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7.夢を通じて

 白銀の鬣と鱗。

 危険を冒してカナエがドラゴンの谷から採取して来た素材で、何を作るか悩んでいたレオが、それを決めたのは、夏休みに入ってからだった。暑さのせいか寝付きが悪く、夜泣きを始めた双子のことが頭に過ったのだろう。

 小さな蜘蛛の巣か、網のように編まれた鬣と、その真ん中に固定された鱗。

 丸くカナエの手の平大のそれを、カナエは興味津々で見つめていた。


「これが夏休みの課題ですか?」

「課題は別に作るけど、これは、家族のために作ったんや。ドリームキャッチャーって知ってるか?」

「ドリームキャッチャー、ですか?」


 よく知らないカナエのために、レオは説明してくれた。

 網のように編まれた部分で、悪い夢を捕えて届かないようにするおまじないの魔術具。おまじないの域を出ないので、悪夢が払えるわけではないが、安眠の魔術がかかっているので、ユナとリンもよく眠れるだろうとレオはそれを作った。


「カナエちゃんの分も、俺の分も、レイナちゃんの分もあるんやで」


 姉妹兄弟全員お揃いで、ベッドのそばの壁にかければよく眠れる。お揃いというのが嬉しく、カナエはレオと一緒にユナとリンのベビーベッドの側にドリームキャッチャーをかけて、自分の部屋のベッドの側にもかけた。

 白銀の網の中心で純白の鱗が煌めいている。

 いい夢が見られそうだと期待してベッドに入った夜、カナエは不思議な声を聞いた。


『……けて……たすけて……』

「誰なのですか?」


 頭に直接響くような声に目を凝らしても、白い(もや)しか見えない。

 声の主が誰なのか分からないが、困っている様子は伝わって来た。


「どうすれば、あなたを助けられるのですか?」

『卵が……産卵場所まで、間に合わない……』

「卵……赤ちゃんですか!?」

『どこか、安全に産める場所を……』


 消えそうな、苦しそうな声が耳に残った。

 目が覚めてもはっきりと覚えている声と内容に、カナエは不思議な心地で着替えて朝食のためにリビングに行った。眠そうなユナやリンも含めて、家族は全員揃って朝食を食べるはずなのに、その場にサナがいないことにカナエは気付いた。


「お母さんはどうしたのですか?」

「セイリュウ領の上空をドラゴンが旋回してるとよ」


 非常事態に怯える領民のために、軍を出すかとサナは早朝から会議に向かっているのだという。

 ドラゴンについては、カナエにも心当たりがあった。


「もしかして、白いドラゴンですか?」

「高く飛んどうけん、よく見えんけど、白いような気がするね」


 窓を開けてレンと上空を見上げる。かなり高い位置をぐるぐると旋回しているドラゴンの巨大な影が、セイリュウ領の領地に落ちているのが見えていた。

 火の光を受けて白い鱗と白銀の鬣が光った。あのドラゴンに見覚えがある。気付いた瞬間、カナエは夢の中で聞いた声とあのドラゴンが結び付いた。


「お母さんに話してくるのです!」


 廊下を駆け出したカナエを、レオが追いかけて来る。


「どないしたんや?」

「レオくんは、ドラゴンの鬣と鱗でドリームキャッチャーを作ってくれました。多分、それを通じて、あのドラゴンは、カナエに助けを求めたのです」


 ブレスで町一つくらい簡単に焼き尽くしてしまうドラゴンは、兵器として恐れられている。それがセイリュウ領を狙うように上空に現れたのならば、領主のサナを筆頭に臨戦態勢に入っても仕方がない。

 会議ではドラゴンが攻撃する前にどうやって撃退するかが話し合われていたようだった。


「おか……領主様、カナエのお話を聞いてください!」

「カナエちゃん、今は緊急事態なんよ」

「お母ちゃん、聞いてあげて。カナエちゃんは次期領主や。セイリュウ領の不利益になることは言わへんよ」


 レオの口添えもあって、サナはカナエに説明するように促した。


「レオくんが作ってくれたドリームキャッチャーの材料は、あのドラゴンから採取したものだと思うのです。あのドラゴンは、お腹に卵を抱えていて、産卵場所まで飛んでいけないと言っていたのです」


 どこか安全に卵を産んで育てられる場所を探している。

 自分の鬣と鱗を使ったドリームキャッチャーを通じて、夢でカナエに訴えかけて来たドラゴン。それだけ切迫した状況だったのだろう。


「大陸で兵器にするために、ドラゴンの産卵場所を荒し、卵や幼体を盗むという事件が勃発していると報告が上がっております」

「ドラゴンが領地にいるとなると、兵器を保持しているも同じこと。王都や他の領地から、セイリュウ領は謀反を企んでいると思われるやもしれません」


 大陸の情報と共に、セイリュウ領が謀反を企んでいると思われるという危惧も出たが、事態は切迫している。お産が自分の意志でままならないことは、子どもを産んだことのあるサナにはよく分かっていることだった。


