表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/102

1話 天才バッター七瀬 健。。

1話 天才バッター七瀬 健。。


日本は野球国である。これほど興行で成功したスポーツは、日本では野球が一番である。

それはなぜか。

ゴルフでもテニスでも水泳でも、卓球でもバスケでもバレーボールでも世間で騒がれる時は、決まってある出来事が起こる。


それは、


『スーパースターの出現』

である。


プロ野球創世記。

娯楽が少なかった戦後の日本において、スーパースターがゴロゴロ現れる。

それは、お父さんの日々の仕事の疲れや、学校での友達での会話、又は家族での一家団らんのコミュニケーションとして大いに役立った。

そして、娯楽の少ない戦後、情報の乏しい時代にマスコミはそのプロ野球界に現れるスーパースターを、こぞって取り上げた。

そして、企業も野球というスポーツに広告としてお金を出し、どんどん娯楽化していった。

その土壌があるからこそ、プロ野球は現在になっても日本で一番興行に成功したスポーツになった。


2020年9月。プロ野球のペナントレースもいよいよ佳境に入っていた。

〜アナウンサー

「さあ、いよいよペナントレースも大詰めを迎えました。9回裏、ツーアウト満塁、首位のエンジェルズ、この試合に勝てば、リーグ5連覇です!そして、バッターには、、エンジェルズの4番、いや日本の4番、天才七瀬が打席に向かいます。」

〜解説者

「七瀬ここは一発大きいの狙うでしょう。」

〜アナウンサー

「点差は僅か1点差、エンジェルズ3対4で劣勢。ここでタイムリーが出れば、同点、逆転サヨナラ、そしてリーグ5連覇です!」

〜解説者

「99本ですからね、、ここは100本狙うんじゃないでしょうか?」

〜アナウンサー

「バッターボックスの七瀬、シーズンここまで打率5割8分、ホームラン99本、まさしく天才バッター七瀬 健、ここで打って優勝を決めたいところ、、」


大歓声が球場全体を覆う。その観客はほぼ全員、七瀬のただならぬオーラを感じ取っていた。

ここで打つのではないか、いやここで打つからスーパースター、でも、まさか‥本当に打つのか?‥

人は疑心暗鬼になりながらも、そんな奇跡を見たいものである。そしてその奇跡を何度も見せつけてきたのが七瀬 健という男だ。

名古屋スタジアムのライトスタンドからは、お馴染みの曲、七瀬のテーマソングが、ゆっくりと神々しく演奏し始めた。


七瀬は集中していた。

『さあ、ここはホームラン狙うか、まあ、十中八九ストレート勝負だな。』

七瀬はバッターボックスで構えながら、そう心の中で呟いた。

『抑えの後藤、ストレートは速いしフォークも一流だ。しかし‥』


〜アナウンサー

「七瀬、バッターボックスで構えました。あ!出ました!七瀬の構え方!ツイスター打法です!」

〜解説者

「やはり狙ってきましたね!普通の打者ならヒット狙いで試合は決まるのに、ここであえてのツイスター打法ですか!これはピッチャーにプレッシャーを与えますよ!」


ライトスタンドから応援歌が鳴り響く。凄まじい音だ!!

まさに奇跡を見せてくれるのではないか、、いやきっと見せてくれる!ここで決めてくれ!ライトスタンドの応援団の願いが、応援歌に乗り移っているかのようだ。

〜アナウンサー

「さあ、振りかぶった抑えの後藤、第1球を投げました!」


七瀬が心の中で呟く。

『そう、、後藤よ。得点圏にランナーがいる時は、ストレートを初球に投げる確率70パーセント、、キャッチャーのサインに首を振ってでも、

そして‥』

後藤が投げた渾身のストレート、唸りを上げながらキャッチャーミットに突き刺さる‥

かと思った瞬間!


バカーーン!!

激しい衝突音と共に、ボールはレフト方向へ!

まさか、まさか、、観衆がその打球を見守る!

