1005:十日目(E)
洞窟内にできた広い空間、ホールでは準貴が息を切らせて辺りを見渡していた。
どこからともなく白銀の拳が打ち出されてくる。
「ちぃっ……!」
地面を蹴って駆け出しながら攻撃を避ける。背後を取るべく攻撃が繰り出された場所に回り込む。
狭い視界の中にエ・テメン・アン・キの、露骨に背骨が浮き出した黒く細い背中が映った。全力で走って後を追うが、それの後姿はじりじりと遠ざかっていく。
鎧を脱ぎ捨てた白銀の化け物は、見るからに打たれ弱そうな、黒い骸骨じみた外観になった。――超軽量動力形態。こうして競って、ようやくその意味が分かる。防御を捨てて得た速力は強脚をも超えており、俺はこうして姿を捉えるのが限界である。
「デルタダート!!」
離れていく背中に向かって衝撃波を蹴り出した。音速を超えた刃ならば、自分の代わりに化け物まで届かせることができる。
しかしエ・テメン・アン・キは馬鹿にするようにこちらをちらりと見て、速力を保ったまま直角に曲がって視界から消えていった。
衝撃波が虚しく壁を削り、洞窟を揺らす。俺は再び一人、時が止まったように遅い世界に取り残された。
「ありゃあ、生き物の動きじゃねぇよ……」
足を止めて呟いた。
骨の化け物は今も周囲を猛スピードで走り回っており、黒い影が微かに見え隠れしている。速度も機動性もあちらが上。俊敏な戦闘機に、鈍重な爆撃機で勝負を挑んでいる気分だ。
散見されていた影がぷつりと消える。背後に、蹴りを放とうとしているエ・テメン・アン・キの姿を捉えた。攻撃に移る為に手足を止めた瞬間なら、さすがに目に入る。
弧を描いて薙がれる白銀の右足を左の脛で受け、鉄格子のように肋骨が浮き出している胸部の中心、鳩尾に右の拳を打ち込んだ。
激痛とともに呼吸を封じる、人体の急所。しかし、そもそもこの化け物は人ではないし、呼吸をするのかも怪しい。
思い浮かんだのが遅かった。エ・テメン・アン・キが平然と顔を上げ、お返しにガードの外れていた腹部にアッパーカットを放ってきた。
「うっ?!」
拳が食い込み、腰骨が軋む。なんとか左足を下ろして踏みこたえた。
以前の化け物のように爪で突かれたら風穴を開けられていた。鎧が外れ拳打の威力が落ちているのが幸いした。
腰を捻りながら思い切り軸足を踏み込んで回し蹴りを放つ。しかしつま先が裂いたのは、既に飛び退いていたエ・テメン・アン・キの前の空気だった。黒い化け物はそのまま側方に跳んで、再び姿を消した。
「くそっ、ヒットアンドアウェイってか……」
威力が落ちているとはいえ、拳を腹に入れられたことで足がガクガク震えている。この足では、次の攻撃は初撃すら避けられないかもしれない。
「戦闘機、か……。一か八か、アレをやってみるとしようか」
いつでも走り出せるように前傾に構え、周囲を回っているエ・テメン・アン・キの動きを捉えるのに全神経を集中させた。
ピッチが早く、もはや断続的ではなく連続的に聞こえる足音。一瞬で視界を外れ、ほとんど見えることのない黒い残像。
黒い脚で壁を蹴り、漆黒の旋風が進行方向をこちらに変えた。
――今だ。脚に溜めていたバネを一気に開放し、迫ってくる黒い化け物に向かって駆け出す。
そう、ヘッドオン。一流のパイロットすら避ける、相打ち覚悟の空中戦法。
瞬間と瞬間がぶつかり合う刹那の時の中、エ・テメン・アン・キがその思惑を理解したのか、白銀の拳をこちらに突き出してきた。
勝利を確信した。互いに仕切りなおしのできない最後の一撃。こうなれば勝負の決まり手はリーチだ。地面を蹴って跳び上がり、右足を正面に伸ばす。
読みどおりエ・テメン・アン・キの拳より先に、俺の足先が痩せた胸部に届いた。指に伝わる、貫いた手応えもとい足応え。しかしその感触はすぐに、視覚によって上書きされ消えた。
