8話 両監督の無謀な策。。
8話 両監督の無謀な策。。
6回表、共生中学の攻撃は8番からだった。
4点差のリードがあるので幾分攻撃が雑になっていた。
ボール球を振ったり、初球から振りにいったり、。
今日の和田は調子が悪い。ここで、セーフティーバントを試みたり、ツーストライクまで粘ったりされると嫌な感じだ。強豪チームは駄目押し点を取ろうと、余計と集中する所だ。
『ここが、まだまだ甘い所だ。まだチャンスはある。』
スリーアウトになって、ベンチに引き上げる七瀬はそう思っていた。
6回裏、2番から始まる東名中学の攻撃。
2番の大谷は、キャッチャーのくせに足が速い。
初球から、セーフティーバントを試みた!
意外な攻撃に、中垣の足がもつれる。
セーフ!
ノーアウトランナー1塁!
『これだ!大谷は野球センスが抜群だ。』
七瀬は、この大谷の野球センスは小学校の頃から認めていた。
3番和田。
和田は今日は調子が悪いが、七瀬の次に期待できるバッターだ。
何せ、他のライバルチームは、春までは七瀬のチームというより和田のチーム、、と思っていたぐらいだ。
セットポジションから、和田に第1球を投げた!
ボール!
和田は際どい球だが見送った。
『球は見えてるな。』
そう思った七瀬は、ネクストバッターズサークルから和田に声をかける。
「和田!思い切っていけ!」
和田は聞いてるのかどうか分からないが、七瀬の声に反応しなかった。
『集中してるな、。和田。それでいい。』
七瀬はそう思っていた。
2球目!
和田が鋭く振り抜く!
キン!
打った!
フラフラと上がったボールは、左中間へ!
レフト、センター共に追うが届かず!
1塁ランナー大谷はセカンドベースを回ろうとした!
そこで、思わぬ声が、東名中学のベンチから聞こえる!
「大谷!セカンドストップ!」
叫んだのは監督の間宮だ!
七瀬は間宮の方を見る!
そして、大谷を見た!
だが、大谷はまさか止まれの指示が出ると思わず、サードベースまで到達していた!
打った和田もセカンドへ!
ツーベース!
ノーアウト2、3塁になって、4番の七瀬だ!
一発出れば1点差!
七瀬は、悠々とバッターボックスに向かう。
この、間宮の無謀な掛け声は、この後の共生中学の無謀な作戦を見て納得する事になる。
共生中学ベンチは、伝令を出し、内野手がマウンドに集まった。
伝令役が何やら、バッテリーに話す。
輪が溶け、各ポジションに戻る共生中ナイン。
『まさか、、』
七瀬は嫌な予感がした。
キャッチャーは立ち上がる。
敬遠だ!
これには七瀬も驚いた。
『まだ、ノーアウトなのに、、』
共生中学の監督の佐々木は、七瀬の恐ろしさにビビっていた。
ここで、もし4番に打たれたら、流れが向こうにいく。
幸い、次のバッターは今日ヒットの出ていない5番、6番、7番だ。何とかなる。そう思ってルール無視の無謀といえる策に出た。
この考えに共感していたのが、三谷中学監督の近藤だけではなく、見学している全ての監督が頷いていた。
『さすが、佐々木監督だ。いい判断、、』
近藤は呟く。
ファーストベースに到達した七瀬も関心していた。
『中々出来る策ではない。しかし、、吉と出るか凶と出るか、、』
ノーアウト満塁、、一発出れば同点だ。
5番山之内が打席に入る。山之内は大振りバッターだが当たれば飛ぶ。しかし、当たらない事の方が多い。
今日も連続三振していた。
七瀬がファーストベースから声をかけた。
「山之内!当てにいくなよ!振り切れ!」
迷っていた山之内は、覚悟を決めた!
『よし!思いっきり振りにいく!』
気合の入った顔で打席に立つ山之内!
気合が入っていたのは、中垣も同じだった!
『くそ!屈辱の敬遠、こうなったら全部三振に打ち取ってやる!』
中垣はセットポジションから第1球を投げ込む!
ストレートだ!
山之内は振りにいく!
ブーーン!
空振り!
これは到底当たる気がしない大振りだった。
しかし、七瀬はそれでいい!と声かける。
2球目!
今度はタイミングを外すカーブ!
ブーーン!
またもや空振り!
2球で追い込まれた!
これは、、また三振か、、
誰もがそう思った3球目!
ガキーン!
打った!
ボールは右中間にフラフラと上がる!
3塁ランナー大谷と2塁ランナー和田は、ボールの行方を見ている!
「和田!落ちるぞ!走れ!」
七瀬だけが走り出していた。そして走りながら、和田に叫んだ!
その声を聞いて、和田はスタート!
ボールは、、
右中間に落ちた!
サードランナーホームイン!
セカンドランナーもホームイン!
ファーストランナーの七瀬は、、
サードベースを回る!
「これは暴走だ!」
観客席の近藤が叫ぶ!
ボールはセンターが取りバックホーム!
ややファースト寄りのボールはキャッチャーにワンバウンドへ!
取った!タッチにいく!タイミングはアウトだ!
誰もがそう思った瞬間、七瀬はややバックネット方向へ頭から飛ぶ!
そして、タッチをかいくぐり左手だけでホームベースを触る!
審判が叫ぶ!「セーフ!!」
セーフだ!
喜ぶ東名中学ナイン!
しかし、すかさずキャッチャーはサードへボールを投げる!
塁間に挟まれた山之内はタッチアウト!
しかし、1点差!6対7だ!
ベンチに引き上げた七瀬に和田が聞く。
「どうして落ちると分かった?」
七瀬は、ライトとセンターのボールの追いかけ方で届かないと思ったのさ。と答えた。
そして、サードで止まらなかった理由も答えた。
「あのボールは、センターが取る。ライトだと取ってすぐ投げれる体勢になるが、センターだと少し勢いをつけないとバックホームできないからな。少し遅れると思ったからだ。」
と答えた。
へーと答える和田。
七瀬の判断はランナーでも天才級だった。
しかし、無理をしてサードベースを回ったのは他にも理由がある。この後、5番山之内がランナーに残ったとして、後続が打ち取られたら、6、7、8番、最終回に9、1、2番。
七瀬に回ってこない。
2点差で最終回を迎えるのと1点差では大きく違う。
2点差だと相手がまだ助かった、、と思い、仕切り直して後続が打ち取られる、、
ランナーに出ている時でも、常に相手の心理を読む。
天才七瀬の勝負勘が無理をさせた。
1点差になった事で、七瀬の思惑通り、共生中学のナインは動揺した。
何しろ、ノーアウト2、3塁で敬遠をするという無茶な作戦が裏目に出たのだ。
中垣も動揺した。
続く、6番にファーボール、7番は送りバントをしたがサードのエラーでワンアウト1、2塁となった。
チャンスだ!
続く8番バッター。
監督の間宮は強行策に出る。
しかし、8番バッターは打ちあげた。キャッチャーフライ。
ため息が漏れる東名中学ベンチ。
続く9番バッター、セカンドの黒柳。
ここで代打策、、
と思った七瀬だが、代打を出さず、三振でスリーアウトチェンジとなった。
『守備のいい黒柳に代打はないか、、、同点にはしたかったが、、』
そう思った七瀬は、嫌な予感がした。
何とか踏ん張った中垣。
6回の裏を終わって、6対7!
1点差になり最終回の攻防が始まる。