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5.16歳の新しい挑戦

 よちよちと歩き回れるようになって、双子はかくれんぼを覚えた。まだ一歳半なので、うまく隠れられずにお尻が見えていたり、頭が出ていたりするのだが、小さな両手でお顔を隠していると隠れた気分になるようだ。


「ユナくん、見つけたのです」

「ばぁー!」

「リンちゃんも、出てきちゃったんやな」


 片方が見つかると、もう片方は「いないいないばぁ」のように、両手を広げて出て来るのもルールがよく分かっていない幼子特有なのだろう。双子の弟と妹が可愛くて、カナエとレオとレイナは、魔術学校と研究過程で王都に行く前の忙しい朝にも、遊んでから出ることが多かった。

 夏休みを前に、カナエは卒業論文の課題が、レオには上級生として難しい課題が出る。

 魔術学校の授業の後で、レオが呼び出されたのは、夏休みの課題について説明がされた後だった。魔術具作りを専門に選んでいるレオは、薬草学や魔術具作りの実践の課題を幾つか与えられていた。

 教授が個人的に話したかったのは、魔術具作りのことで、レオは授業後に指導室で椅子に腰かけて大人しく話を聞いていた。


「レオくんの作るものは、とても繊細で、卒業後すぐに工房に入っても通用しそうなくらいだけれど、気になっていることがありましてね」

「俺、何かしましたか?」

「婚約者のことが好きなのがよく分かるのですが、いつも、作るものは20歳前後の可愛い女性向けばかりですよね」


 指摘されて、全くそのことに気付いていなかったレオは真っ赤になってしまった。物心ついたときからカナエのことが大好きで、折り紙が折れるようになったらカナエにプレゼントしに行き、粘土で何か作ればカナエに見せに行っていた。両親に何かプレゼントした記憶はほとんどない。

 セイリュウ領の工房の師匠(マイスター)であるレンも、注文を受けて他人の物を作ることはあるが、指導や管理が主で、自分で作るのはサナのものばかりである。それはレンにとってサナが美の女神(ミューズ)であり、創作意欲を掻き立てる存在だからだ。

 レオにとってもカナエだけが作ったものを贈りたい相手だった。


「その年代の可愛いものを欲しがる女の子だけを対象に作るというのも、将来的にはありかもしれませんが、勉強をする過程で、色々なヴァリエーションを学んでおいた方が良いのではないかと思うのです」

「その通りやと思います……言われるまで、俺、気付かへんかったです」

「まず初めに、今回の夏休みの課題で、男性物に挑戦してみるというのはどうかと、レオくんに提案します」


 魔術具作りでは特に優秀なレオだからこそ、もっと視野を広く、様々なものが作れるようになって欲しい。教授の気持ちはレオの将来を考えたありがたいものだった。


「ありがとうございます、俺、頑張ってみます!」


 お礼を言って指導室を飛び出したレオは、移転の魔術を使ってセイリュウ領のお屋敷に戻った。カバンを置いて、制服を着替えて、ユナとリンにただいまを言ってから、レンの工房にかけていく。

 工房の入口で履物を履き替えて、作業用のジャケットを羽織って、レオはレンの部屋に行った。工房は魔術や火や工具や金属、ガラスなどを扱うので、入るときには安全管理のために履物を履き替えて、どんなに暑い日でも特別な魔術のかかったジャケットを着ていないといけない。鋳造作業をするときなどは、全身着替えさせられることもある。

 オダリスとデシレーの父親は、危機管理の徹底していなかったコウエン領の工房で、爆発事故で亡くなった。そのようなことをレンは絶対に起こさないために、安全管理は徹底していた。


「お父ちゃん、相談なんやけど」

「お帰り、レオくん。ちょっと休憩しようかと思ってたところやったとよ。座り?」


 工房の師匠(マイスター)として、レンは使う材料の仕入れから、使用量の調整、薬草や魔術を高めるお香の管理まで、全てを担っている。職人だが書類仕事も多くて、レンの部屋のデスクの上はいつも書類が積み上がっていた。

 書類をずらして場所を作って、水筒からお茶をカップに注いで出してくれるレンに礼を言って、レオは受け取る。レンもお茶のカップを持って、椅子に腰かけた。


「教授から、夏休みの課題は全然違うものに挑戦してみないかって言われたんや」

「カナエちゃんのイメージのものばかり作ってるのが、お見通しやったっちゃね」

「そうなんや……って、お父ちゃんも気付いてたんか!?」

「それは、レオくんは俺の息子やけんね」


 揶揄するではなく穏やかに言ってくれるレンに、レオは赤くなった頬を押さえた。


「俺のカナエちゃんへの気持ちはバレバレなんやな」


 婚約者で、大好きなことは変わらないのでバレていても構わないのだが、こうやって指摘されると恥ずかしくもなる。あまり気にしていない様子で、レンはいつも通り話を促してくれる。