化け物は前の足を軸足にし、上体を回転させて俺の脚に背中を向けていた。
敵ながら鮮やかなバレルロール。口を開く時間は無く、心の声で冗談だろう、と叫んだ。
右の裏拳が迫る。地面から足が離れている俺に避ける術はない。
――避けることができない。それなら、攻撃される前に相手をねじ伏せればいい。
空中で腰を回しながら、いわば最後の残弾サイドワインダー、――地面を蹴った後折り曲げていた左足を振り下ろす。
「シーハリアーッ!!」
左足の脛がエ・テメン・アン・キの首元を捉えた。両者の速度が落ちるにつれて食い込んでいき、化け物が白銀の触肢を開いて表情を歪めた。
足を振り切って地面に叩きつけた。遅れて軽やかに着地する。
既に目の光が消えている顔から、再び似合わない音声案内が流れ出した。
『エラー発生、エラー発生。胸部に致命的損傷を確認。自動修復機――』
「止めろ、お前。それ以上脱いだら、架空だろうが青少年○題協議会の皆さんに不健全指定されるぞ」
頭を踏み潰したところ、ようやく放送が止まった。エ・テメン・アン・キが銀色の粉になって崩れ去る。
「思ったよりも時間を食っちまったな。無事でいろよ、皆……」
腹の痛みを堪えて走り出した。再び道に迷い美月にどやされることになるとは、この時俺は知る由もなかった。
洞窟から隔絶されたドリーネでは、三人の生徒と一匹の化け物が対峙していた。腕を突き出し指を鳴らす準備をしていた七海が首を傾げる。
「カトプトロンは反世界と粒子をやり取りする能力だと教えたわよね?」
「あぁ、聞いたぞ」
龍之介が物怖じせずに答えた。てっきり賢い彼なら、私の能力の詳細を知った時点で勝ち目のないことを悟り、諦めると思っていた。
「あなたの取り込んだ攻撃能力は、私の知る限り全て出し尽くしたはずよ」
「その通りだ」
「それなのに、どうしてまだ立ち向かってくる気力があるの……?」
「君のカトプトロンに対抗できる能力が一つだけある、そう言ったらどうする?」
「――はったりね。全ての物質を消滅させられる私に、通用する能力なんて無い。あなたには失望したわ。このトリックスターで終わりにしてあげる」
サーバに保存されているデータを見れば、現在龍之介が保持している全ての能力名が分かる。改めて確認したが、やはりその中に私の対応できない能力は存在していなかった。
この男がそんな低俗なブラフをかけてくるとは思わなかった。指を鳴らそうと、中指と親指に力をこめる。
「――エインザーム!!」
その時、健太が石灰岩の上に積もっている砂を上空に向けて噴き上げた。
「無駄。そんな砂でトリックスターは防げないわよ」
砂ごときで対消滅のエネルギーは防げない。たとえ核シェルターに篭ったところで、物質から構成されている以上、対消滅を防げない。
砂の壁の向こうから聞こえてくる、地に響く鳴動。噴き上げられ続けている砂の中から、両翼を広げたグリフォンが飛び出してきた。
どうやら砂は目くらましで、こちらが本命らしい。
「それなら、あなたから先に――」
黒い鷲の頭に指先を向けた。
この手の生物を操るタイプの能力は、耐久力が高く設定されている。万全を期し、孝大のときのように内部で炸裂させるとしよう。
しかし次の瞬間その指の向こう、噴き上げ続けている砂の中から、再びグリフォンが飛び出してきた。
「え……?」
こちらに迫ってくる、何故か二体いる王家の象徴。
冷静に考え直してみれば、龍之介が隼人の能力をイミテートしたに違いない。驚くことではない。両手をそれぞれのグリフォンに向けた。
「トリックスター!」
