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4.いとこ

「あかたん、かーいーねー」


 中庭の薬草畑を散歩すると、ユナもリンも喜ぶので、レオとカナエで抱っこして連れて行けば、マンドラゴラ畑でマンドラゴラと踊っていたタケがぽてぽてと歩いてきた。リンゴのような真っ赤なほっぺたに手を当てて、ユナとリンを見てほぅっとため息を吐く。

 微笑ましい光景にレオは和んでいたが、カナエは何か覚えがあるような気がして、タケを凝視してしまった。

 レオが産まれたときに、カナエは4歳だったが抱っこされた可愛いレオの顔を見て、決めていた。これはどこかで見たことがある。


「タケちゃん、もしかして……ユナくんとリンちゃんのことが、好きなのですか?」

「うん、すち!」

「ダメなのですよ、二人とも好きなのは、二股というのです」

「ユナたん、すちよ?」


 レオに抱っこされてご機嫌のユナを見せてもらって、首を傾げるタケに、カナエは震え上がった。


「レオくん、ユナくんを狙う輩なのです! 戦争なのです!」

「タケちゃんとユナくん、一緒におったら可愛いなぁ。抱っこするか?」

「すゆ!」


 ベンチに座らせて膝の上にユナを抱っこさせてもらってご機嫌なタケと、カナエがレオと結婚を決めた4歳のときには赤ん坊だったために危機感のないレオに、カナエは震え上がっていた。

 赤ん坊で可愛いベビー服を着せられているので性別は分かっていないかもしれないが、ユナは男の子、タケも男の子で、男性同士で結婚できることはカナエも知っていた。子どもの世迷言などと笑えないのは、自分のことがあるからだ。


「ユナくんとタケちゃんが結婚したいって言ったら、ナホちゃんはどうしますか?」


 お散歩を終えて、水分補給をしてユナとリンを寝かせてから、足元にタケを纏わりつかせながら薬草畑で手伝いをしているナホに話しに行くと、青い目を丸くしていた。


「タケちゃん、ユナくんと結婚したいの?」

「タケね、ユナたん、すちなの」


 照れながらこっそりとナホの耳に囁くタケの声が、カナエには確り聞こえている。


「私は良いんじゃないかなと思うんだけど。恋愛は本人の自由でしょう?」

「可愛いユナくんが!」

「カナエちゃんは、家族のことになると目の色が変わっちゃうもんね」


 指摘されて、そうだっただろうかとカナエは思い返す。

 自分よりも母でセイリュウ領領主のサナの方が、子どもたちに甘いし、何かあれば目の色が変わる気がするのだが、ナホにはカナエもそんな風に見えているのだろうか。


「タケ、ママ、いないの。おとうたんがふたりいゆの。おねたんがいゆの。うれちいの」

「私はタケちゃんのお姉ちゃんで、ずっとタケちゃんの味方だよ」


 縁があればどんな子どもでも引き取る気でいたイサギとエドヴァルドの家にやって来たのは、魔術の才能のある泣き虫な痩せた男の子。両親を流行り病で亡くし、その後で引き取られた祖母も流行り病で亡くしたタケは『病魔を呼び寄せる不吉な子』として領主の屋敷の庭のマンドラゴラ畑に捨てられてしまった。

 詳しく調べてみると、大量の死者を出した流行り病の予防薬が開発されてからタケは産まれていて、セイリュウ領で予防薬を病院で無料で摂取できるようにしていたので、出産時に予防薬を接種していて抗体ができていたというだけの話だった。


「タケちゃんのご両親とお姉さんとお祖母さんは、予防薬を接種しなかったのですか?」

「無料だからってわざわざ病院に行くひとは少ないみたいなんだって。イサギお父ちゃんがサナさんに伝えたら、セイリュウ領では全員が受けるように義務付けなきゃいけないって言ってたけど……」


 義務付けたところで、予防薬を信じていなかったり、それを打ったら副作用で死ぬなどという噂を流したりして、正しい知識を持たないで接種を拒むひとたちが一定いるのはどうしようもなかった。


「タケちゃんのお姉さん……」


 幼いタケの姉ならば、同じく幼かっただろうに、失われてしまった命を取り戻すことはできない。


「おねたん、いゆよ?」

「そうだね、私がタケちゃんのお姉ちゃんだもんね」


 亡くなったときに幼かったのではっきりと覚えていないのだろう、タケの中では姉はすっかりとナホに書き換えられているようだった。母親だけが不在なことは分かっているようだが、父親の記憶ももうイサギとエドヴァルドのものに書き換わっている気がする。