「どういうものを作ったらいいって提案されたと?」

「男物……やけど、どんなんがええんやろって思って、お父ちゃんを観察しにきたんや」


 身近にいる男性は、レンなのだがレオは自分がレンそっくりだということにあまり自覚がない。


「大人の男が分かるかなぁと思って」

「友達のオダリスくんとかは、魔術具は付け取らんとね?」

「オダリスくんは、魔術具にあんましいい思い出がないみたいで、自分では着けとるところをみたことないし、ラウリくんは……なんていうか、可愛いやん?」

「あぁ、確かにね」


 呪いの魔術具を着けさせられていたオダリスは、好んで魔術具を着けないし、生まれたときに死にかけたせいで幼少期からピアスを着けさせられているラウリは、男性というよりも少女のように可憐だ。年齢も14歳になったので、ラウリも逞しくなるのかもしれないと過ったが、よく考えるまでもなく、父親のリュリュは子どもが6人もいる年なのに少女のように可憐だった。父親にそっくりなラウリも、そのまま成長するのだろう。

 友達は参考にならないので、一番身近な男性として、レンを観察して魔術具を作ろうと計画するレオに、レンは方向を転換させるようなことを口にした。


「イサギくんと、エドヴァルドさんのところに行ってみたらどうかね?」

「イサギさんと、エドさんのところに?」

「エドヴァルドさんは、女王の従兄やし、魔術具も前の国王からもらった最高級のものを持ってるはずやけん、見せてもらって来たら」


 ダリアとローズの従兄で、テンロウ領の領主の長男のエドヴァルドは、セイリュウ領のお屋敷の薬草畑で働いているが、身のこなしも上品で、言葉遣いも洗練された、大人の男性に違いなかった。

 即座にそのことを思い付くレンの発想を尊敬しつつ、レオはその方向で夏休みの課題を考えることにした。

 夏の日差しの強い薬草畑には、帽子を被って行くようにとレンに送り出されて、レオは雑草取りをしたり、害虫を取り除いたりしているエドヴァルドとイサギに近寄る。夕暮れ時で、仕事を終えようとしていた二人は、レオの訪れに道具を片付ける手を止めて話を聞いてくれた。


「エドさん、イサギさん、こんにちは。俺、夏休みに魔術具作りの課題が出たんやけど、いつもと違うもんを作らへんかって言われて」

「レオくんの作るもんは、いつもカナエちゃん宛てやもんな」

「カナエさんによくお似合いですよね」

「ここでもバレとった!?」


 どこに行っても指摘されることは同じでレオは恥ずかしくなったが、ここで恥ずかしがっているだけでは話は進まない。狼狽えながらも、お願いしたいことを口にする。


「エドさんは、テンロウ領の領主様の息子で、女王はんの従兄やろ? 上質な魔術具を持ってはるし、大人の男性として……その、洗練された御人や。それに、イサギさんはそんなエドさんの惚れた御人や。二人の持ってる魔術具を見て、二人を観察させてもろたら、何か良いアイデアが浮かぶんやないかと思って」


 お願いしますと頭を下げると、エドヴァルドが恐縮して、イサギがにやける。


「エドさんの良さが分かるやなんて、レオくんも良い審美眼しとるやないか」

「私でお役に立てるのでしたら。よろしければ、今日は晩御飯をご一緒にいかがですか?」


 マンドラゴラ畑で踊っていたタケが、脚元に駆けて来るのを抱き上げて、エドヴァルドが家に招待してくれる。テンロウ領の別邸でナホとラウリとカナエと子どもだけで、使用人の手を借りて生活していた頃は食事も家族とは別だったが、それ以外でお茶はともかく夕食に招かれたことはないので、レオは慌ててしまった。


「お父ちゃんとお母ちゃんに聞いてくる……あの、カナエちゃんも一緒でええ?」


 つい、カナエの名前が出てしまったのは、一人で行動することに慣れていないのと、ナホの家ならばカナエも夕食に招かれたいだろうと思ったからだ。


「大歓迎ですよ。ナホさんも喜びます」

「ミノリちゃんも、お姉ちゃんとご飯、嬉しいやろうし」


 承諾を得てサナとレンとカナエの元に走っていくと、サナもレンも快く許可してくれた。


「エドヴァルドはんのお家やったら安心やわ」

「カナエちゃんも一緒なら、危なくないしね」


 突如一緒に行くことになったが、カナエもまた嬉しそうだった。


「本当は、もっとミノリちゃんと話したかったのです。機会をくれてありがとうございます」


 自分が一人で行くのが心細かったからなどと言えず、カナエに感謝されて、レオは照れながら手を繋いでイサギとエドヴァルドの家まで歩いて行った。

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