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19.砂漠の誕生日

 立体映像を撮ってもらうことになって、職人をお屋敷に呼んで、カナエはサナに振袖を着付けてもらっていた。ユナは可愛い紋付き袴で、リンは着物を着せてもらっている。レイナもお正月に着た着物を着て、レオはレンに着付けを見てもらって、準備が整ったところで、職人に問いかけられた。


「どこで撮りましょうかね?」

「どこで……お部屋の中じゃなくても大丈夫ですか?」

「外でも撮れますよ」


 魔術のかかった機材を持ち込んだ立体映像職人に、カナエは家族の他に摂って欲しいものがあったのだ。


「シロさんを後ろにして撮りませんか?」

「シロさんとハクちゃんとギンちゃんもか」


 いい考えだと思ったのだが、実際にシロにハクとギンと住居から出てきてもらって、立体映像を写す魔術のかかった機材を設置すると、職人は困った顔でシロとハクとギンが大きすぎて入らないことを教えてくれた。

 シロとハクとギンの前に家族が並んで写ると、シロとハクとギンの全体像がよく分からない白いものとしてしか写らないようなのだ。


「ハクちゃん、お顔をこっちに持ってくるんやで」

「ギンちゃんも、お顔はこっちなのです」

「めーよ?」

「リンちゃんは、シロさんの方じゃなくて、前を向いてください」


 どうにか顔が入るような配置にしても、幼いハクとギン、リンとユナは気が散ったり、他のものに興味が移ったりして、数時間もかかって何回も撮り直しをして、ようやく最高の一枚が撮れたのだった。


「双子やったし、産まれたときにはうちは疲れ切ってて、リンちゃんとユナくんの立体映像、撮ってなかったわ。撮れて良かったなぁ」


 時間がかかって、苦労はしたものの、良い立体映像が撮れて、サナは満足そうだった。立体映像を記録した魔術具を受け取って、今度はレンとレオが加工していく。

 二つ折りの本のようにして、開くと立体映像が展開される仕組みにして、拡大もできるようにしたそれは、家族全員分と、大陸の祖父母に贈る分とが作られた。

 誕生日の当日には、レオが焼いたケーキを持って、砂漠の祖父母の家の指標を目標に、移転の魔術で飛んでお邪魔した。セイリュウ領の民族衣装である浴衣を着たレオとカナエとレイナ、作務衣を着てカボチャパンツ風にお尻をぷっくりさせたユナとリン、夏物の着物を着たサナとレンに、レツもアニーも、レキもその妻も興味津々だった。


「とても変わった美しく神秘的な服装ですね。母もそのようなものを着ていたのでしょうか?」

「私はコウエン領の出身やけん、それはセイリュウ領の衣装よ」

「僕も着て見たい」

「わたしも!」


 目を輝かせるレツとアニーには、帰ったらサイズを揃えて送ると約束して、カナエたち一家は家の中に招かれた。暑さでクリームが溶けないように魔術で冷やしてきたが、それも長持ちしないので、早めにお茶を淹れてもらって、ケーキを切る。


「よく来てくださいました。レキの父で、レイシーの夫のリクと申します」

「初めまして、息子のと言ってもよろしいでしょうか、レン、です」

「もちろん、息子と孫と思っております」

「素晴らしい贈り物をいただきありがとうございます」


 レンと話すリクは、体格はがっしりとしているが、レンよりも背は低く、レキと雰囲気がよく似ていた。顔立ちはレイシーに似たのだが、レキは表情や体格は父親のリク似なのかもしれない。


「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん、レキ叔父さんも、レツくんも、アニーちゃんも、叔母様も、これ、カナエたちの家族写真なのです」

