1.姉兄の覚悟
「二人も入ってたんか。そりゃ、お腹も重たいし、大変やったわ」
難産の末に生まれたのは、レンに似た褐色の肌の女の子と、サナに似た白い肌の男の子の双子だった。お腹が大きかったのでもしやとは思っていたが、本当に二人も入っているとは信じられなかったようで、産んだ後に息も絶え絶えにサナの吐き出した感想はそれだった。
お産自体は三度目だったが、双子は初めてで産まれた赤ん坊を抱っこしたらそのまま気絶するように眠ってしまったサナを休ませて、レンとカナエとレオとレイナで交代で赤ん坊を見ていた。哺乳瓶での授乳がうまくいかなくて、小さな双子はお腹を空かせて、ふにゃふにゃと泣いていたが、四人で交代で小まめにおむつも見て、少しずつでもミルクが飲めるようにしていたら、三日目くらいにはサナも復活して、授乳に参戦した。
双子なので、一人ずつ飲ませなければいけないのだが、新生児に待つことなど出来ず、どちらかを泣かせることになる。哺乳瓶のミルクよりも母乳の方が飲みやすいのか、双子はサナの胸を取り合っていた。
「こっちの子はレンさんそっくりや。こっちはうちに似たんやろか。かわええなぁ」
それでも、サナが余裕を持って子育てできるのは、出産後一ヶ月は絶対安静で仕事も完全に休みで、レンとカナエとレオとレイナの援助体制が整っていたからだった。
魔術学校に通うレオとレイナは、年末の試験で進級は決まっていたので残りの期間はセイリュウ領の屋敷から王都に通うことにした。元々レイナは屋敷から送ってもらって通っていたが、カナエも研究過程にセイリュウ領の屋敷から通うことにして、送り迎えはカナエの役目になった。
双子は女の子がリン、男の子がユナと名付けられることになった。
「魔術学校の期間はテンロウ領の王都の別邸から通おうかと思うてたんやけど、四年生からは移転の魔術の使用許可も下りるから、俺、セイリュウ領から通うわ」
「カナエも、レイナちゃんの送り迎えをして、セイリュウ領から通います」
「リンちゃんとユナくんが可愛いから、うちも王都から通いたかったけど、やっぱりここから通うわ」
学年が上がったらレイナも親元を離れて王都から魔術学校に通いたいと思っていたようだが、それは双子の誕生によって一転した。産まれたときは双子だったので小さかったが、リンとユナはお乳をお腹一杯飲んで、春にはふくふくと赤ん坊らしく丸くなってきた。
昨年の夏には、ナホのところも新しい養子を貰ったということで、ナホもテンロウ領の王都の別邸からではなく、セイリュウ領から移転の魔術で研究過程に通うことを考えていたようだった。
「お屋敷から家は近いし、私もタケちゃん連れて遊びに行くから、前とあまり変わらないね」
「課題を教えてもらうにも、ナホちゃんとは専攻が別れてしまいましたからね」
テンロウ領の王都の別邸で使用人の手を借りながらも過ごした、子どもだけの共同生活は楽しかったが、もう終わりの時期に来ていた。春休みには、ナホはセイリュウ領の両親の家に、レオとカナエはセイリュウ領の領主のお屋敷に、ラウリは王宮に戻って、そこから魔術学校や研究過程に通うようになった。
春休みにカナエは19歳になって、リンとユナは元が小さかったので成長もゆっくりだが、首も据わり始めて、縦抱っこで周囲を見るのが大好きになった。
「赤さんって、こんなに抱っこされとらなあかんのか?」
「レオくんのことが大好きなのですよ」
「ぷよぷよで可愛い……うち、学校行きたくないわぁ」
春休みの間は良いが、魔術学校が始まると日中はリンとユナと離れていなければいけない。双子だったので長めに休みをとっていたサナも、仕事復帰して、双子は乳母に預けられることになる。母乳を欲しがるので、授乳の時間には仕事を抜けて来るが、以前と違って、モウコ領も領主は女性、コウエン領も領主は女性、テンロウ領は領主が男性だがナホの祖父で理解があるので、サナも相当子育てがしやすくなっているのは確かだった。
