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10.12歳の衝撃の事実

 晩御飯を食べて、レオが自作のケーキを持ってくる。テーブルの上に乗ったスポンジケーキは、イチゴと生クリームで飾ってあって、一晩寝かせたのでしっとりとしていた。

 切り分けて、レオが一人一人にサーブしていく。ケーキを渡すと、レオは誕生日お祝いを受け取って、笑顔になっていた。


「お父ちゃん、お母ちゃん、産んでくれて、育ててくれてありがとう」

「誕生日のレオくんにお礼言われるとは思わへんかったわ」

「レオくんもおめでとう」


 サナからは夏用の浴衣と着物を、レンからはそれに合わせた魔術具一式を貰って、お礼を言うレオに、レイナから意外な一言が出た。


「お兄ちゃん、今日で12歳てことは、落第どころか、飛び級してへん?」


 通常ならば4月に6歳の時点で幼年学校に入学して、12歳で卒業、その4月に12歳の時点で魔術学校や上級学校に入学する。全く気付いていなかったが、レオはリューシュの言う「落第している」ではなく、「飛び級している」状態だったようだった。


「レオくんのお誕生日が5月で、新学期始まってすぐ年齢が上がるから、気付いていませんでした」


 王都の魔術学校では、10歳のラウリも通っているし違和感はなかったが、よく考えてみると、落第どころかレオは飛び級していた。それに関して、サナとレンが説明してくれる。


「カナエちゃんが幼年学校に入学してから、レオが『レオもいくぅ!』ってひっくり返って号泣して駄々捏ねたんよ」

「挙句に、4歳でカナエちゃんを追い駆けて脱走したことまであって」

「し、知らなかったのです!?」


 当時カナエは8歳で、何も知らされずに幼年学校に通っていた。カナエを追い駆けて幼年学校に行こうとして辿り着けなかったレオは、道で泣いているところをイサギとエドヴァルドの夫婦に保護されたのだが、レンとサナはそれを重く見た。追跡の魔術もかけているし、逃げられないようにもしたつもりなのに、この結果である。


「カナエちゃんと幼年学校に行かせた方が安心やってことで、一年早いけど5歳の4月に入学させたんや」

「5月生まれだから、それほど生まれも遅くないし、身体は大きかったから、大丈夫やろうと思って」


 そうなると黙っていないのがレイナだった。


「おにいちゃんとカナエちゃんと、がっこいくぅ!」


 泣き喚いて、結局、翌々年には5歳でレイナも幼年学校に入った。カナエが卒業して魔術学校に進む頃には、レオは幼年学校に慣れていたし、レイナもいたので無茶を言うことはなく、無事に卒業までを過ごしたのだ。


「全然知らへんかったわ。俺、みんなより一つ年下やったんか!?」

「レオくんはカナエちゃんの言葉以外あまり聞いてないですからね。僕もナホちゃんも気付いてましたよ」


 ケーキを食べながら言うラウリに、ナホもこくこくと頷く。

 

「一つ年下なのに授業についていけているレオくんは優秀やし、カナエちゃんはセイリュウ領の魔術学校と王都の魔術学校ではカリキュラムが違うのに、ちゃんとついていけてるのは偉いわ」

