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なろうランキングで流行っている系短編

なろうランキングで流行ってる【おっさんスローライフ】をやろうとしたけど何かおかしい……。

作者: 森たん

2017年の年末に書いた作品です。

現在の小説家になろうランキングで流行っているのは、勇者パーティー解雇系でしょうか。

 阪神ドラゴンズ投手、白木球男選手(32)が交通事故で死亡。



 恐らくこんな見出しが、年の瀬の新聞を飾ったに違いない。

 飾ったといっても関西ローカルのスポーツ新聞の隅っこに。

 ……飾ったと信じたい。


 何せ俺は万年二軍選手だった。

 数回は一軍で投げたけど、滅茶苦茶打ち込まれてすぐに二軍落ち。

 いやはや、この年になるまで契約してくれた球団に感謝だ。



 横浜、たそがれ、ホテルの小部屋。

 有名な歌の冒頭の歌詞だが、これらから連想されるのは男女の情事だろう。


 それじゃあ――、寒い冬、飲酒、ダンプカー。

 これらから連想されるのは…………つまりそういうことだ。


 脈々と受け継がれる交通事故からの異世界転生。小説家になろうお決まりのテンプレ。

 様々なパターンから、車で盛大に撥ね飛ばされ薄れゆく意識の中異世界への扉を開いていく。

 まさか自分自身が体験することになるとは思っていなかったが、運よく俺は異世界に行くことになった。


 これまたテンプレの神様らしき人が現れて、異世界に行く手続き中ってわけだ。



「ほんで、自分。どんな世界に行きたいんや?」


 関西弁の神様が話しかけてくる。

 キャラ設定がめんどくさくて、とりあえず関西弁を喋らせておけばキャラ立ちするだろうと安易に考えたキャラ、みたいな神様。

 まあいいさ。俺、なろうの愛読者だったし。この状況の受け入れ態勢はバッチリよ!


「そうっすね~。やっぱスローライフってやつがいいっすね!」

「スローライフ? なんやそれ?」

「あ、知りません? 今流行ってるんすよ。おっさんが異世界でスローライフするの。

 実はハイスペックな能力なのに、あえてゆっくり暮らす。昼行燈的な?

 あ~ヒロインとして、妹系キャラの幼女と、ボインボインのお姉さんキャラも欲しいなあ!」

「よ~わからんけど、まあええわ」


 小説家になろうでは、空前の【おっさん】ブームである。

 ランキングを見れば、至る所でおっさんが軒を連ねているのだ。

 ただのおっさんに見えて、実は秘めた力を隠している。そんな話が多い。


 さてさて神様は半分呆れたような顔をしている。顔に『ど~でもええわ』って書いてある。

 ぶっちゃけ俺の話に興味がないのかもしれない。いや間違いなく無い。


 神様は溜息一つして、ノートパソコンを出した。ノーパ??


「ほな、希望書いて」

「え?」

「自分が希望する世界書いて。そしたらマッチする世界まで転送するで」


 ふ~む異世界マッチングサービスとは。中々今風だなあ。


「それじゃあ……」


 俺は一礼してノーパを受け取った。そして画面の文字を読む。


「なになに」


 Write here, your wish.

 と、でかでかく画面に表示されている。


「え、英語やないっすか」

「せやで」

「お、俺、英語わかんないっすよ」

「知らんがな。も~そのままの意味やん。『お前の望みをココ書け!』や」

「お、なるほど」


 関西弁の神様、顔は嫌々ながら中々優しい。

 ちゃんと見ればなんとなくわかる英単語だ。ウィッシュだろ? ウィッシュ!!


「んじゃ書きますか。え~っと『おっさんのスローライフ』っと」


 ossannnosuro-raihu


「あれ? あれ? 変換されない?」

「あ~それ英語しか打てへんで」

「よ、読めもしないのに書けるわけ無いじゃないですか!!」

「も~うるさいなあ! 英語わからんねやったら、gogoleさんで翻訳しながら書けや!

