買い物も満足に出来ないんですね
あずきさんは本当にクソニートだ。本当に私が学校に行ってる間に何もしていない。私が家に帰るとソファーで寝そべってテレビ見て笑っているあずきさんが待ち構える。本当にその姿を見るだけで私は落胆する。そして台所に行き冷蔵庫をチェックし、あずきさんの所へ。
「あずきさん」
「あっ! お帰り! 加音ちゃん」
あずきさんは自分の近くに来た私の方をチラッと見て手をひらひらと振る。
「……」
無言であずきさんをジト目で見つめる私に流石にいたたまれなくなったのかあずきさんは私に「なっ……なにか用かなぁ?」と苦笑いで聞いてきた。
「なにかな? じゃないですよ。あずきさん。私、今朝頼みましたよね? 家事が出来ないならとりあえず買い物くらいは行ってきてって」
「あっ……!」
あずきさんはやばい忘れてたと完全に表情に出ていた。だろうね。とりあえずあずきさんにメールを送っても一向に既読も付かなかったし。通知をOFFにしてやがるコイツと思ってたし? でもあずきさんには買い物メモも渡してるから大丈夫かなとか思った私がバカだったよ。本当に。
「買い物も満足に出来ないんですね」
「その加音ちゃんの冷ややかな視線が痛い!!」
まぁ、この人にこれ以上求めても無駄か。とりあえず買い物してこよう。という事であずきさんをガン無視でそのままスーパーへ買い物に行きました。本当に役に立たないクソヒモニートを置いて。
しばらくして家に帰るとクソヒモニートはテレビ付けたまま、ソファーの上で寝ていた。机の上のお菓子の残骸を見て、正直あずきさんを……殴ろうかと思ったのは秘密だ。
まぁ、怒ってもノーダメージなのは大変腹立たしいがわかっている事なのでそこで眠っているクソヒモニートは無視する。とりあえず台所で今日作る食材を出し、後の食材等は冷蔵庫に戻す。そしてとりあえず調理開始。料理が出来たらあずきさんを起こそうかなぁ。せっかくいい感じに寝てるし。
あずきさんを起こさずに料理して、出来上がったのであずきさんを起こす。するとあずきさんは机に並ぶ料理を目にして嬉しそうに目を細めていた。
「うわー! 美味しそう!!」
そう言って、あずきさんは「いただきます」をしてから食べて、次の瞬間の表情は真顔だった。それもそのはず、私は正直料理は得意ではない。1人暮らしに必要なそこだけが私には完全に欠けていた。
「……加音ちゃん」
「はい? どうかしましたか? あずきさん」
私は真顔のあずきさんが心なしかワナワナと震えている様な気がした。……本当に気がしただけだけど。
「料理はちゃんとレシピを見ているの?」
……へ? レシピ? あずきさんが意外にも怒らずに冷静にその事を聞いてきたから私はなんだから拍子抜けでマヌケな表情をしていたと思う。
「見てますよ?」
そう。私は真面目に料理する時はレシピを見ている。だってただでさえヘタクソなのだから見ないと作るの大変だし。
「勝手に味をアレンジは?」
勝手にアレンジ? あずきさんからそう聞かれ私は正直にアレンジかどうかわからないけどと前置きをして「持ってない材料や調味料はよく代用品を使いますよ?」と答えた。だって私的にはアレンジとかしてる気はないんだけどなぁ。
「それだ!! それだよ!! 加音ちゃん!!!!」
あずきさんはビシッと私に指を指す。何がそれだよなんだ? 私が訳分からずに戸惑っているとあずきさんはフッと笑った。
「だって加音ちゃんの作った料理って、まず普通の料理じゃないしだいたいなんでフランス料理の本見ながら作ってんの!? 料理が苦手な人間がいきなりこんなの作れる訳ないじゃない!! 後、そりゃない材料もあるよ!! 日本の料理じゃないもの!!」
……ごもっともです。私的にはフランス料理が作れる人、カッコイイと思い込んで作っていた。こればっかりは弁解の余地もない。
「……まぁ、加音ちゃんにも苦手な事も有るだろうし。居候のヒモニートだからこれ以上は言わないよ。だから、料理だけは私得意だから今度から教えてあげるよ」