〜アナウンサー

「打球はレフトへ!レフトバック!レフトバック!これは!入ればサヨナラ!優勝だが!!」

アナウンサーももう興奮を抑えきれない。

そして、、打球はレフトスタンドへ!

湧き上がる大観衆!

〜アナウンサー

「ホームラン!ホームラン!これぞ天才と呼ばれる由縁!エンジェルズ5連覇!何とサヨナラで決めました!!そしてシーズン前人未到の100本塁打!!」

〜解説者

「いやーー、、狙ってましたね!それを本当に打つのが七瀬 健という男!素晴らしい!!」

七瀬はそのボールがスタンドに届くのを見届けて、ゆっくりと1塁へ走り出した。


『そして、ストレートを投げる時と変化球を投げる時は、若干フォームが違う。‥』

そう呟きながら、七瀬はゆっくりと走り出す。


投手は色々な球種を投げる。その際、ストレートと変化球では投球フォームが違う場合が多い。いわゆるクセだ。それはアマチュアほど顕著に現れる。プロの投手、1軍で活躍する投手になればなるほど、そのクセはほどんど差はない。

しかし、七瀬はどんな投手でもそのクセを見破っている。

球種が分かる天才なのだ。

しかし、そのクセをチームメイトに教える事はない。

いや、教えられないのだ。当の本人の七瀬も上手く言葉で説明できない、いわゆるフィーリングらしい。


七瀬はゆっくりと、シーズン100本目のホームランを噛み締めながらダイヤモンドを走っていた。。


一方その頃、、、

〜東京スタジアム


〜アナウンサー

「さあ、タイタンズのエース左腕黒川、シーズン30勝まで後一人!今年は負けなしの29勝0敗です。」

〜解説者

「そうですね、大車輪の活躍でしたが、優勝まで後1歩届かなかったですね。」

〜アナウンサー

「名古屋でのエンジェルズですが、、ちょっとお待ち下さい!

速報が入ってきました!エンジェルズサヨナラです!シーズン5連覇を達成しました!」

〜解説者

「サヨナラですか?それは大いに盛り上がっているでしょう!」

〜アナウンサー

「え?そしてですね、、そのサヨナラですが、七瀬がシーズン100本目のホームランで決めたとの事ですよ!」

〜解説者

「打ちましたか!いやーすごい!まさしくスーパースターですね!もうこんなバッターにはお目にかかれないでしょう。」

〜アナウンサー

「さあ、そしてこちらも大記録が生まれようとしております!

シーズン30勝0敗に向けて、こちらもスーパースターの怪物黒川!投げました!

バッター打ち上げた!ピッチャーフライだ!ピッチャー、グラブを構える!黒川取りました!

ゲームセット!ピッチャー黒川、大記録30勝です!」


黒川はボールを取ると、笑顔を見せずに、お迎えの同僚や監督がいるベンチに歩いていった。

『今年も終わったか、、七瀬には結局4割の打率を残したか、、

同じバッターに4割‥』

そして、汗を拭くタオルを頭に被りベンチに深く腰掛けた。

『結局、あいつとは天才対怪物と言われ続けて、中学、高校、プロになっても負けっぱなしか‥』

そう呟きながら、一杯の水を飲み干し、タオルを顔に被せ上を見上げた。


〜名古屋スタジアム


七瀬は3塁ベースを周り、歓喜のチームメイトが待つホームベースに向かっていた。

そして、

ホームベースを踏んだ瞬間、チームメイトの手荒い祝福が待っていた!

「思いっきり叩くのはやめろよ!」

七瀬は、頭をポンポン叩かれながら、笑顔でチームメイトの輪に入っていった。


そして、しばらくすると、、、、

一人のチームメイトが、何かに気付いた。

「おい、、ちょっと待て!みんな!七瀬の様子がおかしい!」

七瀬は、最初はみんなからの祝福に嬉しそうに反応していたが、やがてふらつきながら笑顔もなく、とうとうチームメイトの輪の中心で倒れ込んでしまった。

「おい!!七瀬!七瀬!!」

チームメイトの掛け声も遠くに、大観衆の声も小さくなり、やがて七瀬は意識を失った。。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