 神様はお前のお母さんやないんやで!」

「す、すいません」


 くっそ~。英語なんて勉強する暇無かったんだよ。これでもプロ野球選手だからな。


 しかし……検索ねえ。

 パソコンなんて、息抜きでなろう読んだり、DDMでエロ動画見るぐらいしか使ったことないんだよな。

 使い方よくわからん。


 しゃーねえ、中学以来勉強していない英語の知識を総動員するか。


「えーっと、まずはおっさんだ。おっさんって英語でなんて言うんだ? オールドマンか?」

「そりゃジジイだぞ」

「ま、まじっすか!」


 危ない危ない。危うくジジイのスローライフ……ってジジイは普通スローライフだろ。


 神様は煙草を吸って一服している。我関せずってところだろう。


 だめだ! シンプルに書こう!

 【おっさんがスローライフをしたい】だけど、おっさんは抜こう。おっさんは俺、つまり!


「アイ! I か!!」


 天才的ひらめき! 俺=おっさんだから I でいいんだな!


「あとはスローライフがしたいだから~……」


 スローライフはそのまま書けばよさそうだ。ティーシャツがT-syatuのようなもんだろ。

 あとは『したい』だな、『したい』ってのは……。

 したい、したい、したい……。む、他の言い方なら、望むとか欲しいとか希望するとかでもいいのか。

 となると――


「あ! ニード! need!」


 閃いた!!


 よし! 忘れないうちに書こう!


「え~っと、I need srow……」


 むむ? なんか……英語では【ス】をthとかで書くんだろ?

 ははは、ひっかけ問題か!


「I need throw rife っと! できた!!」


 本当は『綺麗な女の子と一緒に』とか書きたいんだけど、難易度が高いからやめよう。

 シンプルイズベスト! 


「出来た! できました!」

「おっけーい。ほな行くで~」


 神様はパソコンを奪い取り、エンターを押した。


「ほなな~」

「え!? ちゅ、チュートリアル的なのは??」

「あるかそんなもん! 強く生きるんやで~」



**


 てことで異世界に舞い降りた! 神様のやっつけ感はむかつくけど異世界転生させてくれただけで感謝だしな。


 早速スローライフを始めよう!

 都合良く街がある。都合良く言語は日本語だ。都合良く、初心者歓迎ギルドがある!

 都合良くポケットにはお金があったので昼飯を食べてからギルドに行くことにしよう!


「にいちゃん、良い食べっぷりだね! おまけだよ!」


 腹減ってたから、露店でホットドッグっぽいものを購入し一心不乱に食べた。

 そんな俺を見て露店のおばちゃんはゲラゲラ笑いながら、リンゴを放り投げてくれた。

 綺麗な放物線を描いたリンゴは吸い付くように俺の右手に納まる。ナイスコントロール。


「あんがと!」


 う~む。人の温かさが嬉しいね。良いスローライフが送れそうだ。




「すいません、何か仕事をしたいんですけど」

「あら、新人さんですか?」

「はい」


 ギルド受付のお姉さんはとっても美人だ。これは良い仲になってしまうかもしれないな!

 ギルドのお姉さんってのも恋愛対象としてはよくある話だ。

 実は惚れられているんだけど、鈍感な主人公は気づくことなく終わっていく恋。

 俺はそんなもったいないことはしないぞ!


「ガハハ! その歳で新人かよ!?」

「ふふ、老人ホームにでも行ったほうがいいんじゃないのかい?」


 モブAとモブBの定番なツッコミ。

 てか、お前たちもおっさんやん。

 モブ達はダーツを楽しんでいるようだ。


「もう! うるさいですよ! すいません、騒がしくて」

「いえいえ」



 そこから登録を済ませた後、ギルドの説明を受け、ランクがDからSまであると聞いた。うむ定番。


「ではタマオさんに紹介できる仕事は、こちらです」


 提示されたクエストは3つ。


 ・薬草採取

 ・スライム討伐

 ・オーク討伐


 ううむ! テンプレ! まさにテンプレ!

