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30.かけがえのないあなた

 新学期が始まってから、進級試験までは怒涛のように過ぎた。春が近くなったカナエの誕生日近くに、レオとカナエはテンロウ領の王都の別邸の薬草畑の隅を借りて、スイカ猫の種を植えた。

 育て方は、予習してある。


「最初は双葉が出て、葉っぱが伸びて、実が付いたら、ネットを張るんやな」

「小さなスイカ猫は活発に動くと身が痩せたり、尻尾が千切れたりするのです」

「害獣に食べられてしもたら、泣くに泣けんからな」


 実が成ってからは小さいうちは一週間に一回、大きくなってくれば毎日栄養剤をあげなければいけない。その中でも良く育っているものを残して、間引かなければいけない場合もある。

 ただ可愛がるだけでは済まない厳しい育成を経てからしか、スイカ猫は愛玩植物として飼えるようにはならないのだ。


「栄養剤作り、頑張るわ」

「大きくて元気なスイカ猫を育てるのです」


 双葉が出れば喜び、葉が生えてくればネットの用意をして、レオとカナエは毎日薬草畑に通っていた。マンドラゴラを植えているナホも、ラウリと一緒に薬草畑に来て、栄養剤の量や与え方を教えてくれる。

 春が来て、レオとラウリは2年生に、カナエとナホとリューシュは6年生に進級した。

 6年生の時点から、研究過程に進むことを決めているカナエとナホは、専攻するゼミを決めて、そのための授業を選んでいたが、リューシュの表情が曇っていることには気付いていた。

 昼休みでテラスに集まってお弁当を食べていると、近くでリューシュとコウエン領の元取り巻きの学友たちがお弁当を食べているのが目に入る。コウエン領の貴族の令嬢である学友たちは、リューシュを慰めているようだった。


「リューシュちゃん、何かあったのですか?」


 こっそりとその一人に話を聞いてみれば、研究過程に進まず結婚してコウエン領領主としてやっていくつもりだったリューシュに、異議を唱えた相手がいるというのだ。


「誰なのですか?」

「ジュドー様でございます」


 驚きの余りナホの元に駆けて行って事情を話せば、ナホは冷静だった。


「コウエン領も織物の製造で少しずつ立ち直ってきているし、勉強できる時間は限られているから、ジュドーさんがそう言った気持ちも分かるよ」

「魔術学校を卒業したら、結婚できるって、リューシュちゃん、あんなに喜んでいたのですよ?」


 魔術学校を卒業する日を心待ちにして、結婚する日を指折り数えているリューシュにしてみれば、魔術学校を卒業してから更に4年間、王都とコウエン領を行き来して過ごせと言うのは、酷な話だった。

 セイリュウ領の次期領主としてカナエが研究過程に進もうと決意したのは、現領主のサナが健在でしっかりと政治を行っているからだ。コウエン領とセイリュウ領では置かれている状態が全く違う。


「リューシュちゃん、話は聞いたのです! 直談判を……」

「わたくしは……」


 問答無用でリューシュを連れてコウエン領まで飛ぼうとするカナエを、ナホが止める。何かもの言いたげなリューシュは言葉を飲み込んでしまった。


「カナエちゃん、落ち着いて。午後の授業もあるからね」

「授業が終わったら、すぐに飛んでいくのです! 女心を分かっていないのです!」


 思い込んだら突っ走るカナエを止めているナホの姿に、レオとラウリも近付いてくる。


「ジュドーさんは、ほんまにリューシュちゃんが、大事で、愛してるんやなぁ」


 レオの言葉に、カナエはレオの顔を凝視してしまった。俯いているリューシュは、まだ言葉を発しない。


「好きな相手やったら、自分の年も考えたら、すぐに結婚したいに決まってるやん。でも、そうせぇへんのは、リューシュちゃんを『ただの女』でもなく、『子を産む道具』でもなく、立派な領主になって欲しいからやろ?」


 子どもを産む道具として、ただの女として求めているのならば、魔術学校を出たばかりの18歳の若いリューシュと結婚して、自分もまだ若いうちに子どもを作っておきたいと考えるのが当然だ。そうではなく、コウエン領領主としてのリューシュを尊重して、ジュドーは後4年間、待つと言っているのだ。

