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25.和平交渉

 アイゼン王国の貴族のほとんどは魔術師の才能を持っていて、魔術学校や魔術師の弟子に入ってその能力を磨く。魔術が強いものほど良い縁談が持ち込まれるし、魔術師としての才能が高いというだけで一昔前は人買いのように貴族が子どもを買い上げることもあった。

 血統でしか継がれない魔術師がアイゼン王国にこれだけ多いのは、貴族たちの悪習もあったからだろう。また、アイゼン王国が島国でその中で血統を混ぜ合い、魔術師の才能を伸ばしていった結果かもしれない。

 大陸には魔術師は少ないと聞いていたが、王宮から出てきた片翼の獣人の壮年の国王は、カナエにもナホにも、魔術師の才能が全くないと見ただけで分かった。魔術師は常に術式で自分の身を守り、街を守る結界を張ったりしているので、魔術師同士ならば、一目で相手が魔術師かどうか分かるのだ。

 逆に、魔術の才能のないものは、魔術師を見ても、それが魔術師かどうか分からない。隔世遺伝で魔術の才能を得た子がいたとしても、両親は魔術師と気付かないのだ。

 イレーヌ女帝が王国の政治を取り仕切っていた後期は、生まれてすぐに魔術師が生まれない獣人を除いて、国民の全てが魔術師の才能があるかどうかを検査されて、才能があるものは王宮に奪い去られた。集めた魔術師に不老長寿の外法を研究させて、その魔術を吸い取り、イレーヌ女帝は人間では至ってはいけない領域まで到達して生き延びた。

 王国なのに、『女帝』と呼ばれているのも、国の名前を自分の名前に変えたときに、イレーヌ自身が自分を国王程度で済まない、もっと高い地位のものと思わせたくて、呼ばせるようになったという。

 ただでさえ数の少ない魔術師は王宮に集められ、イレーヌ女帝に命を吸い取られるようにして若くして死ぬものが多数で、イレーヌ王国には魔術師は極めて少ない状態になっていた。

 ローズがイレーヌ女帝を引きずりおろして、今の獣人の国王を据えた後に、幼い魔術師は親元に戻されたが、その後、魔術師としての訓練をきちんと受けられたかは分からない。魔術師であることは、イレーヌ女帝に搾取されるという負のイメージがこびりついてしまったのだ。


「ようこそいらっしゃった、お客人」

「アイゼン王国セイリュウ領の領主の娘、カナエです。こっちが、テンロウ領領主の孫娘のナホちゃんです。そして、ドラゴンのシロさんと、クロさんです」


 暫定的にテンロウ領では漆黒のドラゴンをクロ、その息子のドラゴンをコクと呼び始めた。自己紹介を済ませると、ドラゴンから降りたカナエは、自分が着けている、額に音叉のついたサークレットの説明を始めた。


「このサークレットで、カナエはシロさんとお話ができるのです。ナホちゃんは、連れているマンドラゴラがドラゴンと通訳してくれます」

「びぎゃ!」

「これは、私の婚約者の女王陛下の第二王子が、私を守るようにと預けてくれた大根マンドラゴラです」

「鎧を着たマンドラゴラとは珍しい」


 全身鎧を着た大根マンドラゴラは、ラウリと先輩の人参マンドラゴラにナホを手伝い、守るように言い聞かされている。

 剣を構えてびしっと敬礼する大根マンドラゴラの様子に、イレーヌ王国の国王は驚いていた。


「国の名前も元に戻そうという案もあったのだが、我らは前国王の過ちを忘れてはならぬと、そのままにしておるのだ」

「それが、西の隣国には、イレーヌのことを思い出させると」

「何度も謝罪を試みたのだが、受け入れてはもらえなかった」


 イレーヌ女帝が自らの命を伸ばすために、隣国の国民を魔術の道具として、ひとではなく部品のように扱って、バラバラにして命を奪った事実は消せない。遺骨を返せ、遺品を返せと言われても、どの骨が誰のものか分かるような状態ではなかった。

 呪いの魔術具には人体の部分が使われることもあるとは知識として知っていたが、あまりに惨い現実に、怯みそうになるカナエの隣りで、ナホが凛と顔を上げる。


「だからといって、罪のないドラゴンから子どもや卵を取り上げて、兵器として酷使し、玉砕覚悟で大国に攻め入るのを、国王陛下はよしとなさいますか?」

「いや……ローズ女王とダリア女王からの手紙は読んだ。共に参ろう」


 片翼の獣人の国王は、飛ぶことができない。シロの背中に乗ってもらって、カナエと共に隣国の王都に降り立つ。シロの呼び声に応えて、たくさんのドラゴンたちが王都を取り囲み、王都は恐慌状態になっていた。