 異世界ってのはどうしてこうもスライムが好きなんだろう。


 まあ、討伐とかは怖いし、スローライフといえば――


「それじゃあ薬草採――」

「おいおい! 薬草採取なんて女子供がやる仕事だぞ!」


 モブAが再度割って入ってきた。今度はダーツを止めて突進してきそうな勢いで詰め寄ってくる。

 近くで見るとタッパもあるし迫力のあるおっさんだ。180センチの俺よりでかい。


「もう! モブオさん!」


 名前もモブオか。覚えやすい。


「男はやっぱ討伐だろ! オーク討伐にしろよ」

「ちょ、ちょっと!! 新人なんですから!」

「がっはっは! ルティナちゃんよ。新人研修ってことで特別に俺がついて行ってやるよ」


 モブオ渾身のスマイルとグッドサイン。


「え?」

「え?」


 俺と受付さんは顔を見合わせた。

 な~んで俺がこんな、いかついおっさんとクエストをせねばならんのだ。


「それともなんだ? 俺の実力が不安なのか?」

「い、いえ。モブオさんはランクAですし」


 ほほ~ちょっと意外だ。モブの癖に強いのか。

 Aランクってことはかなり強いと予想される。


「ったくしょーがないなあ。僕も行こうか」


 モブBも立ち上がる。


「ビ、ビードレさんも!? タマオさん! 凄くラッキーですよ!」

「え?」


 おっさん3人でクエストやるのが? 冗談だろ?


「怪物球のモブオさんと、脅威キレのビードレさんと一緒にクエストなんて羨ましい。

 ぜひ一緒に行ったほうがいいです! 勉強になりますよ! 絶対!」

「あ~そうなの?」


 よくわからんけど、俺はおっさん三人でオーク討伐に行くことになった。

 あれ?? スローライフだよね? おっさんいっぱいのスローライフ??

 そういう趣味は無いんだけどなあ。



 おっさん3人は街を出発し草原を進む。


「そういやタマオ! グラブ無いのかよ?」

「グラブ?」

「これだよこれ!」


 モブオの左手にはめられているのはまぎれもなく……。野球のグラブじゃないか。


「なんで野球グラブを?」

「ヤキュー? なんのことだ?」

「しかしまあ、グラブも持ってないなんて、本当の田舎者の新人なんだな」


 ビードレが笑う。ビードレの手には金色のグローブ。ゴールデングラブ賞かっつうの。

 金持ちでちょっと嫌味。完全にスネオポジだなこいつ。


「しゃあねえな! 俺のグラブをやるよ」

「え?」


 モブオがお古のグラブ、というかグローブをくれた。


「いいの?」

「おう! ちと古いが防御力は高いぜ!」

「へえ~、ありがとう」


 モブオはガタイが良い。ジャイアンポジだけど映画の優しいジャイアンってとこだな。


 しかしまあ、こっちに来てまでグローブをはめるとは思わなかったな。

 ちょっと大きいけどなかなか手入れされたいいグローブだ。キャッチボールしたくなる。

 はて? しかし何に使うんだろうか?


「おい! ゴブリンだ」

「あ、ほんとだねえ~」


 お~ゴブリン! これまた定番。

 やられ役の緑色の小人。


「おい、タマオ! 倒してみろ!」

「え? た、倒す!? どうやって!?」

「ガハハ、こうやってだよ!」


 モブオは両手でサッカーボールぐらいの光る球を作った。こりゃ魔法だな!


「くらえ!」


 モブオは両手で魔法球を投げた。

 ドッジボールの球を投げるみたいに。


 3匹いたゴブリンのうち2匹が弾け飛んだ。


「ギィヤアヤヤアア!!」


 残ったゴブリンが威圧しつつ、一定の距離をとり小石を投げてくる。


「ほれ、やってみろ」

「あ、ああ」


 俺も魔法の球を作ってみる。

 見よう見真似でやってみると、意外と簡単に出来きた。


「うっし」


 直径74mm。手に馴染む。そりゃそうだ、小学生の頃から握り続けてきた野球ボールと同じ大きさなんだから。

 軽くオーバースローで投げてみた。

 お~、野球のボールより軽いからか真っすぐ進むな。


 無事ゴブリンの腹を貫通し――ゴブリンは霧散した。


「な、なにぃ!!?」

「んな!」


 あれ? 二人が驚いている。


「なんて破壊力だ!」

「それより、貫通力が凄い! 凄いよ! アレを見てよ!」


 ビードレが指さした先には岩があり、岩も貫通していた。


「おいタマオ! 新人のフリして、実は凄い奴だったんだな!!」

「ホントホント、クツモのレーザービーム並みだよ!」

「は、はは。そうなの?」


 なるほど、異世界特有の俺Tueee要素だな。

 この力を使って、スローライフを実現すればいいんだ。

 普段は簡単なクエストとか農業で生計を立てつつ、お忍びで強敵を倒す! いいね!