「本当のお姉さんは忘れられてしまったのですか」

「情報があれば教えてあげたいんだけど、親戚もみんな口を閉ざしてるんだよね」


 『病魔を運んでくる不吉な子』としてタケに関わりたくないのか、辿り着いた親戚もみんな自分とタケは関係ないという。


「どこかで聞いたような話なのです……」


 魔術の才能が有りすぎて暴走させていたカナエを、実の両親は領主の跡継ぎにさせるためにサナに差し出して、その後全く会ったこともない。セイリュウ領に住んでいるのは知っているのだが、カナエは両親のことを調べようとも思ったことがなかった。

 ナホのように魔物に殺されたとはっきり分かっているのならばしがらみもないが、カナエの両親はどこかで生きている。

 会ってみたいと思わなかったが、それは突然に訪れた。


「カナエちゃん、ちょっといいかな?」


 研究過程の授業を終えてセイリュウ領のお屋敷に変える準備をしていたカナエに、ナホが声をかけたのは、数日後のことだった。親戚にタケを返すつもりは全くないし、もうタケはナホの弟で、イサギとエドヴァルドの息子になっているが、それはそれとして、タケの両親や姉の写真や記録が少しでも残っていたらと、ナホの家族は探し続けていた。

 その結果として、辿り着いたのが、カナエの両親だったのだ。


「タケちゃんのお父さんとカナエちゃんのお父さんが、兄弟だったみたいなんだ」

「タケちゃんは、カナエの従弟ということですか?」

「イサギお父ちゃんは、前の領主の後妻の息子でしょ? 前妻が産んだ異母兄弟だったみたいで、イサギお父ちゃんとタケちゃんは血の繋がりがあるのが分かったのはいいんだけど……」


 カナエにそのことを黙っておくわけにはいかないと、ナホは気にしながらも教えてくれた。


「カナエのお父さんはレンさんだし、お母さんはサナさんなのです。もう、カナエには関わりのないひとたちです。でも、気にして教えてくれてありがとうございます」


 サナも前の領主とは血の繋がりがあるから、全く血の繋がりのない相手に引き取られたわけではない。しかし、もっと血の繋がりの濃い相手が、思わぬところにいたということは、カナエを動揺させた。


「おば……お母さん、少しお話をしても良いですか?」

「お母ちゃんて呼んでくれてる……なんでも言うて」

「いちいち、感動しなくていいのです」


 ユナとリンが産まれて以来サナのことを「お母さん」と呼ぶようになったのを、「おばさん」と呼ばれていた期間が長い分、サナはまだ聞くたびに感動する。長い反抗期だったと自覚があるが、そんな風に反応されると、また「おばさん」と呼びたくなってしまうカナエだった。

 呼び方の話については置いておいて、本題に入る。


「タケちゃんが、カナエの従弟だったみたいなのです」

「そうらしいなぁ。イサギが報告に来てたわ」

「お母さんは、知っていたのですか?」


 懐かしんで名残惜しく泣くくらい、タケは両親と姉のことが好きだった。姉とは年が離れていたようだが、年の離れた弟が産まれる程度には、両親の仲も良く円満な家庭だったようだ。


「魔術師としての才能があったから、そうかもしれへんとは思うてた」


 血統でしか引き継がれない魔術師の才能を高めるために、魔術師同士で結婚して、貴族のほとんどが魔術師の才能を持っていて、領主に近い血統のものは特に才能が高く生まれて来る。カナエも前の領主の血統だし、魔術の才能があることが分かったタケも前の領主の血統で、魔術の才能があるナホは王都の貴族の娘ということが分かっている。

 魔術師としての才能がある時点で、血が近いか、貴族の血を引いていることはサナには予測できていたようだった。


「カナエの両親はお父さんとお母さんだから気にもしていなかったのですが、あのひとたちは、カナエに会いに来たことがありますか?」


 魔術の才能のある子どもを作るためだけに結婚するというのがあり得るのが、貴族社会だ。前の領主から跡継ぎになる魔術の才能の高い子どもが産まれなかったから追い出された前妻が、自分の孫を領主の座に返り咲かせるために、愛のない結婚を子どもにさせた可能性も充分に考えられる。


「来てへんし、来てもカナエちゃんはうちとレンさんの子や。会わせる気はないで」


 来ていないという事実に特に何の感情も抱かなかったが、はっきりとサナがカナエを自分の子だと公言してくれたことは、信じてはいたが、やはり嬉しかった。


「タケちゃんと従姉弟(いとこ)なのは嬉しいし、タケちゃんのご両親とお姉さんのことは調べて欲しいですけど……」

「カナエちゃんのこと、返せて言うても返さへんで」


 タケの父の兄ならば、タケの両親と姉のことを知っているかもしれない。情報は引き出したいが、会ってみたいとは思わない。

 そう心に決めているのに、カナエの心は何故か揺れていた。

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