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10.卵の健診

 通信の魔術具が完成したとはいえ、その場で話せることは限られて来る。カナエもレオもそれぞれにしなければいけないことがあって、ずっとドラゴンのそばにいることもできない。そのため、夢の中での会話はその後もずっと続いていた。


「俺やカナエちゃん以外と話す方法はないんやろか。ナホちゃんの健診でも、カナエちゃんが通訳するんは手間やろ?」

『そのことに関してなのだが、実は、カナエが去った後に、我は砕けた髪飾りの破片を飲んだのだ』


 脱皮で体力を消耗していたドラゴンにとっては、魔術の篭った髪飾りの破片はちょうどいい魔術を回復する餌になった。飲み込んで、ドラゴンは込められた魔術に驚いたという。


『緻密に作られた美しい魔術具には、ひとの英知と感情の込められた美しい魔術が宿る。あの魔術具に込められた魔術は、非常に美しく我の心に響いた』

「俺の作った魔術具を、シロさんは飲み込んだんか」

『飲み込んだあの魔術具と、レオの作ったドリームキャッチャーとやらが、我とカナエとレオを繋ぐ通信具となったのであろう』


 飲み込んだ魔術具の欠片には、レオの込めたカナエを守るための魔術がかかっていた。緻密に編まれた魔術から愛情を感じ取り、ドラゴンはそれを頼りにセイリュウ領までカナエを追って飛んできたのだという。

 恐ろしいドラゴンに怖じずに魔術具が壊れても脱皮を手伝った、勇気あるカナエ。カナエのいる領地ならば、お腹に卵を抱えて、産む場所までたどり着けない自分を助けてくれるかもしれない。


『ドラゴンの産卵場所はひとの手によって荒らされておる。幼体を抱えた母ドラゴンが存分に戦えぬのを分かって、奴らは狙って来る。どこか、安全に卵を孵し、幼体を育てられる場所をと思ってドラゴンの谷を目指したのだが、腹が重すぎてたどり着けそうになかったのだ』


 中途半端なところで落ちてしまえば、街を壊し、ドラゴン自体が狙われることになりかねない。飲み込んだ魔術具と、渡した鬣と鱗が、どうにかカナエとドラゴンを繋いでくれることを信じて、ドラゴンはセイリュウ領に飛んできた。


「カナエを、信じてくれたのですね……。ドラゴンの産卵場所がないというのも、大問題なのです」

『その点については、カナエの母御はどうお考えであろうか?』

「お母さんに聞いてみるのです」

『それに、明日、ナホという少女に卵を見てもらいたいのだが、良いか?』

「はい、ナホちゃんにお願いするのです」


 夢の中でも朝までの時間が足りなくて、話すことがありすぎて、カナエはずっと口に出せない疑問を抱えていた。

 ドラゴンのシロは、一匹で飛んできた。卵が腹にあったということは、シロに配偶者がいたことになる。大抵の獣や魔物は雌だけで子育てをするので、ドラゴンの生態として雌だけで育てるというのも分かるのだが、配偶者だった雄に助けを求めることはできなかったのだろうか。

 カナエに助けを求められるくらいの知性と理性のあるドラゴンなのである。子どもが育つ期間を雄に助けてもらえば、産卵場所の安全も守れるのではないかとカナエは考えたのだ。


「卵の赤ちゃんのお父さんは、子育てをしないのですか?」

『あの卵は、ひとに使役され、酷使され、死にかけていた雄との間に作ったものだ。死にゆく彼の雄の血統を、残してやらずにはいられなかった』

「好きだから、結ばれたわけではないのですか?」

『ひとと我らの感覚は違う。子を産むということは、その雄の血統を受け入れ、次代に繋げること。共に子育てなど、せぬのだよ』


 ドラゴンの雄と雌の間にあるのは愛情ではない。だからこそ、カナエの魔術具を飲み込んで触れたレオのカナエに対する感情に、シロは驚いたのだと言った。

 夜が明けて目が覚めると、朝食の席で夢の中の出来事をレンとサナとレイナに報告するのが、毎朝の日課になっていた。魔術具を飲み込んだおかげでレオとカナエと話ができるようになったこと、ドラゴンの安全な産卵場所がなくなっていることをシロが憂いていることなどを告げれば、サナもレンも考え込んでいたようだった。

 領主のサナには、毎日のように王都から使者が来る。


「本当に謀反の企みはないのか、ドラゴンはどうしてセイリュウ領を目指して飛んできたのか、ドラゴンは卵が孵っても暴れないか……うちは報告書をローズ女王はんとダリア女王はんに出してるっていうのに、なんも関係ない貴族たちが煩くて、墓石の下に埋めたろか思うわ」