 今後のプランが立ちそうだ。そんな妄想をしていると。――地響きが。



「な、なんだ!?」

「あ、あれはレッドドラゴン!!」


 その名の通り赤い竜が飛翔している。うむ……フィギアが動いているみたいだ。


「国王軍の奴らが討伐に向かっていると聞いたが……」

「も、もしかしたら国王軍の奴らやられちまったんじゃ!?」

「ば、馬鹿野郎! そ、そんなわけ」


 う~む。これはイベントだろうか?

 無視してもよさそうだけど、せっかくだしイベント消化したほうがいいのかも。


「よし、行こう」

「ば、馬鹿野郎!」

「し、死んじゃうよ!?」

「でも、放ってはおけないでしょ?」


 街に近いしね。放っておけば街まで来る可能性は高い。

 二人は見合わせた。


「とりあえず近くまで行こう」

「し、仕方ねえな」

「見るだけだよ! 見るだけ!」


 俺たちはレッドドラゴンに向けて走った。



 マナの森と呼ばれる場所には、呻き声を挙げている人や、無残に絶命している人がたくさんいた。

 なんだろう、現実世界なら卒倒しちゃいそうなシチュエーションだけど、どうも怖さを感じない。

 異世界だからだろうか?


「お、おい!」


 一人の兵士が俺たちに気づいて声をかけてきた。片腕が血まみれだ。


「ぼ、冒険者か? た、助けてくれ! 隊長が! アオイ隊長が殺されてしまう!!」

「あ、アオイ隊長っていえば、アクアマリンボールのアオイのことか!?」

「そ、そうだ」


 モブオが驚いている。なんか有名人らしい。


「隊長が一人で食い止めているんだ! だがもう……もちそうに無い!」

「わかった!」


 俺は走り出す。


「ま、待て、馬鹿野郎!」


 モブオの引き留める声が聞こえたが無視した。

 なにせこれは完全にフラグっぽいからな! アオイってことは女の子だろう!!


 美人隊長とのフラグを折るわけにはいかない!

 美人隊長とスローライフをするのだ!!




 俺は走る。

 野球選手のスタミナ舐めるなよ!

 ドラゴンの咆哮が聞こえる! 間に合え!!


 ――間に合った!


 レッドドラゴンというだけあって真紅のドラゴン。

 高さは3メートル近くあり、かなりシャープなドラゴンだ。


 ドラゴンに対するアオイ隊長は、アオイという名前に相応しい南国の海のような美しい蒼い髪。

 でもスタイルは……微妙だな。幼児体形ってわけじゃないけど発育途中って感じだ。

 でも可愛い! 可愛いは正義だ!


 だがやばい! ドラゴンの手が赤く光っている。

 風前の灯ってやつだ!


 俺はとっさに魔法の球を投げる。

 ドラゴンの注意をこっちに…………向け損なった! 失敗!!

 ドラゴンの頭上を掠めてしまった。ピンチに×! クソ!


 俺はとにかく隊長のもとに走る!

 ドラゴンは短い手から真っ赤な火球を投げつけた! そこそこのスピードだ。


 クソ! どうする!

 俺は咄嗟に――


 横っ飛びしてグローブで火球を掴んだ。打球反応は〇なのだ!

 てか……グローブが燃えそうなものだけど、綺麗に収まっている。キャッチ出来るんだね。


「んなーー! レッドボールを掴まえた!??」


 後ろから素っ頓狂な声が聞こえる。隊長……可愛い声だ。一緒にスローライフしような。


 軽く激昂したと思われるレッドドラゴンは両手を使い、連続して火球投げつけてくる。


 くそ! 千本ノックじゃあるまいし!

 とにかく、すべてキャッチ&リリースする。

 落合のセンター返しに比べれば遅い! 遅すぎるぜ!


 だけど……これ、いつまで続くんだ!?


 周辺が火の海に包まれているが、俺の周りは大丈夫だ。

 多分、隊長が後ろで消火活動をしてくれているんだろう。健気だ。


 しかし……ジリ貧だぞコレ。どうすれば……!



