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15.子どもたちのお茶会

 裏庭の厩のような屋根と柱しかない場所でも、赤ん坊のドラゴンと母親は平和に過ごしていた。よちよちと結界のぎりぎりまで出て来ては、うなじを噛まれて引き戻されるハクとギンの二匹。目が見えるようになってから、好奇心も旺盛になったようだ。

 シロの脱皮のときに砕けた髪飾りの欠片を飲み込んだことがシロとカナエとレオを繋ぐきっかけとなったが、赤ん坊のドラゴン、ハクとギンとは意思疎通ができない。幼いユナやリンのように、小さいからできないのか、それとも魔術具で繋がれていないからできないのかは、まだ判断できなかった。

 やんちゃなハクとギンも、結界を抜けることはできないし、結界に近付こうとすると、マンドラゴラ畑から出張してきているマンドラゴラたちが、一列に並んで止めに入る。「びぎゃびぎゃ」と注意されて、通じているのか、ハクとギンはシロの元に戻っていった。


「マンドラゴラは、ハクちゃんとギンちゃんともお話しできるのですかね、レオくん」

「カナエちゃん、私、ナホだよ」

「きゃー!? また『エアレオくん』してしまったのですー!?」


 側にいるのが当たり前になっているので、カナエはレオがいないときにもいるつもりになってしまって、話しかけてしまう。同じゼミのゾフィーにも、親友のナホやリューシュにも、『エアレオくん』『ゴーストレオくん』と呼ばれていて、揶揄われる始末だ。


「……カナエちゃん、俺がおらへんのに、話しかけてくれてるんか?」

「うきゃー!? レオくん本人にばれてしまったのですー!?」


 薬草の束を担いで遅れて裏庭に来たレオに聞かれていたことに気付いて、カナエは悲鳴を上げてしまった。自分でも恥ずかしい癖だと思っているのに、本人に知られてしまうなど、恥ずかしすぎて死にそうになる。


「俺のことでいつも頭がいっぱいなんやな……俺だけがカナエちゃんのことで頭がいっぱいなんやなかった! おんなじやった!」


 天に向かってガッツポーズをするレオと、恥ずかしくて顔を覆うカナエを、シロとナホが生温く見守っていた。

 魔術学校と研究過程が休みのその日は、ラウリと約束していた王宮の図書館を訪ねて、お茶をする予定だった。朝のドラゴンの見回りと挨拶を終えて、カナエとレオはユナとリンを抱っこして、レイナを呼んで、ナホはタケの手を引いて、王宮まで移転の魔術で飛んで行った。


「うちは時間までリュリュ様とツムギさんに習って、音楽の勉強をしてるから」

「れーた! おうた! おうたちて!」


 大歓迎でミルカに迎えられたレイナは、手を引かれて王宮の音楽室に連れて行かれる。レイナが音楽を習って、歌っている間、ミルカは毎回それをうっとりと聞いているのだという。


「ミルカちゃんは、レイナちゃんのことが大好きなんですよ」

「レイナちゃんもモテてるんやな」


 兄として複雑な気持ちになるのか、ユナとリンを抱っこしつつ、レオはラウリに導かれて王族の住居に向かって行った。図書館に入る許可を得たカナエは、先に調べ物を済ませてしまう。

 ドラゴンに関する資料は数は少なかったが、持ち出しは禁止されているので、全て自分で書き写さなければいけない。魔術を使ってペンを操っても、一度に写せるのは三冊が限度で、それもページを指定するのに大慌てで、カナエは目が回る思いだった。ドラゴンの主治医となっているナホも手伝ってくれるが、それでも手が足りない。

 昼食を挟んで、午後も時間を使って、ようやくお茶の時間に間に合わせた。

 おやつにリュリュの焼いたフロランタンと一緒に、ミルクティーを飲む。子ども用の椅子に座ったユナとリンも、ガジガジとフロランタンを齧って食べている。引き寄せたコップが勢いが良すぎて、ミルクが飛び散るのも、口にカップが到達する前に傾けてしまって膝にミルクを盛大に零すのも、予想の範囲内だった。

 カリカリのナッツとキャラメルの歯ごたえを楽しんで、フロランタンを食べた後には、ユナとリンの着替えが待っている。もちろん、まだ3歳のミルカも一生懸命食べていたが、顔中が汚れて拭いてもらっていた。


「タケたん、こぼたなかったの」

「偉いね、タケちゃん。ミルカちゃんとユナくんとリンちゃんは、まだ小さいからね」

「タケたん、おにーたん?」


 砕けたフロランタンのカケラがお腹についているが、それは見なかったことにして褒めてもらった4歳になったばかりのタケが、嬉し気にナホの周りを飛び回る。仲の良い姉弟の様子に、カナエはミノリのことが頭をよぎった。