「カナエは優秀ですからね! ナホちゃんには敵いませんが」

「成績もリューシュちゃんに並んできたもんね」


 話題がリューシュのことになると、ケーキで楽しくパーティーをしている気分が暗くなる。見えた腕の痣はほんの一部で、もっと他の場所にもあるのかもしれない。


「リューシュちゃんのお父ちゃんは子どもが可愛くないんやろか」


 ぽつりと零れたレオの素朴な疑問は、彼が愛されて育ったからこそ出たものに違いない。親が子を愛さないなど、いくらでもあると、カナエもサナもレンも現実を知っている。

 その上で、親の愛情を疑わないレオの純真さと幼さを、愛しく思い、守りたいとも思っている。


「お父ちゃんとお母ちゃんが、できるだけのことはしてきたから、レオくんは気に病まんで、せっかくのお誕生日なんやし」

「魔術具もいくつか分けてきたから、少しは大丈夫やと思うよ」


 それも応急処置でしかないと、カナエには分かっていた。

 根源から正さなければ、相手を変えてリューシュは誘惑をさせられて、父親であるコウエン領領主の道具として扱われてしまう。


「コウエン領領主をぶっ飛ばしてしまっても、リューシュちゃんに被害が行くだけですよね」

「親子問題は闇に紛れやすいからね。どうするかよく考えて対策を取らないと」


 現状がサナとレンに伝わったのは幸いだったが、他の領地のことなのでサナとレンも軽々しくは手を出せない。

 どうすればいいのか、カナエにはまだいい考えは浮かんでこなかった。

 誕生日パーティーをした週の休みの日に、カナエはレオと二人で王都の街を歩いていた。現在の女王のローズとダリアが産まれた際に、妃を失った国王が嘆き悲しみ国政を疎かにして20年、国を傾けるような魔女を後妻にして、王都は荒廃していた。あれから12年以上経って、治安も回復して、カナエとレオの二人で出歩いても構わないようになったはずだった。


「そこのお嬢さんとお坊ちゃんは、セイリュウ領の領主の養女のカナエ様と実子のレオ様やろ」

「答える義務はありません」

「カナエちゃん、誰か大人を呼んできて!」

「レオくん、カナエはレオくんのそばを離れないのです」


 誕生日お祝いを買いに店に行く途中で囲まれた相手は、どこか見覚えがある。私服なのでよく分からないが、魔術学校の生徒のような気がする。


「11歳のお子様はそこで見とき」

「16歳なら、危険な遊びがしたい年頃じゃなか?」

「11歳やない! 12歳になった!」

「煩い!」


 レオが身長は伸びたが中身が相応に幼いことを知られて、目標がどうやらカナエに変わったようだ。迫って来る褐色の肌の青年は、コウエン領の領主の差し金だろうか。

 見極めようと睨み付けていると、カナエを庇おうとするレオを青年のうち一人が乱暴に振り払った。その上、カナエの顎を掴んで、口付けようとしてくる。


「女は強引なのが好きっちゃろ。俺が落としてみせる」

「レオくんに、乱暴しないでください!」


 即座に編み上げた攻撃の魔術が発動して、カナエとレオを取り囲んでいた青年たちが吹き飛ばされていく。石畳の上に崩れ落ち、煉瓦の塀にぶつかって目を回した青年を無視して、カナエはレオの手を握った。


「カナエちゃん、平気やった?」

「大丈夫なのです。レオくんも怪我をしていませんか?」


 お誕生日お祝いは別の日に買いに行くとして、その日はテンロウ領の王都の別邸に戻って、ラウリとナホに、カナエが絡まれたことを話した。ナホの方も気付いたことがあったようだった。


「流石に王子様と婚約してる私には手を出してこないけど、学校でリューシュちゃんの様子、おかしかったよね」

「レオくんには近付いてこないようになったけど、元気がなかったですよね」


 ナホとラウリに言われて考えてみれば、取り巻きからは嫌みを言われたり、いつも通りに妙な態度を取られたりしていたが、あの日からリューシュはカナエに話しかけてきていなかった。

 レオとの婚約を邪魔されるのも、カナエを襲おうとする輩がいるのも許せないが、リューシュの態度の変化も気になる。


「邪魔されるのは嫌ですけど、何もしてこないのも、気味が悪いのです」

「16歳だったら、貴族だったら政略結婚させられてもおかしくはない年齢だもんね」


 アイゼン王国の成人年齢は18歳で、基本的にその年まで選挙権もなければ、結婚も許されないはずなのだが、貴族の因習として、できるだけ早い結婚をさせようとするものもいる。女王のローズ自体が15歳のリュリュと結婚したので、その件に関しては口出しできないはずだが、もう一人の女王ダリアは伴侶のツムギが18歳になるまできっちりと待って結婚式を挙げた。


「リューシュちゃん、結婚するんか!?」


 レオにあれだけ良い寄っていたのに、年齢が分かるや否や手の平を返すような行動も許せないし、何より、そこにリューシュの意思はあるのだろうかと疑問でしかない。


「ナホちゃんは、リューシュちゃんと友達になればいいって言いましたよね?」

「うん、言ったよ」

「友達が望まない結婚をしようとしていたら、助けても良いものなのでしょうか?」

「そんなの……当然だよ!」


 週明け、魔術学校に登校すると、リューシュの姿は見えなかった。

 案じていた通りに、結婚をするので、学校を辞めるという知らせを、5年生の担当教授が伝える。

 行かなければいけない。

 ここまで関わってしまって、レオが標的でなくなったからリューシュは放っておく、という選択肢はない。特に、標的がカナエに変わりかけている今となっては。

 ナホとカナエは無言で頷き合っていた。

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