12.パーティーのやり直し
全員でセイリュウ領に戻ると、ナホとラウリとレイナが心配そうに待っていた。
食べかけのケーキもそのまま、お茶は冷めてしまっている。
「カナエちゃんの分のケーキを取っておいたんや。オダリスくんのもな」
「俺のも? なんで?」
「ちゃんと解決したら、デシレーちゃんを迎えに来るかもしれへんかったやろ」
お茶を淹れなおしてケーキを持ってくるレオに、オダリスが頭を下げる。
「俺らのせいで、誕生日パーティーがめちゃくちゃになってしまって、本当にごめんな」
「気にせんといて。まだやり直しできるもん。な、カナエちゃん」
「はい、やり直せるのです」
ケーキは食べかけだったり、お茶は淹れなおさなければいけなかったりしたが、全員揃っての誕生日パーティーにレオは嬉しそうだった。信じてカナエの分のケーキも取っておいてくれたということを、カナエも喜んでいた。
みんなでケーキを食べてお茶をしていると、リューシュとジュドーの魔術の通信で、コウエン領から情報が入る。
ペトロナが捕まったことを大々的にコウエン領中に伝えて、オダリスとデシレーの母親を探していることを発表すれば、織物の工場で働いていた女性がすぐに名乗りを上げてくれたのだ。
『子どもたちのことが心配で、コウエン領を離れられなかったそうですの』
「お母さんに会えるとね?」
『息子さんと娘さんのことを心配しとるよ』
「コウエン領領主様、ありがとうございます。セイリュウ領領主様も……」
「うちが送って行ってあげようね」
移転の魔術でサナがオダリスとデシレーをコウエン領まで送って行って、戻ってくる頃には、お茶の時間は終わって、夕食前の寛ぎの時間になっていた。誕生日だが、明日は魔術学校の授業があるので、夕食を食べたらレオとカナエとラウリとナホはテンロウ領の王都の別邸に帰ることになっている。
冷めてしまったお茶を取り換えようとするレオに、「これでええで」と言って、飲みながら、サナはデシレーとオダリスの母親のことを話してくれた。
「二人は魔術学校の寮に入って、卒業まで通うて言うてたけど、休みにはコウエン領のお母さんのところに帰るんやて」
「良かったなぁ、二人ともお母さんがおったら安心や」
「二人のお母さんは、ペトロナと自分の夫が呪いの魔術具を作っとるやなんて知らへんで魔術の才能があるて見込まれて結婚して、気付いたときには子どももおって逃げられんくなってたて」
5年前の事故で夫を亡くした後に、ペトロナの元から子どもを連れて逃げようとしたが、オダリスは王都の魔術学校の寮に入っていて、デシレーは人質のようにされて、「用なしの女は嫁でもなんもない」とペトロナに追い出されてしまったのだという。
ペトロナの影響を考えるとコウエン領を離れた方が身の安全は確保されたが、子どもたちが心配で離れられずにいた。2年前に領主が交代して、魔術の才能を認められて、魔術を込めた布を織る職人として雇われながらも、いつ子どもたちが戻ってきてもいいように準備をしていた。
「心配して、愛してくれるお母さんがおるなら、二人は安心やな」
「今回は、カナエの作戦にみんなで協力してくれて、カナエを信じてくれて、ありがとうございました」
婚約解消から、ペトロナの確保までの二週間程度、レオには寂しい思いをさせたし、ナホやラウリには噂を広める手伝いをしてもらった。何より、サナやレンには婚約解消を発表させるという大仕事までさせてしまった。
「カナエちゃんは、真っすぐな子やけん、自分が納得するまで突っ走るもん。それを支えるのが、俺ら両親ってもんやけんね」
「二人が痴話喧嘩して、婚約解消しようとしたけど、カナエちゃんがレオくんの魅力を再発見して、もう一度婚約したことにしよか?」
「変なストーリーは付けなくていいのです」
「酷い! お母ちゃん、二人のために言うてるのに!」
「お母ちゃんは変なところでロマンチストなんやから」
カナエとレイナの娘二人に突っ込まれて、『魔王』の異名を持つサナもしょんぼりと肩を落とす。
「カナエちゃんが気紛れな子やって思われたら、俺は嫌やから、本当のことを話そう、な?」
「せやねんけどな……」
自分たちを引き裂こうと、ペトロナという女魔術師が、孫娘をレオ、孫息子をカナエに宛がって、魔術の吸い取りや、果てはセイリュウ領の工房の乗っ取りまで企てた。それに腹を立てたカナエが、レオとの仲を引き裂かれないために、婚約解消の嘘までついて、ペトロナの居場所を突き止めて、サナと共に屋敷を瓦礫に変えてしまった。
真実をありのままに語ってしまうと、カナエこそどこの『魔王』かという風情になってしまうと、サナは頭を抱えていた。