指を同時に鳴らした。音がドリーネの壁面で響く。二体のグリフォンが全く同じように口から光を吐き、風船のように膨らんで砕け散った。
辺りに焼けた血肉が降り注ぐ。じきに姿を現す龍之介と隼人を倒せばこの戦いは終わる。龍之介にしては、お粗末な作戦だった。
ふと脳裏に、目に焼きついていた先刻の光景が浮かんだ。
自らの爆発による光で照らし出された、一体のグリフォンの影。そう、確かに一体分しか――。
血の気が引き、冷えた頭が妙に冴えてくる。
肩に何かが触れた。
七海の背後に立ち、肩に手を乗せているのは龍之介だった。
砂の壁から飛び出したグリフォンの一方は隼人の生体転移系、そしてもう一方は俺が世界の理を司るもの(アヴェスター)で映した彼の姿。彼女は影で気付いたようだが、時既に遅くこうして肩に手を触れることができた。
「フフ……。少し驚いたけど、それで勝ったつもり?」
「あぁ、そうだ。大人しく皆をログアウトさせてやれ」
肩に触れたのは棄権を促す為ではない。
「呆れた、本当に失望したわ! トリックスター!!」
七海が肩に置かれていた手を払い、真上に掲げた手で指を鳴らした。パチンと、軽快な音が部屋に反響する。
「――トリックスター!!」
再び指が鳴る音が響く。しかし対消滅による爆発はどこにも起こらない。
「なんで――?!」
「カトプトロンといったか? なかなか扱いの難しい能力だな」
七海が驚愕の目を向けてくる。
「イミテート?! でもありえない。そんな初見で使えるような能力じゃないはずなのに――」
「うちのリーダーは、伊達にIとQが高いわけじゃねぇんだよ」
グリフォンを失った隼人が、拳の関節を鳴らしながら近づいてきた。
「てめぇのカトプ……能力は龍之介に封じられた。もう残機がいくつあろうが意味は無ぇ。さぁ、くだらんゲームは終いだ」
「――言ったはずよ。その条件は私と聖君、そしてエ・テメン・アン・キの撃破だと」
七海が冷たい瞳を見せる。
「私の負けは認めましょう。でもまだゲームは終わっていない。……あの人の強さを目の当たりにして絶望するといいわ」
言い終えると同時に彼女の姿が消えていた。
「見直したぜ。あんな無茶苦茶なヤツに勝てるなんてよ」
隼人が拳を下ろして口を開く。
「いや、お前達のお陰だ。俺一人だったら、彼女と戦いもせずに負けを認めていただろう。……安心するのは、残る一人と一体を倒してからだ。行くぞ」
三人はドリーネを後にし、再び洞窟の中へと入って行った。
洞窟の中に造られた神殿に響き渡る、グチャグチャという液体音。落ちていた臓物や血液が体の断面に吸い込まれていく。ひき肉のような赤い糸、筋繊維が絡み合い断裂を埋める。皮膚が這い寄り傷を塞いでいく。
「そんな……」
涼子がさくらに貸した肩と反対側の手に持っていた刀を落とした。
「はは……。そうだ、僕がこの世界の規律、僕が神なんだ――」
聖がゆっくりと口を開いた。接合面は綺麗に塞がり、傷跡も残っていない。
「加瀬、みんなをログアウトさせるんだ!」
対してこちらは三人ともに満身創痍。脅えているのを気取られないように、大きな声を上げるのが精一杯だった。
「五月蝿いよ。お前らのせいで翔太が……、翔太が!」
いつの間にか聖の手にガトリング砲が握られていた。銃口は俺の眉間に突きつけられている。目を逸らせない。
「祐太!」
こちらに向かってこようとする二人を手で制止した。
「このゲームはネットで知り合ったたくさんの人達に力を借してもらって、翔太の為に作ったんだろう?」
「そうだ。復讐の場としてぴったりじゃないか」
「加瀬は本当に、そう思っているのか?」
「何……?」