「この着物を俺がカナエちゃんのために作ったんや。それを見て欲しくて立体映像にしてもろたんや」


 手渡した二つ折りの本のような装丁を開けば、立体映像が展開される。ケーキを食べながら、ちゃっかりと祖父母の膝の上に乗り上がったユナとリンが、指さして説明している。


「ちろ!」

「はく、じん!」

「れーた、かか、とと」

「れおた!」

「この大人のドラゴンがシロさんで、子どものドラゴンがハクちゃんとギンちゃんで、他は……説明いらんか」


 言葉足らずなユナとリンに、レイナが言葉を添えて説明するのを、カナエは幸せに見守っていた。


「誕生日をこっちでお祝いしたいという我が儘を聞いてくれて、ありがとうございます」

「前はちょっとしか会えんかったし、このひとも留守やったけん、来てくれて嬉しいとよ」

「レイシーが、カナエちゃんは肌が白くて綺麗だった、レイナちゃんもお母さんに似て可愛かった、レオくんとリンちゃんはレンにそっくりだった、ユナくんはお母さんとお父さんの良いところをとったみたいだった、と、あの日からあなたたちの話しかしないんですよ」

「そこまでじゃないやろ? もう、恥ずかしか!」

「お嫁さんがあんなに可愛くてエキゾチックで綺麗だから、子どもたちも可愛いって、何度聞かされたか」


 笑い合う夫婦は、とても仲睦まじく見えた。会ったこともない祖父に受け入れてもらえるか心配だった面もあったが、話してみると気さくで丁寧で、カナエはほっと胸を撫で下ろしていた。


「月帰石は、ドラゴンの移動に使わせてもらったのです」

「大陸では、アイゼン王国はドラゴンを兵器にするかもしれないと警戒しているけれど、本当のところどうなんですか?」


 砂漠の一部族の長としては、アイゼン王国の情勢も気になるようで問われて、サナが「お嫁さんが可愛いて褒められた」とデレデレしていた顔を引き締めて、セイリュウ領領主の顔に戻る。


「アイゼン王国はドラゴンを兵器にはしません。守護者として魔物除けにはするかもしれへんけど」

「それを聞いて安心しました。アイゼン王国はイレーヌ王国の王の交代にも関わっていたので」

「あれは、脳筋な女王はんが、自分の夫の両親を助けるために一人でしたことで、国の意向ではなかったんですわ」

「そういうことが、こちらまでは伝わってきませんからね」


 政治的な話になりそうになって、レイシーが話に割って入った。立体映像を広げて、カナエとサナに問いかける。


「これを、大陸で撮れんっちゃろうか? どうせなら、私たち家族と、レンの家族と、みんなで写りたかね」

「立体映像は、専門の職人さんやないと綺麗に撮れへんし、うちも機材は持ってへんですからね」

「職人さんまで連れて来るとなると、大所帯になるのです」


 せめて機材があれば、レンの一家は全員魔術師なのだから、映像は荒くても撮ることは可能かもしれない。

 次回に来るときには、立体映像の機材も揃えて、その使い方も習っておかなければいけないとカナエが考えていると、そういえばと、リクが奥の部屋に入って行った。しばらくして戻って来たリクが抱えていたのは、大陸の言語で書かれた数冊の本だった。


「セイリュウ領ではドラゴンを飼っているのでしょう?」

「飼っているわけではなくて、住んでもらっとる感じかな?」

「わたくしは、大陸の様々な国を渡って交易をしてきました。その頃に仕入れたドラゴンの飼い方の本なのですが、何か参考になるでしょうか?」


 大陸からシロが飛んできて助けを求めてから、アイゼン王国にドラゴンの谷という脱皮に立ち寄る場所はあっても、ドラゴンの記録がほとんどないことをカナエは痛感して、資料不足に苦しんでいた。テンロウ領の書斎の資料の中にも、王宮の図書館にも、ドラゴンに関するものはほとんどない。

 実際に飼育していても、その方法が間違っている場合は多々あるのだが、僅かでも欲しかった情報が目の前にあって、カナエは感激していた。


「もらっても良いのですか?」

「わたくしにも、その、キモノというのを仕立ててくれますか? レイシーとお揃いで」

「お母さん、良いですか?」

「もちろんやで。最上級のものを贈らせてください」


 良い嫁と思われていることが嬉しくてにこにこしているサナは、これでまた『大陸からドラゴンの情報を仕入れてセイリュウ領はドラゴンの兵器化を企んでいる』と言われるのは予測しているが、それよりも目先の義父義母との友好をとった。セイリュウ領の領主としての立場が、この程度で危うくなるはずがないという自信を、カナエは見たような気がした。

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