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14.サナの疑惑

 レオの誕生日にはデシレーもオダリスもナホもラウリも招かれて、セイリュウ領の領主の息子として盛大に祝われた。広いパーティー会場には、ナホの両親のイサギとエドヴァルドも来ていて、誕生日お祝いに南瓜頭犬のサナエとスイカ猫のサラ用の栄養剤をもらって、レオはとても喜んでいた。

 弟のタケをナホは連れて来ていて、タケは相変わらずベビーバスケットに寝かせられているユナを見て「かーいーねー」と見惚れている。ラウリの弟のミルカはレイナに夢中で、手を引っ張っては、お料理を食べさせてもらっているようだった。

 それぞれに楽しんでいる中で、カナエは見たことのある顔を客の中に見つけて、立ち止まった。デシレーの誕生日パーティーでカナエに話しかけてきた年下の女の子。レオの魔術学校の同級生だろうが、その女の子をレオが招くという報告はなかった。

 レオとカナエの間に秘密はないはずなので、その子が勝手にパーティーに紛れ込んできた可能性をカナエは一番に疑った。王都の魔術学校に行けるくらいだから、貴族なのかもしれない。

 魔術師は血統でしか引き継がれないので、そのほとんどが貴族に買い上げるようにして子どもを作らされた長い歴史があって、魔術の才能の強いものはほとんどが貴族という現状が出来上がっている。レンやジュドーのように市井で才能を見出される方が稀なのだ。

 見知った子が紛れ込んでいることをサナに伝えておこうとカナエが動くより先に、彼女の方がカナエに近付いてきた。白い肌に黒い髪、小柄な体つきは、セイリュウ領の人種だろうか。


「サナ様ってもうすぐ40歳でしょう? 本当に若々しくて美しくていらっしゃるわ」

「お母さんはまだ38ですよ?」

「きっと、素晴らしい不老不死の魔術薬をお使いなのね」


 何を言われているのか、一瞬意味が分からずに、カナエは彼女の顔をまじまじと見つめてしまった。

 権力者が、老いることを厭うて、不老長寿の魔術薬を使うことは、あり得ない話ではない。それらの材料が完全に合法であれば、それはただの美容薬であるし、問題はないはずだ。

 違法な材料や、魔術師から魔術を吸い取って若さを保った結果を、カナエはペトロナという女性を通してよく知っている。70代になるのに若々しく美貌を保っていた彼女は、歪で中身が完璧に壊れ切っていた。


「セイリュウ領領主が違法な魔術薬を使っていると言いたいのですか?」

「そんなこと口にしたら、『魔王』のサナ様に始末されてしまうわ」


 笑いながら人ごみに紛れた女の子は、去り際にカナエに耳打ちして行った。


「サナ様、レオくんに何か渡してるわ。怪しいオクスリだったりして」


 そんなはずはないと苛立ちながら、カナエはサナとレオの元に行った。ケーキが配られて、お茶と一緒に食べ終えると、パーティーはほとんどお開きになって、客が帰っていく。目を凝らしても先ほどの女の子は見つからず、カナエは微妙な表情をしていた。


「カナエちゃん、ケーキ、口に合わへんかったか? やっぱり、スポンジケーキよりシフォンケーキにした方が良かったやろか? それとも、生クリームやなくて、チョコレートコーティングが良かったか?」

「レオくんのケーキはとても美味しかったのです。この時期にイチゴをよく手に入れられたのです」

「イサギさんに相談したんや。そしたら、温室で温度調整して育ててくれて。カナエちゃん、イチゴ好きやろ?」

「赤くて可愛くて甘くて、大好きなのです」


 カナエのためにレオは、レオの誕生日なのにカナエの好物のイチゴを調達する手はずまで整えてくれる。その気持ちが嬉しくて、カナエはせっかくの誕生日に楽しくなさそうな顔を見せてしまったことを反省した。


「レオくんの同級生の子が、来ていたのですよ。心当たりがありますか?」

「俺の同級生は、デシレーちゃんとラウリくんしか呼んでへんはずやけど。もしかしたら、セイリュウ領の貴族が子どもを連れてきたのかもしれへんな、お母ちゃんに確認してみよ」


 パーティーの間中母乳がもらえずに暴れていたユナとリンに、母乳をあげているサナのところに行くと、レンも同席していた。双子を一度には母乳を上げることができないが、もう一人が飲んでいるのを見ると欲しがって泣くので、家族の誰かが抱っこして待てるようにしていた。

 ユナもリンもお腹がいっぱいになると、パーティーでたくさんのひとに囲まれた疲れでベビーベッドで眠ってしまう。双子が眠ったのを確認して、レオとカナエはサナに問いかけた。


