24.共に大陸へ
女王陛下とセイリュウ領、コウエン領、モウコ領、テンロウ領の四人の領主の集まる会議に、カナエとナホは呼ばれていた。第二王子のラウリの婚約者であるナホは、テンロウ領の領主の孫でもあり、モウコ領の領主は夫がイサギの義理の父で、リューシュの親友でもある上、セイリュウ領でも領主のお屋敷に出入りしているので、この場にいる全員と面識があった。カナエの方も、セイリュウ領領主の娘で、テンロウ領にはナホについて頻繁に遊びに行っていたし、リューシュは親友だし、王宮には図書館によく出入りをさせてもらっている上、ローズがレイナに直々に謝りに来たこともあるので知らない仲でもないが、国を動かす会議という場所に、緊張していた。
身なりも整えて、双子の女王陛下と四人の領主のつくテーブルに、今まで調べて来た大陸でのドラゴンの飼い方とドラゴンの生態のずれ、大陸のイレーヌ王国の西の小国がドラゴンを集めていることなどを纏めた資料を提出すると、全員が難しい顔でそれに目を通す。
以前ならばコウエン領から文句が入ったが、今は代替わりをしてリューシュが領主になっているので、その点は安心だった。
「ドラゴンは距離があっても呼び合えるというのは本当ですか?」
「シロさん……セイリュウ領に住処を構える純白のドラゴンが教えてくれました。そのドラゴンの番ったドラゴンも人間に使役されていて、死にかけていたというので、嘘ではないと思うのです」
「ドラゴンの証言を信じろというのもおかしな話だが、大陸のドラゴンの産卵地から卵や幼体が盗まれておるのは事実だ。これをなんとかせねばならぬ」
アイゼン王国の領土も無限ではない。大陸の全部のドラゴンを受け入れられるほどには、広くはなかった。そもそもドラゴンには縄張りがあって、あまり近くにいすぎるとストレスを感じるのだという。
「一つの領地に5~6組のドラゴンの家族しか住めないのではないかと、セイリュウ領のドラゴンは言っていたのです」
「既にセイリュウ領とテンロウ領では、一組のドラゴンを受け入れています。ドラゴンの谷では二組の家族が子育てをしていますが、そのドラゴンたちも、いずれは広い場所を必要とします」
「セイリュウ領ではドラゴンを領地の端に運んで運動させていました。運動場所でも、他のドラゴンと被ってしまうと、お互いに威嚇し合うことがあるようなのです」
カナエとナホの説明に、テンロウ領の領主が口を開く。
「テンロウ領でもドラゴンを受け入れて、運動場所を領地の端に探して連れて行きましたが、暖かい時期はともかく、雪に閉ざされる時期は、南の雪の少ない場所が取り合いになってしまうでしょう」
アイゼン王国で、大量のドラゴンを受け入れることはできないのは、セイリュウ領、テンロウ領を住処にしたドラゴンたちからも明白だった。
住処と食料となる薬草が揃えば、モウコ領とコウエン領でもドラゴンを受け入れることができるが、それも何組まで受け入れられるか分からない。アイゼン王国の南西の小島のドラゴンの谷には、既に二組の家族がいて、また増えないとも限らないのだ。
大陸の産卵地の安全を確保して、アイゼン王国でもドラゴンの産卵を受け入れる形に戻さなければ、アイゼン王国がドラゴンで溢れてしまう。
「イレーヌ王国の国王と話をしてみよう。カナエ、ナホ、行けるか?」
ローズから命を受けて、カナエとナホはぎゅっとお互いに手を繋ぐ。
「考えていることがあるのです」
「セイリュウ領のドラゴンと、テンロウ領のドラゴンは、協力してくれると思います」
「話してみなさい」
ダリアに促されて、ナホとカナエはシロと話し合いながら、必死に立てた計画を公開した。その計画に納得してもらって、領主と女王との会議は無事に終わった。
双子の女王は、魔術を使えない獣人のイレーヌ王国の国王のために、手紙でその旨をしたためて、魔術で送る。返事は、国王の専属の魔術師から返って来た。
「立派だったよ、ナホちゃん、カナエちゃん」