「王都への説明は後からでもできる。カナエちゃん、ドラゴンを誘導できるか?」

「やってみるのです」


 魔術具作りと薬草学を含めた医学発展で領地を支えていくと、レンとサナが結婚して決めてから、領主の屋敷の敷地内で軍の兵士の訓練場になっていた広い裏庭が、空いたままになっていた。巨大なドラゴンにしてみれば少しばかり狭いが、サナとカナエの目の届く場所で、安全に卵を孵せる場所といえば、すぐにそこがあがった。


「レオくん、ドリームキャッチャーを全部持ってきてくれますか?」

「魔術を増幅する魔術具も持ってこよ。カナエちゃん、先に裏庭に行っとって」


 駆け出すカナエは裏庭へ、レオはユナとリン、レイナ、カナエ、自分の部屋を回って、ドリームキャッチャーを回収し、魔術を増幅する魔術具も持ってくる。

 集まったドリームキャッチャーを持って、追加で残った鬣で作ったミサンガをカナエの腕に巻くと、準備は整った。


「ドラゴンさん、ここに降りてくるのです。大丈夫なのです、絶対に攻撃したりしません」


 ドリームキャッチャーを握り締めて、伝われと願って語り掛けるが、ドラゴンの旋回はなかなか止まらない。降りる場所が分からないくらいに、産気づいてもう苦しいのかもしれない。


「打ち落とすわけにはいかへんよなぁ」

「お母ちゃん、ドラゴンと戦おうとせんで」

「見えにくいんやろか……ちょっと脅かしてしまうかもしれへんけど」


 片手で袖を押さえて、もう片方の手を高く掲げて、サナが閃光弾を打ち上げる。花火のように裏庭の上で散った閃光に、ドラゴンやよろよろと裏庭に降りて来た。


「成功や。カナエちゃん、お母ちゃん、下がって」

「大変なのです! 卵詰まりかもしれないのです!」


 裏庭に降り立ったドラゴンは、明らかに元気がなくぐったりとしている。鳥類が卵が詰まって死んでしまうというのを知っているカナエは、どうすればいいのか判断を仰ぐため、薬草畑に走って行った。ドラゴンが上空を旋回しているというので、マンドラゴラの様子を見に来ていたイサギとエドヴァルドとナホとミノリとタケの家族に、大きく声をかける。


「ドラゴンさんが、卵詰まりかもしれないのです」

「ドラゴンを保護したんか!? 卵詰まり……鳥やったら、とにかく暖めろて言うな」

「お湯を沸かしましょう」


 素早く動き出したイサギとエドヴァルドに、ナホとミノリも手伝って薬草保管庫と厨房で沸かしたお湯を運んで行って、大きな布に浸して、ドラゴンの白い腹を大勢で拭いて暖めていく。心配で来ていたレンもレイナも加わって、イサギとエドヴァルド家族、レンとサナ家族の全員で、夏の日差しの中、汗だくになってドラゴンが卵を産むのを手伝った。それが恐ろしい兵器にもなる生き物だということなど、必死なカナエもレオも、頭にも浮かばなかった。

 最終的に生まれた卵は大きく、生まれた後でドラゴンは大事そうにその卵を抱いていた。


「卵が孵るまで、ドラゴンも気が立ってるやろうから近付かへんようにな」

「お母さん、ドラゴンって何を食べるのですか?」

「神獣やから、命あるものは食べへんって話やけど、うちもよう知らんわ」


 セイリュウ領でドラゴンが卵を孵すまで世話をするのであれば、食べ物も準備しなければいけない。希少なドラゴンの生態は、ドラゴンを捕えて飼う習慣のないアイゼン王国ではあまり知られていなかった。

 とりあえずのところは、ドラゴンを刺激しないように裏庭は立ち入り禁止にして、サナは領民への説明や王都への説明などの事後処理に、カナエはドラゴンの生態を調べにレオと屋敷の書斎に行った。

 魔物の被害には晒されているので、魔物の資料は多いが、ドラゴンやペガサス、ユニコーンなどの神獣の資料は、生息数が非常に少ないので、ほとんどない。


「ドラゴンが領地におると、魔物が寄り付かんくなるって」

「本当ですか!?」


 それが本当ならば、産卵場所が危険に晒されているドラゴンが、セイリュウ領に住み付いても構わないのではないだろうか。

 ドラゴンの守護する領地を治める領主、カナエ。

 なかなかかっこいい響きだと、カナエは妄想してしまった。

 それにしても、ドラゴンが何を食べるのかすら分からない現状には困ってしまう。


「夢で……そうなのです、夢で聞いてみるのです」


 カナエとドラゴンを繋いだドリームキャッチャー。

 それを握り締めて、カナエは夜まで日常を過ごすことしかできなかった。

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