 王宮に向かうカナエとナホに、イレーヌ王国の国王も付いてくる。


「戦争をするつもりはないのです。アイゼン王国から来た、カナエとナホです。イレーヌ王国との和平の調停者として参りました」

「あれだけのドラゴンに王都を囲ませておいて、何が和平だ! ドラゴンライダーを呼べ!」

「あのドラゴンは、戦いに来たわけではないのです。ただ、自分たちの卵や子どもを、返して欲しいだけなのです」


 国民を魔術の道具として奪われたこの国の人々には、カナエも同情する。だからといって、ドラゴンから卵や子ども、番を奪っていいわけではない。


「奪われたから分かるでしょう? ひとの手で間違って育てられたドラゴンは、長くは生きません。あなたたちは、イレーヌ女帝があなたたちに強いたことを、ドラゴンに強いているのです」

「ドラゴンに心などない、ただの魔物だ!」

「心のないドラゴンが、卵や子どもを奪ったこの国を襲わずに、返してくれるのをただ待てるのでしょうか?」


 ナホとカナエの問いかけに、王宮から出てきた貴族たちは戸惑っているようだった。一人、若い女性がナホとカナエの前に歩み出る。


「国王は病に臥せっております。わたくしは、その娘。あなた方の言い分は分かったのですが、それがどうしてイレーヌ王国との和平に繋がりましょう?」

「私もイレーヌ女帝に片翼を奪われた。命は奪われなかったが、一族のものが奴隷とされ劣悪な環境で死ぬのを見て来た。もう、争う必要はないのではないだろうか?」

「それは、そちらの勝手な言い分。わたくしたちは、奪われ搾取された怒りを、おさめることはできません」


 美しい顔を上げて告げる彼女の前に、イレーヌ王国の国王は膝を付いた。カナエもナホも同じく膝を付いて、頭を下げる。


「金で解決できる問題ではないが、私たちの誠意として、そちらが望むだけの賠償金を支払おう。イレーヌ女帝を何十年も倒すことができず、のさばらせておいたは、我らの責任でもある」

「金で……なんと、汚いことを!」

「汚い、ですか? 混ざり合った遺骨を返し、誰のものか分からない遺品を返されるよりも、誰も傷付かずに、国同士が争わずに済む方法ではないのですか? あなたは、本当に、イレーヌ王国に攻め入って勝ち目があると思っているのですか?」


 カナエの問いかけに、王女が言葉に詰まる。ガウンを纏った老齢の国王が、召使いに支えられてよろよろと出て来た。


「そのお嬢さんの言うとおりだ。争っても、誰かが死に、誰かが悲しむだけで、この国にはなんの利益ももたらさない。賠償金のお話、お受けいたしましょう。ドラゴンの開放も」

「承知いただき感謝する。遺骨も、遺品も、できる限り国の魔術師に誰のものか鑑定させて、お返しできる分はお返ししよう」


 深く頭を下げて、イレーヌ王国の国王が礼を言う。

 国王の言葉には逆らえず、口を閉ざした王女の肩を抱き、「お前もいつかは分かる」と国王が優しく語り掛けている。

 ドラゴンを飼っている厩舎が解放されて、幼いドラゴンたちがよろよろと出て来るのを、王都を取り巻いていた母ドラゴンが迎えに行って、首を咥えて回収していた。

 飛べるドラゴンは、拘束する鞍を外されて厩舎から解放されて、それぞれ自由に飛び立つ。厩舎の中で動けなくなっているくすんだ灰色のドラゴンの元に、シロが下りて行った。


『このものは、ハクとギンの父親だが、もう長くは生きぬ。最期の時間を、安らかにすごさせてやりたい』

「セイリュウ領に来てもらいましょう。ハクちゃんとギンちゃんと過ごしてもらうのです」


 どうにか顔を上げた灰色のドラゴンに、愛おし気にシロが頬ずりをする。遺伝子を残すためとは言っていたが、番うくらいの相手に情がないわけがなかった。

 動けないドラゴンもいるかもしれないと、最初からハクとギンに使っていた月帰石の魔術具を準備していたので、灰色の雄ドラゴンを運ぶのは難しくなかった。

 イレーヌ王国は隣国に賠償金を支払う形で、和平を成し遂げた。イレーヌ王国から魔術師を派遣して、ドラゴンの産卵地も結界を張って守られることになる。

 セイリュウ領の領主のお屋敷の裏庭に下ろされた灰色のドラゴンは、好奇心旺盛に寄って来たハクとギンを愛おしそうに見つめていた。

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