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11.ドラゴンの双子

 卵の殻の中からの音が大きくなって、夏休みの半ば過ぎ、殻を破ってドラゴンの双子が誕生した。本来は生まれてすぐに殻は母ドラゴンが食べてしまうのだが、セイリュウ領で保護してもらっているという恩があるので、シロは卵の殻を研究用の資料と魔術具の材料として提供してくれた。

 生まれたばかりで子牛ほどの大きさのある赤ん坊のドラゴンには、角は生えておらず、羽も生えそろっていない。産まれてからしばらくは赤ん坊と母ドラゴンは警戒して狂暴になっているので、刺激しないように近付かない方が良いのかと、カナエは裏庭の入口でサークレットを着けてシロに聞いてみた。


「入らない方が良いですか? 赤ちゃんが健康かを、ナホちゃんに見てもらいたいのですが」

『この子らは、ひとの中で育つ運命にあるもの。早くから慣れておいた方が良かろう』


 以前と同じく、カナエの家族とナホの家族は裏庭に入っても構わないということで、話は纏まった。赤ん坊の確認に、領主であるサナも同行する。二匹の赤ん坊ドラゴンは、目も開いていないが、白い鱗とぽやぽやの白銀の鬣で、シロによく似ていた。


「女の子ですやろか? 男の子ですやろか?」

「赤ちゃんの性別はどっちですか?」

『どちらも雌だ』

「女の子だそうです」


 原則的に雄のドラゴンの方が好戦的だが、身体が大きく強く育つのは雌の方である。シロも合わせれば雌のドラゴンが三匹セイリュウ領にいることになる。


「あんさんらの身の安全はできるだけ保証するけど、不埒な輩が出て来んとも限らへん。赤さんは大事にしてや」


 確認を終えたサナが執務室に戻るのと入れ違いに、レオがやって来た。ナホが産まれた二匹の赤ん坊ドラゴンの身体に異常がないか調べている間に、レオもドラゴンの身体に触れてサイズを測っているようだった。


「不自由かもしれへんけど、領民を怯えさせてしもたら、共存はできへん。赤さんの行動を制限する魔術具を作らせてもらうわ」

『どのような魔術具だ?』

「シロさんと一緒やないと、この裏庭から出られへんように、お母ちゃんに結界を張ってもらって、侵入者も入られへんようにする」

『それならば構わない。助かる、レオ。礼を言うぞ』


 サークレットを着けているレオとは話ができるので、カナエが間に入らなくてもレオとシロのコミュニケーションは行えた。困るのはナホとシロとの間である。


「赤ちゃんに異常はないと思う。羽が生えそろってないのも、爪が短いのも、角が生えてないのも、正常なんだよね?」

「赤ちゃんに異常はないと言っているのです。羽も、爪も、角がないのも、ドラゴンでは普通ですか?」

『赤子のドラゴンは自らを傷付けぬよう、爪は短く、角は生えておらぬ。羽は飛べるようになるまでに生えそろう』

「えーっと、大丈夫だそうです」


 いちいちカナエが間に入るのもナホにとっても、シロにとっても面倒ではないかと思っていたときに、救世主が現れた。

 大根マンドラゴラを連れたラウリが、ローズの命を受けて、ドラゴンの視察に訪れたのだ。他の煩い貴族たちの視察は「赤さんが産まれたばかりやのに、何も知らん赤の他人にずかずか寝室に入って来られたら、うちでもぶっ飛ばすわ!」とサナが断っていたが、ナホの婚約者で、レオの親友であるラウリならば話は別だった。


「ナホさん、研究は進んでいますか? シロさん、セイリュウ領で寛げていますか?」

「びゃぎゃ! ぎょぎゃぎゃぎゃびゃ!」

『そのマンドラゴラ、我に話しかけておるのか? その者は、そなたの主人か?』

「びょえ! ぎゃぎょびゃびょー! びゃ!」

「大根さん、シロさんの言葉が分かるんですか?」


 意外なところに通訳変わりとなるものはいるもので、マンドラゴラと意思疎通ができると分かると、ナホはタケとマンドラゴラ集団をドラゴンの元に呼び寄せた。マンドラゴラの話しかける声に、シロは何やら答えているようだ。


「カナエちゃん、マンドラゴラの言うことなら私はなんとなく分かるし、シロさんもマンドラゴラが言っていることが分かるみたいだよ」

「まさかの、通訳マンドラゴラ!?」


 マンドラゴラの言っていることはカナエにはさっぱり分からないが、マンドラゴラと生まれたときから一緒にいるラウリと、マンドラゴラ畑で拾われたナホとタケは、マンドラゴラが何を言おうとしているかなんとなく分かるらしい。

 専門用語などを口にされても説明する自信がなかったカナエは、マンドラゴラが通訳をできることにほっとしていた。

 ドラゴンに完全に敵意がないことは、大根マンドラゴラを通してラウリに伝わったようだ。


「母にシロさんと赤ちゃんたちのことは伝えてきます。アイゼン王国で、落ち着いて子育てなさってください」

「ぎゃぎゃ。びゃー、びょえええ、ぎゃお!」

『女王陛下によろしく伝えて欲しい』

「ぎょ! ぎゃぎょえ」

「はい、心得ました」


 大根マンドラゴラを挟んで会話が成立している状態を、カナエは不思議そうに見ていることしかできなかった。朝方に生まれたドラゴンの赤ん坊。その日の夕方には、レオが皮の頑丈で柔らかな足輪を作って、二匹の見分けがつくように赤と青で色分けして、足に取り付けた。