「ミノリちゃんも誘えばよかったのです」

「ミノリちゃんは、イサギお父ちゃんとエドお父さんとお買い物に行くって言ってたよ」


 一緒に暮らし始めて一年以上経つが、まだミノリのものが揃っていないのだとナホは説明してくれた。欲がないのか、欲しいと言ってはいけないと言い聞かされていたのか、ミノリはなかなかイサギとエドヴァルドに必要なものを言ってくれない。察して買ってあげることはできるのだが、エドヴァルドはそれを良しとしなかった。


「私のときもだったみたいなんだけど、『欲しい』ってちゃんと思えるタイミングが来るのが大事だってエドお父さんは言ってたんだ」

「それまでちゃんと待てるのがすごいな。エドさんは、やっぱり大人や」


 欲しいものが分かっていても、敢えて見ない振りをする。兄としてレオはユナやリン、レイナが欲しいものが分かると、すぐに作ってしまうし、上げられるものならば与えてしまう。自分から『欲しい』と言うまで待って、先回りして渡さずに、本人の意思を尊重するエドヴァルドの姿勢は、レオの尊敬するところだった。


「それにしても、うちのユナくんとリンちゃんの可愛いこと」

「タケちゃんが可愛いよ?」

「ミルカちゃんが可愛いですよ?」


 親馬鹿ならぬ、姉馬鹿兄馬鹿を発揮するカナエとナホとラウリに、レオは微笑ましく遊ぶユナとリンとタケを見守っていたが、ミルカの姿が見えないことに気付く。


「ミルカちゃんはどこに行ったんやろ?」

「いませんね。自分の家だから、迷子ということもないでしょうが」


 ラウリも気付いて探しに行こうとすると、戻って来たミルカが、両手でお菓子の入っていた缶を抱いてレイナに近寄る。缶の蓋を開けると、ビー玉や綺麗な小石など、ミルカの集めた宝物が入っていた。


「綺麗やね。うちに見せに来てくれたん?」

「れーた、みぃの、たらかもの」

「ミルカちゃんの宝物なんか」

「こえ! あげゆ!」


 ぎゅっと箱ごと押し付けられて、レイナは目を丸くした。大事に抱いてきたそれは、本人の言う通り宝物なのだろう。それなのに、ミルカは大きな緑色の目をキラキラさせながら、レイナにそれをくれるという。


「え、ええの? ミルカちゃんの大事なもんやないの?」

「みぃ、れーた、すち!」


 白いほっぺたを真っ赤にして、満面の笑顔で告白する3歳のミルカ。


「どないしよ……うちとミルカちゃんは10歳も年が離れてるのに」

「どうしようか迷う時点で、ミルカちゃんにも分がありますね」


 可愛い弟の告白を応援する体勢のラウリに、カナエは首を傾げる。


「ミルカちゃんが取られたら、嫌ではないのですか?」

「僕はナホさんのところに嫁ぐ予定ですし、ミルカちゃんもセイリュウ領に嫁げば、王家との繋がりは深くなるでしょう?」

「ラウリくんは策士だなぁ」


 苦笑しているナホの脚元から這い出て、ユナに近寄るタケに、カナエは胸がざわざわするのに、同じ弟がレイナを好きと言うラウリは落ち着いている。


「王侯貴族は結婚も義務のようになっています。ミルカちゃんも、セイリュウ領の領主の娘の元ならば、誰の文句もなく嫁いで行けることでしょう」

「カナエは……タケちゃんに可愛いユナくんをとられるのが、嫌なのです」

「そしたら、タケちゃんに嫁いでもらえば解決では?」


 流石ナホの婚約者であるラウリは、ナホに劣らぬ策士であるようだ。

 言われてみれば、タケの元にユナをやるのは許せないが、タケがユナの元に来るのならば許せるかもしれない。


「考えておくのです」

「カナエちゃんは、お母ちゃんそっくりや」

「似てないのです」


 大好きなレオであっても、その点は否定するカナエだった。

 子どもたちのお茶会が終わって、お腹がいっぱいで眠くなったユナとリンを抱っこして、カナエとレオとレイナは家に戻る。ナホはタケと一緒に、夕食までご馳走になって帰るようだった。

 帰るまでには抱っこされてぐっすり眠ってしまったユナとリン。

 レイナにはミルカが告白をして、タケはユナが気になっている。これから先セイリュウ領の家族が増えるかもしれないという予感に、カナエは嬉しいような、複雑な気分だった。

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