「俺の同級生が来てたんやけど、俺は呼んだ覚えあらへんの。お母ちゃんとお父ちゃん、気付いた?」

「セイリュウ領の貴族が何人か子どもを連れて来ているのは、気付いたっちゃけど、領主の屋敷でのパーティーは他の貴族と出会う場にもなるけん、気にしとらんかったね」

「うちが領主になったとたんに親戚面して近付いてくる阿呆たちは、大概蹴散らしたはずなんやけど、奴さんら、しつこいからなぁ」


 領主として、息子の誕生日を祝いたいと部下の貴族に言われたら、無碍にできないのも現実である。できる限りは断っていたが、工房の関係者や、軍の関係者、領地中に作った薬草畑の関係者などは、断り切れず、その誰かがレオの同級生の娘を連れてきた可能性はあるとサナは答えた。


「あの子、デシレーちゃんのお誕生日にも来ていたのです」

「お尻に敷いた言うた子か?」

「そうなのです……今度は、お母さんが、不老不死の薬を使っていると言ったのです」


 そんなものは使っていないはずだが、サナはカナエが引き取られたころから、あまり年を取っていないようにも思えてきて、カナエは真正面からサナに問いかけた。


「お母さんは、そういう薬を使っているのですか?」

「美容薬や化粧品は多少使うてるけど、うちは、老いない薬とかいらへんのや。うちがお婆ちゃんになっても、レンさんは『美しい』て言うてくれるから」

「サナさんが美しくないことなんてないよ」

「レンさんも、ずっと良い男で、可愛いわぁ」


 惚気る二人に、確かにこれならば不老不死の薬などいらないだろうとカナエは納得した。ペトロナの歪んだ美貌を、サナが醜悪だと思っていたのも知っている。


「レオくんが産まれる前に、イレーヌ王国いう国が大陸にあってな、そこの女帝は、自分が死なへんかったら、良い政治を続けられると信じ込んでたんや」


 その治世が90年を超えたあたりから、国が歪み始めたのだという。イレーヌは死なないことに固執して国内で生まれた魔術師を、全て宮廷に集めて、自分の餌にするために育てさせて、魔術を持たない獣人を毛嫌いし、僻地に追いやった。そこから逃げ出してダリア女王の呪いを解いたのがリュリュで、リュリュの捕えられた両親を助けるために、ローズはイレーヌ女帝を王位から引きずり下ろした。


「生に拘って、生きるために幼子の心臓を食らうようなバカげた生き方を、うちはしたいとは思わへん」

「俺らが老いて死なんと、次の世代の生きる場所がなくなってしまうけんね。ユナくんやリンちゃんのためにも、俺もサナさんも、ちゃんと死に時は見極めないかんとよ」


 子どもよりも先に老いて死んでいく。その姿を見せるのもまた親としての役目だと、レンは穏やかに語った。

 本当の親が見せてくれなかった姿を見せて愛情をかけてくれるサナとレンは、カナエの両親に違いない。


「お母さんは、レオくんに何を渡していたのですか?」


 絶対に怪しいオクスリなんかではないと分かっているが、気になって問いかけたカナエに、レオがあっさりともらった箱を開けて中身を見せてくれた。ガラスの薄い爪やすりに、茶虎の猫が描かれたものが、透明のケースの中に入っている。


「お父ちゃんの工房に出入りするようになったから、お誕生日にこれをくれたんや」

「爪やすり、ですか?」

「レンさんはな、細かい作業をするやろ? 爪が欠けることが多いねんて。その爪でうちや子どもたちに触れたら怪我をさせてまうから、工房での作業の最後には、必ず爪やすりで爪を整えてから帰って来てくれはるんや」


 その話を聞いて、サナは感激して、レオが工房に出入りする年になったら爪やすりを贈ろうと決めていたのだという。

 盛大に惚気て話されて、レンが恥ずかしそうに説明する。


「サナさんの肌も、小さな子どもの肌も柔いから、俺の爪で傷付けたくなかったっちゃん」

「レオくんにも、レンさんみたいな良い男になってもらわなあかんからな」


 仲睦まじい様子の両親に、カナエは肩の力が抜けるようだった。

 不老不死など、生命を曲げるような魔術は使ってはいけない。それはサナもレンもしっかりと理解している。カナエも魔術師としての才能は高いし、手に入れようとすれば領主の娘という地位を使って不老不死の魔術薬を手に入れられない立場ではない。

 不老不死の魔術薬に手を出せばその先に何が待っているのか。


「老いることが怖くて、ずっと薬を使い続けて、その薬に人生を蝕まれるなんて、絶対に嫌なのです」


 けれど、あの女の子は何を考えてカナエに声をかけてきたのだろう。

 違法薬物の気配に、カナエはサナに警戒するように伝えなければと顔を上げた。

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