なにより、女王のローズが3歳まではミルカにお乳をあげると決めていて、毎日休憩をとっているので、頭の硬い貴族たちも口出しできないようになっていた。
中庭の薬草畑に、カナエがナホを訪ねて顔を出せば、マンドラゴラ畑で茶色の髪に茶色の目の3歳になったばかりのタケがマンドラゴラと踊っている。それを見ながら、草取りをするナホをカナエも手伝った。
「一度、ミルカくんとタケちゃんとリンちゃんとユナくんを会わせてみたいですね」
「それは、みんな可愛くて大変なことになるよ?」
「ラウリくんはミルカくんが、ナホちゃんはタケちゃんが、カナエとレオくんとレイナちゃんはリンちゃんとユナくんが一番可愛いって言うと思うのです」
「間違いないね」
夏休みに引き取られたタケは、ナホの家で可愛がられて伸び伸びと育っている。痩せて、マンドラゴラを怖がって泣きべそをかいていたのが、今はマンドラゴラと仲良しになっていた。
「この前、タケちゃんが蕪マンドラゴラとお昼寝してて、間違えて出荷されそうになったんだよ」
マンドラゴラと仲良くなったのは良いのだが、仲良くなりすぎて、タケはマンドラゴラに紛れてしまうことがある。体が小さいので、大きめの大根マンドラゴラや蕪マンドラゴラの中に入ると、コロコロムチムチとしているし、葉っぱも立派に茂っているので、姿が見えなくなるのだ。
「タケちゃんがおらへん!?」
薬草畑で働いていたイサギは、いつものようにタケはマンドラゴラ畑で踊っているとばかり思っていた。お昼ご飯に迎えに行くと、マンドラゴラはネットの中に行儀よく納まっていて、タケの姿がない。
恐慌状態になったイサギは号泣しながらタケを探した。
「あんなに可愛いから攫われたかもしれへん」
「イサギお父ちゃん、タケちゃん、いないの?」
「そうや、エドさんに伝えてきてや」
急いでエドヴァルドのところまで走るナホに、一匹の蕪マンドラゴラがつんつんとイサギの袖を引いた。先導する蕪マンドラゴラに連れて来られたのは、出荷される蕪マンドラゴラの箱。その蕪マンドラゴラもそこからやってきたようだ。覗き込めば、蕪マンドラゴラに混じって健やかに寝ているタケがいた。
「タケちゃん、こんなところで寝とったら、売られてまう! あかーん!」
「かぶしゃん、いっちょ。やーなの」
起きてからもタケはと箱から出ることを嫌がって、エドヴァルドに蕪マンドラゴラと一緒に正座させられて説教を受けることになる。
「とても心配したんですよ。出荷する蕪マンドラゴラとは、お別れをしなければいけないのです」
「やーの! かぶしゃん、いっちょー!」
「売るために育てられたマンドラゴラなのですよ。このマンドラゴラがいれば、サナさんもお乳が良く出て、赤ちゃんもお腹がいっぱいになります。お腹を空かせた赤ちゃんがいる方が、タケさんは嬉しいのですか」
「やぁや……ごめちゃい」
切々と語るエドヴァルドに、泣きながらしがみ付いているイサギ、反省してコロンコロンしながら正座で頭を下げる蕪マンドラゴラと、事態は非常に混乱していた。
そんな話を聞いて、カナエが過ったのは、可愛いリンとユナがマンドラゴラに紛れないかという心配だった。
「イサギお父ちゃんは私やタケちゃんを可愛がってるし、泣き虫だもんね。タケちゃんも、イサギお父ちゃんにそっくりなんだよ」
「育てるひとに似る……カナエはお母さんに似ていないのです」
「カナエちゃん、サナさんのこと『お母さん』って呼ぶようになったんだ」
「それは……リンちゃんやユナくんが『おばさん』って覚えたら、お母さん、泣いちゃうじゃないですか」
カナエの優しさなのです。
言い訳のようになってしまったが、年末のサナの出産以降、カナエはサナを『おばさん』ではなく『お母さん』と呼ぶようになっていた。
新学期が始まって、レイナとレオはそれぞれ魔術学校の二年生と四年生、カナエとナホは研究過程の二年生になる。
学生生活はまだ残り3年。カナエがレオと結婚できるまでは、まだまだ遠かった。
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