 これで、赤ん坊ドラゴンがどこかに勝手に行ってしまうことも、迷子になることもない。


「盗まれたら大変やから、しっかり結界を張ってもらっとる。代わりに、赤さんも出られへんようになっとるけど、安全のためやから、しばらくは辛抱してや」

『羽が生えそろって、飛ぶ練習が必要になる頃には、セイリュウ領の外れに行っても良いであろうか?』

「そのこともお母ちゃんとお父ちゃんに聞いとくわ。とにかく、今は、赤さんの安全が一番や」

『分かった。ご両親にも感謝しておると伝えてくれぬか』


 結界を張って守られていること、同時に赤ん坊ドラゴンの行動を制限していることについても、シロは納得してくれていた。

 夜を迎えて、レオとカナエは夢の中で白い靄の中、シロと話す。話題は、ドラゴンの赤ん坊のことだった。


「二匹の名前なんやけど、シロさんみたいに、俺らが呼びやすいのを付けたらあかんやろか?」

『付けてもらえると助かるな。呼び名がなければ、ナホも診察のときに困るであろう』

「どんなのがいいですかね……」


 まだ生まれたばかりで目も開いていないので、目の色も分からない。双子なのだから全く同じかもしれないが、違うかもしれない。目が開くまでは名前も付けない方がいいのかもしれないと躊躇い始めたカナエに対して、レオは決断が早かった。


「赤い皮ひもの方がギンちゃん、青い皮ひもの方がハクちゃんで、どうやろ?」

『二匹で白銀か。我らの鬣の色だな。良いぞ』

「あっさりだったのです」


 揉めることなく決まった事項を翌朝、サナに伝えようとリビングに行くと、サナの姿はなかった。レンに聞けば、夜中に裏庭に忍び込もうとして、結界に阻まれて捕えられたものがいるらしい。

 一大事だとカナエとレオも中庭に駆け付けると、魔術の光の糸でぐるぐる巻きにされた身なりのいい男性たちがいた。姿や格好から、王都の貴族ではないかと推測される。


「ドラゴンの子が産まれたから視察に来ただけだ!」

「視察やったら、申し込んでから来はるのが普通やないですか?」

「申し込んでも、断るから、ドラゴンを兵器にするための訓練を行っているのだろうと、主人が調べてこいとの仰せだったのだ」

「後ろめたいところがないのならば、見せられるはずではないか!」


 無茶苦茶な理論で無理やり裏庭に入ろうとした男たちに、サナは目を細めた。


「相手は、赤子が産まれたばかりで気が立ってるんやで? あんさんら、入らなくて本当に幸運やったなぁ。ブレスで骨まで溶かされてしもたら、お墓の用意して来ても、しゃーないもんなぁ」


 煽るようなことを言うサナに、男たちが青ざめる。


「やはり、兵器として訓練しているのではないか!」

「セイリュウ領は人殺しのドラゴンを飼っている!」


 目を細めて笑みを作りながら、サナは手の平を男たちの前に広げて見せる。魔術でそこにローズの立体映像が映し出された。等身大のローズの立体映像に、男たちはびくりと震えて、身を隠そうとミノムシのように縮こまる。


『大陸のドラゴンの産卵場所が荒らされている状況を鑑みて、アイゼン王国は、ドラゴンの谷をドラゴンの産卵場所として開放することを決めた。アイゼン王国は今後、ドラゴンと共に生きる国となるであろう』


 宣言する姿は、昨日のラウリの報告を受けて、ダリアとローズで大陸でドラゴンの産卵場所が荒らされて、ドラゴンが兵器として育てられることへの危惧を込めての法案だろう。


『アイゼン王国は、ドラゴンを兵器とはしない。共に生きる守護獣として受け入れよう』


 セイリュウ領だけがドラゴンを保護していたら、他の領地や王都の貴族から不満が出る。謀反の疑いありと言われてしまう。それくらいならば、国ぐるみでドラゴンの保護を図る。ドラゴンがセイリュウ領に降りて来てから、サナはローズとダリアと通信を交わして、密かに法案の作成を進めてもらっていたのだ。


「女王はんの決めはったことに、文句がおありで?」


 立体映像を消したサナに、男たちは言い返すこともできず、警備の兵士に連れて行かれた。

 駆け寄るレオとカナエに、サナは朝ご飯の席に戻りながらお願いをする。


「シロさんは、大陸のドラゴンに今のことを伝えられへんやろか?」

「朝ご飯が終わったら、聞いてみるのです」


 朝食後にカナエとレオがサークレットを付けて、ローズとダリア、双子の女王の決定をシロに伝えると、シロはとても喜んでいた。


『産卵場所が解放されるならば、同朋も助かることであろう』

「このことを大陸中のドラゴンに伝えられますか?」

『今、カナエとレオと話している方法は、ドラゴン同士が意思疎通を行う方法で、それに距離は関係ない』


 長い首を伸ばして笛のように高く鳴いたシロに、サークレットの音叉がびりびりと震える。

 大陸中のドラゴンにとって、アイゼン王国のドラゴンの谷が新しい産卵場所となる。

 その知らせは、遠く海を越えて響いたようだった。

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