「ハアハア……クソ!」


 万事休すか? その時――


 ドラゴンの眉間に攻撃がヒットした。

 ドラゴンがよろめく。


「っけ、今回の新人はクレイジーすぎるぜ!」


 ジャイアン!!


 続けて、速度はそれほどでもないが、ものすごい曲がる魔法球がドラゴンの耳元を掠めた。


「まったく、新人の癖に生意気だぞ!」


 スネオ!!


「俺たちがひきつけるからよ!」

「さっさとやっつけちゃってよ!」


 違う違う。モブオとビードレだった。


「ありがとう!!」


 俺はへたり込んでいるアオイ隊長を抱え、茂みに隠した。


「ここで待っていてくれ!」

「う、うん」


 スローライフのヒロイン1号の安全は確保した!

 後はドラゴンをやっつけて終わりだ!




 モブオとビードレがドラゴンの攻撃を引き付けてくれる。

 ほぼ逃げに徹しているが、ドラゴンも弱ってきているのだろう、攻撃にキレが無い。

 チャンスだ!


 俺は魔力の球を作る。よくわからんけど強力なやつ。

 そして振りかぶる! ワインドアップからの一連の動きは10年以上変わらない投球フォームだ!


「いけええー!!」


 ドラゴンの頭蓋を捉えた投球は確実にヒットするはずだった。

 だが――


「よ、避けた!?」


 ドラゴンは間一髪でサイドステップ。

 クソ! なかなか機敏じゃないか!


 次は胴体を狙うぜ! 胴体なら避けれないだろ!

 クイック気味に第2球を……投げた!


「な、なにい!?」


 ば、バリヤだ! バリヤにぶつかり俺の魔法が弾かれちまった!


「魔の壁です! それほど大きなバリヤでは無いのですが絶対防御です!

 ドラゴン特有の魔法なんです」


 む? ヒロイン1号が木の陰から解説してくれた。

 絶対防御か……厄介だな。


 でも待てよ――


「よーーし! くらえー!」


 俺は第3球を投げた!!

 方向はドラゴンの右側だ!


 当たらないと判断したのか、ドラゴンは攻撃に転じようとしてくる。

 だが!


「グガァ!」


 よし! 当たったぜ! 右側から切り裂くようなスライダーが決まった!

 この魔法球は変化球も出来るみたいだ! ビードレもやってたしな。


「うおおー! すげえぜタマオ!」

「僕の球より曲げれるなんて!」


 へへへ、よし!


 スライダー! カーブ! フォーク! シンカー! シュート!

 すげえ! シンカーなんて投げたことないけど出来た!


 ドラゴンはジリジリ後退していく、あと一歩だ!!



「勇者様! これを!」

「え? ゆ、勇者あ?」


 おいおい、俺はスローライフをするおっさんだぞ?

 照れちまうなあ、まったく。


 ヒロイン1号は、蒼い球を持っていた。


「このアクアマリンボールと勇者様の力を合わせれば、きっとレッドドラゴンも粉砕できます!」

「よ、よし!」


 俺はアクアマリンボールを受け取った。多分水属性っぽい!



 大きく振りかぶる。ワインドアップからの小細工なしの一球!!

 リリースの瞬間、バックスピンを思いっきりかけた。


「喰らえ!! 水玉ストレーートォォ!!」


 唸る蒼き一投は、ただ真っすぐ進む。

 160キロは出てるな……すげえ。ちなみに俺のMAXは143キロだった。


 ドラゴンはバリヤで防ごうとするが……いとも簡単にバリヤを突き破り、少しホップしてドラゴンの頭部を捉えた!

 そしてドラゴンの肩から上が跡形もなく消し飛ぶ。


「よっしゃあ!」

「うおお! すげえぜタマオ!!」

「新人の癖に生意気だぞ! でもすごい!」

「あ、ああ! 勇者! 勇者よ!」



 こうしてドラゴン討伐は完了した! ここからスローライフのスタートだ!!