「うちは鼻が高いわ」
テンロウ領領主と、サナに褒められて、カナエもナホも安堵する。アイゼン王国内に味方が多いことも、カナエとナホの計画を後押ししていた。
「コウエン領でもドラゴンの受け入れができるように、準備をしておきますわ。カナエ様、ナホ様、どうか、くれぐれもお気を付けて」
大陸でイレーヌ王国とその西の小国は一触即発の状態だと聞く。そんな場所に行くのだから、リューシュも心配するはずだが、カナエとナホには強い味方がいた。
「リューシュちゃん、コウエン領の準備が整うの、待ってるね」
「薬草の栽培技術を、イサギ様とエドヴァルド様に来ていただいて、教えてもらっているところですわ」
コウエン領もドラゴンの受け入れ準備を始めているし、モウコ領もドラゴンが来てくれることを望んでいる。結界に守られた領地の中心部ならば魔物の危険はないのだが、結界の薄くなる領地の端の方になると、魔物の被害が頻繁に報告されていた。
セイリュウ領でシロが運動に使っている周辺では、魔物が全く出なくなったということで、コウエン領もモウコ領もそれを期待しているのだ。
縄張りを主張するドラゴンの鳴き声は、魔物をも遠ざける。
会議が終わって、セイリュウ領に戻ったカナエは、待っていてくれたレイナとミノリとタケとレオと一緒に、シロの元へ行った。厩のようになっている住処は、もう狭くなって、天井を外して、解体作業が始まっていた。
母親のシロと同じくらいに大きくなったハクとギンで、裏庭は溢れそうになっている。大陸の騒動が収まれば、シロはハクとギンを連れて、セイリュウ領の端の運動をさせてもらっていた場所に移り住むことが決まっていた。周辺の住民も、シロがいてくれると魔物が寄り付かないので、大歓迎で受け入れ態勢になっている。
体の大きくなったハクとギンは、もう飛べるようになったし、薬草も必要としなくなってきていた。
「ハクちゃんとギンちゃんは、お留守番しててくださいね。シロさん、準備はいいですか?」
『大陸のドラゴンを救おうというそなたの心意気、ドラゴンの一匹として、子を持つドラゴンの母として、誠に感謝しておる』
「カナエも、シロさんがセイリュウ領に来てくれて良かったと思っているのです」
始まりはドラゴンの谷で脱皮をするシロを助けるところからだった。その後でシロはカナエを頼ってくれて、セイリュウ領で産卵を行うために降り立った。
実際にドラゴンに触れなければ、その生態を知ることはなかったし、大陸でドラゴンがどのように酷使されているかも調べることはなかった。人間が勝手に奪ったドラゴンの卵を、間違った育て方で寿命を縮め、酷使して死なせていく。
戦乱の時代は大陸では終わったはずで、イレーヌ王国を中心にどの国も和平を結んでいたので、ドラゴンが兵器とされることは少なくなったが、それでも、ドラゴンの卵や幼体を奪って自らの軍備としようとする輩はいた。そんな輩のせいで、サナもシロを兵器とするのではないかと、どれだけ疑われたことか。
「一番恐ろしいのは、正しい知識を持たないことなのです。シロさんがそのことを教えてくれました」
『ナホはテンロウ領の漆黒のドラゴンのところに行ったのか?』
「はい、合図があれば、いつでも飛び立てるのです」
卵や幼体を奪われたドラゴンには、今ならば、まだ取り返しがつくものもいるかもしれない。
大陸に向かって、シロの遠鳴が響く。
カナエがシロの背に乗って、ナホがテンロウ領の漆黒のドラゴンの背に乗って、それぞれアイゼン王国を飛び立った。目指すはイレーヌ王国の王都。
攻め入るつもりではないことは、ローズとダリアの双子の女王から知らせが入っている。
王都に降り立つ巨大なドラゴン二匹と、その背に乗ったカナエとナホに、人々が集まって来ていた。
ドラゴンの遠鳴が所々で聞こえる。
交渉の始まりは、これからだった。
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