 説明されても、カナエはどうしても納得がいかない。


「本当にそうなのか、聞くのです!」

「カナエ様……わたくしは、ジュドー様の優しさも分かっております」

「ジュドーさんと話してみるのは、良いかもしれないけど、カナエちゃんは落ち着こうね」


 諫められて、カナエは口を出さないという約束をした後で、午後の授業を終えたカナエとナホとリューシュはコウエン領の領主の屋敷に飛んだ。お茶の用意をしてくれたライラがハラハラしながらリューシュを見守り、呼び出されたジュドーは何事かと目を丸くしていた。


「ジュドー様は、わたくしに研究過程に進んで欲しいのですわよね?」

「ライラ様は、学びたくても学ぶ機会がなかった。リューシュ様には、学べる機会があるけん、できれば学んで欲しい」

「コウエン領の領主として専念できない時間が伸びますわ? ジュドー様との結婚も、遅れてしまいます」


 涙ぐんで必死に訴えるリューシュに、ジュドーは穏やかに告げる。


「研究過程の4年間よりも、リューシュ様がこれからコウエン領を治めないけん時間は、もっともっと長いとよ。俺とおる時間も。目の前の4年間を惜しんで急ぐよりも、それよりずっと先の未来まで、コウエン領を治めて、俺と一緒におるために、研究過程には進んで欲しい」


 そこまで言われてしまうと言葉を失ったリューシュに、カナエは口を出さないという約束を破ってしまう。

 領主としてのリューシュを確かにジュドーは尊重してくれているが、女性としてのリューシュはどうなのだろう。


「結婚は、どうなのですか? リューシュちゃんは、魔術学校を卒業して、ジュドーさんと結婚する日を楽しみにしていたのです。ジュドーさんは、リューシュちゃんと結婚したくないのですか?」

「結婚は、急がんでも……」

「わたくしは、少しでも早くジュドー様のものになりたいのです……コウエン領領主として、研究過程に進んで、魔術を深く学び、魔術師の少ないコウエン領の手本とならねばならないのは分かります。頭では分かっていても、わたくしは……」


 黒いリューシュの瞳から零れた涙に、ジュドーは動揺しているようだった。

 領主としてのリューシュ、一人の女性としてのリューシュ。そのどちらも尊重することはできないのか。


「結婚したら、いいんじゃないかな?」


 あっさりと答えを出したのは、ナホだった。


「そうですわ、結婚したらいいのですわ」


 手に汗を握って様子を見守っていたリューシュの姉のライラも、あっさりと同意する。


「魔術学校の研究過程で、結婚しているものは通ってはいけないという決まりはないよ」

「わたくしも、リューシュが研究過程を終えるまでコウエン領で学んで、その後は魔術学校がコウエン領に設立されれば、学校に通いますわ」


 結婚も、研究過程も両立すればいい。学びたいのならば、ライラのように学べる機会ができたときに学べばいい。

 柔軟な考えに、ジュドーもリューシュも二人の話に聞き入っていた。


「魔術学校を卒業したら、結婚してくれますか?」

「はい」

「結婚しても研究過程に通わないかんけんね?」

「はい……領主も、妻も、学生も、全部頑張ります」


 手を取ってリューシュを立たせたジュドーに、リューシュは抱き付いた。

 丸く収まって、安堵してレオとラウリの待つテンロウ領領主の別邸に戻ると、リビングで宿題をしていた二人が、カナエとナホに駆け寄った。


「大丈夫でしたか?」

「リューシュちゃんは結婚するけど、研究過程に進む。それで解決したよ」

「ナホちゃんは、冷静で、頭が良くて、カナエは暴走してばかりなのです」


 落ち込みかけるカナエに、ナホが苦笑する。


「逆だよ。私はいっぱい考えすぎて、最初の一歩が前に出ないんだ。カナエちゃんが突撃してくれるから、私はその後で考えればいいだけ」


 考えすぎてしまって踏み出すことのできないナホにとっては、勢いで進んでしまうカナエの存在がなければ、今までのリューシュを助けに行ったのだって、魔物退治だって、成功していない。

 最悪の出会いから一年、ナホとカナエとリューシュは、かけがえのない親友になっていた。

これで、第一章は終わりです。

第二章は物語開始から二年後で、カナエが18歳のお話になります。

そちらも引き続きお楽しみください。


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