表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/102

9話 仲間の想い。。

9話 仲間の想い。。


いよいよ大詰めを迎えた、東名中学対共生中学。

市大会第1試合は、思わぬ激闘となった。


この試合の勝者と、試合をする事になる観客席の2チームの坂神中学と向ヶ丘中学のナインは、同じ事を思っていた。

共生中学より東名中学と戦いたくない。。

それ程、七瀬のプレーに驚愕していた。


最終回。共生中学の攻撃。

ここで、三者凡退に抑える事が出来たら、勢いはこっちだ。

七瀬はそう思っていた。


2番から始まる共生中学の攻撃。

ピッチャーの和田は、腕の振りが鈍くなっていた。

ストライクが入らない、、

四連続ボールで、ノーアウトのランナーを出してしまった。

両腕を膝に起き、がっくりする和田。

『限界か、、』

七瀬がそう思った時に、ベンチから思わぬ声がかかる。

『ピッチャー交代!サードの七瀬がピッチャー!ピッチャーがサード!』

!!!

ピッチャー!?

これには七瀬もびっくりした。

なぜならば、新チーム結成時、ピッチャー志望だった七瀬に、ピッチャーよりバッターに専念しろ、とアドバイスをしたのが監督の間宮である。

七瀬は、転生した今でもその事をよく覚えていた。

なぜならば、あの時間宮にバッターに専念しろと言われなければ、天才バッターになれなかったかもしれない。

ピッチャーに専念していたら、元々体格は小さい七瀬だ。平凡な選手で終わったかもしれない。

七瀬にとって、ターニングポイントだったのが、間宮の指示だった。

しかし、今の七瀬にとってはピッチャーも自信があった。

なぜならば、、

前の世界での帝都大岐阜で、リリーフピッチャーとして甲子園で投げていたからだ!

球速は、小さい体ながら150キロを投げ込んでいた。

元々、肩の強かった七瀬に、帝都大岐阜の監督、コーチは七瀬にもピッチャーの練習をさせていた。

この七瀬のリリーフがなければ、帝都大岐阜は甲子園で優勝はしていない。


和田からボールを託された七瀬。

東名中学のナインは、七瀬がピッチャー志望だった事は知っていたので驚きはあまりなかった。


マウンドに上がった七瀬。

キャッチャーの大谷と打ち合わせをする。

大谷とは、小学校の時に実はバッテリーを組んでいた。

「久しぶりだけど大丈夫か?」

大谷が七瀬に声かける。

「まあ、何とかなるだろ。それより、俺は横から投げるからな。球種も多いけどいいか?」

七瀬は高校に入ると、ピッチャーをやる時はサイドスローに転向していた。

ポジションは元々サードなので、横から投げろ、と高校時代に教えられたからだ。

大谷が球種を聞く。

「スライダー、カーブ、シュート、シンカー、そして、ライジングボール、、」

七瀬は指を折りながら、大谷に答える。

「は?いつからそんなん投げるようになったん?まあ、いいや。サインの確認な。指1本でストレート、2本でスライダー系、3本でシュート系、後なんだっけ?」

大谷は急かすように七瀬に聞く。

「ライジングボール、、まあそれはいいけど、、」

七瀬はマウンドをスパイクで慣らしながら答える。

「なん?その球?聞いたことないけど、時間がない。それはいいやろ。」

大谷はそう言って、ポジションに戻って行った。


投球練習、、

七瀬はストレートを投げ込む!

ビュ!!

ズバーーン!!

恐ろしいストレートがキャッチャーミットにおさまる!

2球、3球、、

ズバーーン!ズバーーン!

この音で、共生中学ナインも、観客席のライバルチームも静まり返ってしまった。

「速すぎてボールが見えん、、」

共生中学ベンチから声が漏れる。

この時の七瀬のストレートは140キロを出していたが、田舎の地方大会である。スピードガンなんてある筈もなく、見たことのないストレートに戸惑っていた。


観客席の三谷中学の選手が、

「黒川、、並みか、、」

そう呟いたが、監督の近藤は否定した。

「いや、黒川君の方が速いな、、しかし140キロは出てるか、、」

三谷中学のナインも、黒川がいる西中学校とよく練習試合をしていたので黒川の事は知っていた。

監督の近藤と、西中監督の菅谷は高校時代、甲子園に出場したチームメイトだったからだ。


変化球も織り交ぜながら投球練習を終えた七瀬。

そのピッチングを見て、さほど驚いていない選手が一人いた。

ファーストの丹羽である。

練習時の七瀬のキャッチボールの相手は丹羽だった。

そして、ここ最近の七瀬からのサードからの送球、、その勢いのあるボールに気付いていたのが丹羽だった。


投球練習を終えた。

迎えるはクリーンアップ、3番からだ!


七瀬は間髪入れず、軟式では珍しいサイドスローからどんどんストレートを投げ込む!

あっというまに三振。

4番には、全球スライダー!

三球三振!

5番にはこの日最速となる、ストレートを投げ込み三球三振!

見事、クリーンアップを三者連続三振に打ち取った!


ベンチに引き上げる東名中学ナイン!

皆が驚きを持って、七瀬に声をかける。

和田は、助かった、ありがとうと七瀬に話かけた。

七瀬は、ナインを鼓舞する!

「さあ!この回逆転だ!」

打順は1番から始まる。

一人出れば、七瀬まで回る!

気合いが入る東名中学ナイン!


最終回、7回の裏6対7。 1点差。打順は1番からだ!