 おかしい……。


「タマオ様! まずは水上都市まで行きましょう!」


 アオイ隊長……が俺の腕を掴み、彼女面してぐいぐい引っ張る。


「水上都市って飯が美味いって有名だよな!」

「もう! モブオは食べることばっかり!」


 ジャイアンとスネオは何食わぬ顔で着いてきている。



 事の経緯だが、ドラゴン討伐の後、国王軍に盛大に接待してもらった。

 たらふく酒を飲んで、エロい姉ちゃんに囲まれていると、総大将とかいうおっさんが話しかけてきた。


「ぜひ、魔王を倒していただきたい!!」


 周りの女の子たちから羨望の眼差し。そんな状況で断れるわけないよな。

 褒められると弱い。


「がはは、しゃーねえなあ! 俺がズバッとやっつけちゃおっかな!」


 周りのお姉ちゃんがキャーキャー騒ぐ。そりゃいい気分だわな。


「ありがとうございます! 宜しければアオイを同行させましょう。

 彼女ならお役に立てるでしょうし、それに少人数のほうが動きやすいでしょう。

 国王軍はいつでもバックアップできる体制を整えておきますので!

 ほら、アオイ」

「は、はい! お供します!!」


 エロイお姉ちゃんの中にいると、子供みたいなアオイ隊長は目を輝かせていた。


 そんなこんなで魔王を倒す旅に出ることになったのだが……

 なんか、総大将とかいうおっさんについつい丸め込まれてしまった状況だ。


 てかアオイちゃんが同行しているのって、自身の部隊を壊滅状態にしてしまった責任をとったからだろう。


 それに少人数にしたってそうだ。

 結局は国王軍としては人手を割きたくないからだろ? 国王軍は人的サポートはしないけど、でも魔王は倒してくれってことだ。都合のいい話である。


 まあ少人数は確かに動きやすいし、ぞろぞろ大人数で行動なんて野球部みたいで御免だからいいんだけどさ。



 軍資金も貰ったし……、いいんだけどさ……。いいんだけどさ。




「水上都市で開かれる大会の商品は伝説のグラブ、トリックスターのグラブ!

 これは手に入れるしかありませんね! タマオ様」


 あ~、説明乙アオイちゃん。てかその話何度も聞いたよ。


「グラブの次は、スパイクだな!」

「タマオはいまだに旅人の靴だもんね」

「え……そうなの? 魔王の所行かないの?」


 ビードレが笑う。


「魔王を倒すのにその装備じゃ死にに行くようなものだよ。

 しっかり準備していかないとね!」



 あれ……。やっぱおかしい。

 まったくスローなライフに突入しないぞ?

 昔懐かしいRPGみたいな展開になってしまった。孤島に眠る伝説の剣でも探しに行く勢いだ。


 くっそお……まあいっか。

 こうなりゃヤケクソだ。


 この世界を楽しんでやろうじゃないの!

 空が青いぜ!



***



 おっさんの異世界スローライフは始まったばっかりである。


 Throw life。


 |投げる(Throw)、人生(life)。


 投げやりに始まった新しい人生。これも一つのスローライフ。






***


「ん? なんじゃこりゃ」


 神様はノーパの画面を見る。

 画面には【I need throw rife】と書いてある。



「随分、冒険要素の強い世界に転生した思たけど、そりゃそうやん」



 gogole翻訳――


 I →私

 need →欲しい

 throw →投げる

 rife →流行して、広まって、蔓延して



「間違いまくりやん。slow lifeじゃないんかいな。

 コレ直訳すれば……私は投げることが蔓延していて欲しい……。

 ん~『おっさんは投げることが蔓延している世界に行きたい』ってとこやな」


 投げることが蔓延する世界。

 5年後、タマオは魔王と、紅死園にて200球を越える壮絶な魔法の投げ合いを投げ勝ち本当の勇者になる。


「ぶはははは。

 異世界転生してまで投げたくて投げたくてしゃ~ないんやな。流石野球選手やんけ。

 ま、ええわ! 仕事仕事! 次の方ー!!」


面白かったら投銭ならぬ、投げ評価をお願いします。


「ぷ、プリーズ、ギブミー……コングラッチュレーション?」

「なんやねん……『おめでとう下さいって』」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >直径23cm。手に馴染む。 野球ボールにしては大きすぎるような… いや、円周23cmですよね?
[一言] こういうスローライフを待ってました
[良い点] 大変面白かったです。
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