2話 キャプテン。。
2話 キャプテン。。
ん??、、
ゴホゴホ、、、
七瀬は違和感のある寝心地を感じ、咳をしながら目が覚めた。
うっすらと、白い光景がぼんやり形になっていく。
『倒れ込んでいたのか、、』
七瀬はそう呟き、ゆっくりと体を起こし座り込んだ。。
静かだ。。。
『俺は、、一体、、どうしたっけ、、、、っていうか、ここはどこだ、、、』
ボーとしながら周りを見渡す。。
『グラウンド、、、マウンドの上か、、、』
まだ意識がはっきりしていない。。。
『俺は、、どうしたんだっけ、、、よく思い出せない、、』
状況を把握するべく、もう一度周りを見渡した、、、
『グラウンド、、どこかで見た事あるような、、
そして、、、校舎か、、、、そういえば今何時だっけ、、、』
七瀬はぼんやりしながら、遠くにある校舎の時計を見た、、
『6時50分、、、、、』
ん???
「校舎!!?」
七瀬は、白い建物、、大きな白く四角い建物が建っているのを見て、思わず大きな声を上げた。。
と、同時に周りを見渡す、、
誰もいない、、
広いグラウンドに一人、、静まり返っている。。
そして、その校舎からも誰一人の声も聞こえない。。
「ちょっと待て、、、この校舎見覚えある、、、」
七瀬は、意識が段々とはっきりするのが分かった、、、
そして、立ち上がった、、、が何か違和感を感じて、自分のズボンを見てみた。。
白いユニフォーム、、
胸辺りも見た。。
白いユニフォーム、、
「これは野球の練習用のユニフォーム、、、」
七瀬は、状況を把握しようと周りを見渡す。。。
「これは、、間違いない、、、俺が通ってた中学校だ、、」
懐かしい想いで、少しにやけている自分がいた。
しかし、ここで七瀬はすぐに理解する。
頭の良さでも七瀬は天才級だ。。
いや、頭の回転の速さとでもいおうか、、
「これは、、パラレルワールドだ、、」
普通はこれは夢なのか、、、、
とかベタな事を思うかもしれないが、これが夢とは到底思えなかった。。
このリアル感、、この温度感、、朝の匂い、、、
七瀬は夢ではない事を瞬時に理解した。。
「迷い込んだのか、、と言うことは、、、30歳の俺は、、失踪扱いで、、今の俺はここにいる、、って事か、、」
やや疑心暗鬼になりながらも自分の腕を見た。。
「細いな、、、体は中学生の時の俺か、、」
七瀬は頭を掻きながら、マウンドにあぐらをかいて座り込んだ。
「はあ、、、、転生なのか、、そういえばゲームでやたらと流行ってるよな、、勇者に転生とか、、モンスターに転生とか、、」
七瀬は冷静に理解しようとしていた。
人は、何か思いもがけない事が起こると冷静になろうとする。
きっと、防衛本能が働くのだろう。
「そういえば、、やたら静かだな、、人はいるのか、、」
七瀬は校舎の方へ視線をやった。。
「ん、、、人は歩いているか、、、時間は7時前、、ぼちぼち登校してくる時間か、、」
「中学、、中学、、、、んーーー、、、確か朝練はやってたな、、じゃあ、これは朝練するからユニフォームか、、」
七瀬はあぐらをかきながら、もう一度自分のユニフォームを見た。
「なんか、、白いユニフォームなんて久しぶりで、新鮮だな、、」
「キャプテン!!」
七瀬の背後から、声が聞こえた。
七瀬は振り返る。。
「おはようございます!キャプテン!早いですね!」
白いユニフォーム姿の丸刈りで、細めの男が声をかけてきた。。男というより少年だ。
「ん、、、、大西、、?」
七瀬は、その少年の方を見て答えていた。
間違いない、、1学年下の大西だ。俺に懐いていたし、何しろ俺と勝負をして下さい!って言ってフリーバッティングでよく真剣勝負をさせられた、、ピッチャー志望の大西だ。。
大西は、俺に挨拶をするとバックネット裏にカバンを置いた。
七瀬もその姿を見て、バックネット裏まで行ってみた。
「あ、、カバン、、、」
大西が置いたカバンともう一つカバンが置いてある。
俺はそのカバンを開けてみた。
教科書が入っている、、名札も、、生徒手帳も、、、
『七瀬 健、、七瀬健、、、間違いない、、俺のカバン、、』
七瀬がカバンを見ていると、大西が話しかけてきた、、
「今日は何人、朝練に来ますかね〜?」
確か朝練は自由参加だ。でもレギュラー陣は来るかな、、
「なあ、大西、、今日って何日だっけ?」
人が来る前に、人の良い大西に色々聞いてみよう。
「今日は、24日すね。」
「何月だっけ?」
「え?イヤですね、まだ寝ぼけてるんですか?6月ですよ!明後日の日曜日に西中と練習試合ですから、しっかりしてくださいよ!」
明後日の日曜日、、、じゃあ今日は金曜日か。。
ん?西中、、??
考え事をしていると、続々と部員が集まってきた。
ファースト副キャプテンの丹羽、エースピッチャーの和田、ショートで強肩の山之内、、
なんか、、懐かしいな、、
七瀬は、今の状況の整理をしたかったが、懐かしい面々に会えて楽しくなってきていた。
ほかの部員も集まってきた。
6月の終わり、そうか、、後1カ月で最後の大会だからな、みんな気合い入ってたな、、
副キャプテンの丹羽が話しかけてきた。
「さ、七瀬、そろそろ始めようか!」
え?
そっか、俺がキャプテンだから、ランニングやウォーミングアップの声出しとか、練習のメニューとか俺が決めるんだっけ、、
「悪いな、丹羽、、少し喉が痛いから声出し変わってくれへん?
後、今日はフリーバッティングだけでええやろ。」
丹羽はOKと言いながら、ランニングをする先頭に立ち、他の者は2列で丹羽の後ろに続く。
あーーそうやった、、、こんな感じやったな、
俺は、そう思い出しながら一番後ろに並んだ。。
そして、ランニング、ストレッチ、キャッチボールと準備系のメニューが続く。。
軟式か、、俺のキャッチボールの相手はファーストの丹羽だ。軽いな、、軟式は、、
ボールの違いに少し戸惑う七瀬。
そして、ピッチャーとバッター、縦に3箇所に分かれて、バッティング練習が始まる。
俺の所に、大西が投げます!と言ってバッティングピッチャーをやり始めた。
そして、バッター相手に投げ始める。
他の箇所でも、打ち始めた。
うーん、、、
七瀬はバットを見つめながら、バッティング練習をしている後ろの方で少し考え込んでいた。
『なんだ、この状況、、間違いなく中学、、だけど。。。』
七瀬は、一度思いっきりバットを振ってみた。
ビュン!
凄まじい風切り音がした。
『だけど、、間違いなく、30歳の俺の記憶がある、、バッティングを極めた俺の記憶が、、』
打撃は色々と理論、コツがあるのだが、プロとアマの決定的な違いは、バットスイングの速さだ。
七瀬は、スイングスピードはプロ1年目から、プロでもトップレベルだった。そして、30歳になる頃には、相手ピッチャーから恐ろしいと言われるほどの迫力あるスイングになっていた。
『確かに、体は中学だから非力だが、感覚は30歳のままだ、、』
うーん、、、、、
七瀬はここで、決断をした。
『ま、、。いっか。いつかは元に戻れるやろ。今は楽しんでみよ。』
七瀬は、この頭の切り替えも天才級だった。