「良いのです。これでカナエのことが怖くて、二度とレオくんに手を出す輩がいなくなるのなら、カナエは喜んで『魔王』になるのです」
「うわー、カナエちゃん、お母ちゃんそっくりや」
「レイナちゃん、失礼なこと言わないでください!」
「うちにそっくりが『失礼』て、お母ちゃん、ショックで寝込むわ」
カナエとレイナとサナが話している間に、レオはレンと魔術具のことについて話していた。
「やっぱり、お父ちゃんのかけてくれた魔術の魔術具はすごかった。カナエちゃんのことを守ってた。俺も、お父ちゃんみたいに、愛情のある魔術具の作れる職人になりたいわ」
「あれを作ったのは、レオくんやないね。例え、魔術をかけたのがレオくんじゃなくても、どんなものがカナエちゃんに似合って、カナエちゃんを守るか、ちゃんと考えて作れるのも、大事な才能なんよ」
「俺は、カナエちゃんの役に立ったんやろか」
攻撃の魔法をレオはほとんど使うことができない。実践演習では毎回、ぎりぎりの点数しか取れない。その代わりに、レオは薬学や魔術具作りにおいては才能を発揮していた。
手先が器用なので、料理も得意で、誕生日ケーキも自分で作った。
「レオくんは、レオくんの戦い方で良いとよ。俺もサナさんと全く違うけん、一緒におって役に立つっちゃもん」
結婚してレンの魔術具の工房は、セイリュウ領の技術者を育て、セイリュウ領の一大産業として領民を富ませた。攻撃に秀でているサナは領地を魔術と結界で守り、レンが作ったものが領地を豊かにする。
それをカナエとレオで引き継いでいけばいい。
レンに言われて、レオは安堵したようだった。
夕食を食べて、テンロウ領の別邸まで送ってもらって、その日は宿題を終わらせるとすぐに眠ってしまった。
次の日、魔術学校に行くと、カナエの噂が広まっているのか、レオは教室で女子生徒に囲まれるようなことはなくなって、逆に遠巻きにされていた。女子生徒の中から、デシレーが近付いてきて、真っすぐにレオを見上げる。
「レオくんのことは、す、好きっちゃん」
「ごめん、俺はカナエちゃんが……」
「それも分かっとるし、本当は、男の子を落とすとか、そういうことよりも、私、女の子の友達が欲しかったと。子どもなのは、私やったと」
お付き合いを考えるよりも、好きな子の話で同じ年の女の子と盛り上がったり、甘いものを食べに行ったりしたい。そういう自由が全くなく、ネックレスで監視されていたデシレーは、ペトロナの言う通りにレオに声をかけて口説かなければ、いけなかった。
好きな子がいるのは嫌ではないけれど、そればかりではなく、同年代の女の子同士で仲良くしたい。
「これからはデシレーちゃんは自由なんやから、好きにしたらええ」
「ありがとう」
手を振って女子生徒の中に戻っていくデシレーは、前よりも表情が活き活きとしている。その様子に安心したレオだったが、心配事は後から訪れた。
昼休みに、オダリスに呼び出されてしまったのだ。
お礼を言うならばカナエに言うべきだと思ったが、オダリスの目的はそれだけではなかったようだ。
「昨日は本当にありがとうね。デシレーのことも、うちの母のことも」
「俺はなんもしとらんよ」
「後……ケーキ、嬉しかった」
「それは、友達やし」
人懐っこい笑みを浮かべて言うと、オダリスが申し訳なさそうに頭を下げる。
「俺、カナエちゃんが好きっちゃん」
「カナエちゃんは俺と婚約してるんやで?」
「分かっとるけど、好きな気持ちは止められん。俺のこと助けてくれて、あんなに勇敢で可愛い子、おらんと思ったと」
もっと前からレオはカナエが好きだし、カナエもレオのことを好きでいてくれる。分かっているのに、年上のオダリスの真剣な表情に、レオは胸にざわつきを覚えた。
14歳の自分と違って、オダリスはカナエと同じ年で、もう結婚できる成人した男性だ。体つきはレオの方が大きいが、オダリスに年齢でレオが追い付くことはない。
「本気、とよ。でも、レオくんにもカナエちゃんにも、恩があるけん、内緒にしておくことはできんと思ったと」
ごめんと謝られて、レオは何と言っていいか分からなかった。
誰かを好きという気持ちは、レオが何を言ったからといって変えられるものではない。
「分かった。カナエちゃんは渡せんけど、オダリスくんが正々堂々と俺に言うてくれたことは、ちゃんと分かった」
カナエの気持ちがオダリスに傾くことはない。
信じていても、胸のざわつきは取れないまま、レオが言えたのはそれだけだった。
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