共生中学ナインは、楽勝と思われていたこの試合、1点差まで詰め寄られて、追い込まれている錯覚に陥っていた。

七瀬の暴走ともいえるホームインが効いていた。

あれがなければ、2点差、、まだ余裕があったはずだった。


そして、極め付けは、先程の7回表の攻撃。

ノーアウト1塁からのクリーンアップの三者連続三振。

流れは完全に東名中学だった。


1番の加藤が打席に入る。

カキーーン!

鋭い打球が三塁戦を破る!

ツーベースコース!

勢いよく走り出す加藤!

一気にファーストベースを蹴る!

ここで和田が思いもかけない事を叫ぶ!

「加藤!ファーストに戻れ!」

ツーベースだと思っていた加藤は、ファーストを回っていたが、和田の叫び声に反応して、ファーストベースに戻ってしまう。

シングルヒット、、

これは、監督の間宮が6回の裏に叫んだのとは訳が違う。

ランナーはいないのだ。

同点のランナーが2塁にいけるチャンスを棒に振ってしまった!


和田の思いがけない言葉に呆然とする東名中学ナイン。

しかし、七瀬には分かっていた。

『和田の野郎、、、』

和田は、打席に向かう大谷に近寄り、何やら耳打ちをしている。

大谷もすぐに納得したのか、OKといいバッターボックスに向かった。

構える大谷。

1塁ランナーを牽制しながら、第1球を投げる中垣。

ストライク!

大谷は平然と見送った。

2球目!

スライダーだ!

今度は大きく空振り!

ツーストライク!

この振り方を見た七瀬は確信していた。

いや、ツーベースをシングルにした、、

その意図を考えるとそれしかない、、

バットを持って戦況を見ていた七瀬は、震える思いでこの状況を見ていた。

3球目!

ズバン!

ストライク!

見送り三振だ!

この違和感のある状況を見ていた三谷中学の近藤監督は、意図を理解した。

『まさか、こんな作戦、、これは間宮さんの指示か、、いや、和田君が叫んでいたから、、』

ワンアウト1塁。3番和田が打席に入る。

和田は打つそぶりも見せずに、1球目、2球目を見送る。

ネクストバッターズサークルにいる七瀬は、震えが止まらなかった。


『和田、、なんて事を考えやがる、、、わざと三振して俺に打席を回そうとしてやがる、、』

1番加藤もツーベースコースをシングルにした和田。

その意図は、、ランナー2塁だと、もし2番、3番が打ち取られたら、七瀬が敬遠される可能性は高い。ファーストベースが空いているからだ。

現に、6回の攻撃では、満塁になるのも関わらず敬遠した。

あと一人でゲームセットの状況なら、七瀬と勝負しない確率は高い、、そう読んでの和田の判断だった。


ズバーーン!

和田は見送った!三振!

ツーアウト!

バッターボックスから引き上げる和田が、七瀬に声をかける。

「お前に任せた。。」

七瀬は感動していた。

『中ボーのくせに、、誰でも自分がヒーローになりたい、、そう思って野球を始めたくせに、、、』

七瀬は、感動して泣きそうになっていた。

『その想い、俺が引き受けた!!』

七瀬の超集中力が発揮される!

バッターボックスに入った七瀬は目を閉じた。

構えようとはしない。

審判に早く構えるように促されるが聞こえやしない。

そして、、、

ツイスター打法を構え始めた!

観客席がどよめく、、

『出た、、』


中垣はキャッチャーにサインを送る。

『ここで投げる、、』

キャッチャーは、『よし!』と頷いた。

『初球からだ!』

中垣は、そう心で叫びながら投球動作に入る!


中垣もこの夏の大会に向けて、ある球種を練習していた。

その球種は変化が大きく、キャッチャーが取れない事が多かったので、この試合一度も投げていない。

当然七瀬も知らない球だ!


ビュ!

中垣が第1球を投げた!

例によって、身体を右側に大きく捻る七瀬!

左足を踏み込み、ボールを引きつける!

そして大きく捻った身体を、まるで弓が放たれたようにバットを振りにいく!

ボーを捉える瞬間!!

ボールは大きく落ちる!

!!!

スプリットだ!!

ボールを投げた中垣は、よし!内野ゴロだ!

と思った瞬間!


バキーーン!!!!

落ちる軌道に合わせた七瀬のバットが、ボールを捉える!!

ボールはあっという間にセンターバックスクリーンへ!!


ホームランだ!!!

サヨナラだ!!!

湧き上がる東名中学ナイン!

和田は吠えながら涙を流していた。


打たれた中垣は、投げ終えたままの体勢で、固まっていた、

「そんな、バカな、、、」


バットを置いた七瀬はファーストに向かった。

『くそ、、熱くさせやがって、、チームメイトか、、』

そう心で思いながら、七瀬はゆっくりと中垣を見た。

中垣は、両膝を地面についてガックリしていた。

泣いているようだった。。

『中垣、、いい球だった。中学でスプリットとは、、しかし、ツイスターには通用しない、、どんな球でも対応できるのがツイスターなんだ。。』

七瀬は、心でそう呟きながらダイヤモンドを走っていた。

何とも言えない想いだった。


市大会1回戦

対共生中学 勝利。。

8対7

七瀬の成績は3打数3安打 ホームラン3本。5打点だった。


ゲームセットの整列。

共生中学のナインは泣いている。

七瀬は、この光景を見ながら複雑な想いだった。

『歴史が変わってしまった、、、』


観客席のライバルチームは、この激闘に拍手を送っていた。

と、同時に東名中学4番七瀬を、誰しもが知る事になった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