていく。また、国の騎士団や聖騎士団たちの案内役となるときにも、いかにその土地に早く入って長くいるかが重要になるのだ。
こうして多くの人間が様々な考えを巡らせ、新天地を目指していた。しかし、それもその日の夜までの出来事だった。
「おお、あれは!?」
「神よ・・・」
「光り輝く龍・・・」
夜、多くの人が見上げる先には煌々と輝く日本列島があった。彼らは昼間見た陸地の形とほとんど変わらず輝くのを見て恐怖した。
この世界には太陽や星がなく、船乗りたちは昼間には空に見える陸地を目印として航海し、夜は星の代わりに地上で燃え続ける火山を目印として航海をする。そのため、誰もがその光景を燃え盛る炎だと信じて疑わなかったのだ。
朝は新天地として誰もが目指そうとしていた陸地も、夜には生物が住むことのできない燃え盛る死の土地として近づこうとする者はいなくなっていた。そしてその光り輝く日本列島は、陸地の形も相まって「光の龍」と船乗りたちだけでなく多くの人々に呼ばれることとなる。