「領地にも王都の分からんちんの貴族の手下が紛れ込んどるって話っちゃんね」

「うちは! レンさんと可愛い子どもたちと! 平和に暮らしたいだけやのに!」


 かつて『魔王』と言われていたサナの元に、ドラゴンがやって来たということは、サナが王都に攻め込む準備を始めたのかもしれない。そうでなくとも、それを理由に王都以外の領地の中で一番栄えているセイリュウ領の領主を蹴落とそうと、王都の貴族は必死なのだ。サナの一家が謀反で追放されれば、王都から魔術の才能の高い王族に血統の近い貴族が領主として派遣されるかもしれない。

 謀反など全く考えていないにも関わらず、領地にドラゴンがいるという状況は、兵器を抱えているも同然で、サナにとっては面倒くさいことが多すぎた。


「ほんまに、独立してやろうか思うわ……」

「サナさんがそれで自由に生きられるとやったら、俺は支えるよ」

「レンさん……ごめんな、短気を起こしてしもて。うち、もうちょっと我慢して頑張るわ」


 絶対に愛するサナを否定しないレンは、王宮でダリアに仕えていたので、実際にセイリュウ領が独立するとなれば板挟みになるであろう。それすらも構わずに穏やかにサナの言葉を受け止める姿に、自棄になりかけていたサナも落ち着いて、使者の対応に当たる。

 レオはレンと工房に籠ってシロの魔力補給となる魔術の篭ったガラス細工や、魔術学校の課題の魔術具を作りに行った。

 裏庭の入口で待ち合わせをしていたカナエは、ナホと合流して、サークレット型の通信機を着けてシロに声をかけながら近付いていく。


「カナエなのです。ナホちゃんと一緒に来ました。卵を見せてもらうのです」

『ナホに卵に耳を着けて、音を聞いてくれるように言ってもらえるか?』

「ナホちゃん、卵に触っていいと言っているのです。音を聞いて欲しいと言っています」

「了解。失礼しますっと」


 シロが話しかけると、こめかみと額の音叉の魔術のかかった金属が響いて、カナエの頭に声を届けてくれる。

 硬いが暖かな生命の息吹を感じる卵の殻に触れて、ナホがその滑らかな表面に耳を着ける。同じようにカナエも卵の殻に耳を着けてみると、こつこつと中からノックするような音が響いてくる。


「鳥は雛が嘴で卵の殻を割るって言うけど、この中の赤ちゃんもそろそろ出たがってるみたいだね……あれ? もしかして……」

「どうしたのですか、ナホちゃん?」

「卵が、クリスティアン叔父様の資料で読んだのより大きい気がしてたんだけど、双子かな?」

「双子!? 二匹入っているということですか?」


 こつこつと中から殻を叩いて出ようとするドラゴンの幼体の音が、複数聞こえたとナホは、カナエに報告して、卵の大きさや形、色をノートに記録していく。


『やはり、双子であったか。産むのに難儀した故、そうではないかと思っていたのだ』

「二匹……それは、セイリュウ領に来て正解だったのです」


 双子の弟と妹がいるカナエは、一度に二人の面倒を見るのがどれだけ難しいかを、身を以て知っていた。産まれて来るドラゴンの幼体が二匹ならば、ひとが荒らす産卵場所で守ることが尚更難しくなってくる。それも危惧して、シロはアイゼン王国に逃げてきたのだろう。


「卵が孵ったら、ドラゴンが三匹……これは、サナさんも大変だね」

「ドラゴンの赤ちゃんには、何を食べさせれば良いのですか?」

『命あるものは口にはさせぬつもりだが、薬草など魔術を補助するものがあれば、分けてもらえると助かるのだが』

「薬草! それこそ、ナホちゃんの出番なのです!」

「ドラゴンさんは、薬草を食べるの? イサギお父ちゃんとエドお父さんに言わなきゃ」

「いあなきゃ!」


 きゃっ! と脚元で声が上がって、カナエとナホは卵に張り付いているタケに気付いた。薬草畑から抜け出してナホに着いてきていたようだ。よく見れば、タケの側でマンドラゴラたちが、自分たちを捧げるようにシロに両腕を広げて示している。


『マンドラゴラは食さぬと伝えてくれるか?』

「マンドラゴラは食べないそうですよ」

「かぶたん、だーこたん、にんじたん、じゃがもたん、らいじょぶ?」


 自ら犠牲になろうとするマンドラゴラを抱き締めたタケに、カナエが説明すると、涙をいっぱいに茶色の目にためたタケは、こくりと頷いた。

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