こう言っては何だけど意外だ。他の事はからっきしダメなあずきさんが料理が得意だなんて。
あずきさんの言葉は本当だった様で、次の日あずきさんに料理を任せてみたら本当に美味しかった。普通の肉じゃがとかサラダとか久しぶりに食べた気がする。
あずきさんに今度、料理を教えて貰おう。私は普通の料理も美味しく作れないし。
「ねぇ? 加音! 最近なんだか忙しそうだよねー。付き合い悪いぞー」
教室で自分の教科書とノートを揃えていると前の席の友達。三澤知佳が暇そうに話しかけてきた。本当にコイツの頭の中は遊ぶ事しかないのかちくしょうめ。
「付き合い悪い? 何言ってんの? 知佳がテストで赤点ばっかり取って補習祭りを勝手にやってるんでしょう? 自業自得を人のせいにしないの」
知佳は毎回、毎回。人が懇切丁寧にテスト前に一緒に勉強して教えてあげているのに一向に覚える気ないし、やる気もない。くそう。コイツマジでぶん殴ろうと教えている時に何回思った事か。
「いやぁ。それはごもっともでございますなぁ。あはは……」
「わかってるならよろしい。補習頑張ってね☆」
私がそう爽やかな笑顔で言うと知佳は「いや、その笑顔が凄く怖いよ」と顔がこわばっていた。
ったく。知佳といい。家に居るクソヒモニートといい。何故、私はこんなにダメなクソ野郎に好かれるのか。両親は両親で共働きでほとんど家に居ない人達なせいか家事がクソレベルで出来ないし。私が物心付いた頃にはお手伝いさんを掃除の為に雇ってたからね。
私は至って普通なのに……。
「加音ちゃん! おかえりなさい!!!! そしてごめんなさい!!!!」
何故か玄関で土下座で私を出迎えて勢いよく謝るあずきさん。待って……! なんか嫌な予感がする!
「一応聞きますが、何をやったんです? あずきさん」
「そのゴミを見下ろす様な視線が痛いよぉ!!!!!!!」
ゴミをゴミと見て何が悪いと思いながら無言であずきさんを見下ろしているとあずきさんは私の視線に耐え切れなかったのかぽつりぽつりと土下座で謝っている趣旨を伝えだした。
「あれは……偶然加音ちゃんのヘソクリを見つけた時だった」
「ヘソクリ!?」
おいおいおい。待って欲しい。あれは週3で働いてる近所の古本屋のバイトの給料だ。このクソヒモゴミニートが使わない理由はない。というか土下座してる時点でコイツは使ってるハズだ。間違えないだろう。
「あのぉ……ごめんね? 増やしてあげようと思ったらパチンコで全額刷っちゃった」
「今から海の藻屑になるか馬車馬の如く働くか選んでください」
ふざけんな。あれは今月の給料分。3万円入ってたのに!!!! と言いたい事だけど。そんなことニートに言っても無駄だ。わかっている。
「その2択辛い!? 働くのは勘弁してよぉ……」
「なら、海の藻屑ですね」
「笑顔で言うのやめてぇ!!!!」
あずきさんは絶望感に打ちひしがれて、顔が真っ青になっていた。……本当に悪いと思っているらしい。あずきさんは物凄い勢いでまた土下座をしていた。
……はぁ。私もつくづくお人好しだなぁ。なんだかあずきさんの事、憎めないしなぁ。
「顔を上げてください。あずきさん。……美味しいご飯で許してあげましょう」
「えっ……いいの? ありがとう! ありがとう! 加音ちゃん!」
ガバッと勢い良く私に抱き締めて喜んでいた。喜んでいたのは良いんだけど……。
「あずきさん。苦しいですよ……」
そう訴えるとあずきさんは「ごめんごめん」と言った後に「美味しいご飯作るね!」と笑顔で台所に向かっていった。……全く。本当に憎めない人だ。あんな笑顔を見せられたらいくら私だってこれ以上は何も言えないし。あんな絶望感溢れる顔されたら許さない訳ない。
私は甘いからこうやってダメな人に好かれるのだろうか。将来が不安になってきた。でも、まぁ。なんだかんだ。あずきさんと一緒の日々が楽しいのでこれはこれで、良いような気分だった。