「製作を手伝ったみんなは、加瀬も山並も、翔太が学校に来れるだけの勇気を持てるようにこの世界を作ったんじゃないのかよ! いつもこの仮想世界に入るとき、二つの反した感情を感じ取れて不思議に思ってた。一つは、お前が俺達に向けていた憎しみや恨み。でも、もう一つは俺達を温かく迎えてくれた優しい気持ちだった。……今なら分かる。あの温かい感じは、翔太が俺達を歓迎してくれていたからだったんだ」
「違う! あいつはお前達を憎んでる!」
「もう一度考え直してみろよ。翔太は友人に復讐を求めるような人間だったか? 翔太はクラスメイトと和解しようと作った世界で、殺し合いをさせることを望むような人間だったか?!」
「五月蝿い! お前に翔太の何が分かる! 僕達の何が分かる!!」
聖が青筋を立てて叫んでいる。普段大人しかった彼がここまで感情的になるのだ、翔太はとても大切な友人だったのだろう。
この数日、短い間だったが、さくらに避けられてとても辛かった。その気持ちはよく分かる。
「彼の言うとおりよ。もうお終いにしましょう……」
後ろから女の声がした。振り返ると、神殿の入り口から七海が歩いてくるところだった。
「山並、お前まで血迷ったのか?!」
「私達の負けよ。この子達は、圧倒的に不利な戦況を覆して私達三人を倒した」
七海の言葉から判断すれば、俺達はどうやら彼の言っていたログアウトの条件を満たしたらしい。エ・テメン・アン・キは準貴達だとしても、七海を倒したのは誰だったのだろう。
「関係無い。俺があいつの復讐を――、こいつらに恐怖を教えてやるんだ! やる気がないなら邪魔だ、下がっていろ!」
「聖君……」
七海が寂しそうな顔をして呟く。
「今のあなたは翔太を離れて、復讐という言葉に取り憑かれてる。正気に戻ってよ!」
「――五月蝿い!!」
白い大理石の地面に赤い斑点が散った。彼女の胸から刀身が、刃先を上に向けて突き出している。
「かはっ……?!」
七海は上体を反って血を吐き、仰向けに倒れた。刀は左寄りの胸から突き出しており、心臓が壊されているのは一目瞭然だった。七海は死んだ。
「殺れ、オムファロスッ!!」
聖が引きつった笑いを浮かべて叫ぶ。
祐太の、さくらの、涼子の胸から刀身が突き出し、三人は吐血して倒れた。四人の体から流れ出す血が、地面をペンキで塗ったようにべったりと赤く染めていく。
「は……、ははっ……。やったぞ、僕は! 翔太の仇を!」
聖が倒れた生徒達の間に立ち、ガタガタ震えながら勝利の雄叫びを上げている。しかしすぐにうずくまって慟哭し始めた。
「僕は……、本当に翔太の仇を? 分からない、これがあいつの望んでいたことなのか? これが僕の、山並の望んでいたことなのか? ――教えてくれぇ、翔太ぁぁ!!」
聖は血塗れた地面に両手をつき、神殿の天井を見上げて叫んでいた。
そっと肩に手が乗せられた。
振り返った聖の目に映ったのは一人の少年、そして先程死んだはずの四人の生徒達の姿だった。
そう、これは対象の処理をサーバーの別スレッドで行うことで隔離し、まるで並行世界にでも送られたように錯覚させる能力、『ドリームキーパー』。
「翔――太……?」
「うん、僕はここにいるよ」
翔太が膝立ちになり、聖と目の高さを合わせる。再び涙を流し始めた聖をそっと抱き寄せた。
洞窟内の神殿には、ゲーム内に残っている全ての生徒達が集まっていた。プレイヤー達は聖と七海、そして翔太を囲んで立ち、彼の口が開かれるのを待っている。
「まず、どこから話そうか――」
彼は一年生のクラスでの事を、そしてアップステアーズを作り出したきっかけを話し始めた。クラスで無視される雰囲気が作られたこと、それが苦痛で学校に来れなくなってしまったこと、二人が自分を励ましてくれたこと。ゲームを作っている時は、本当に楽しかったと言っていた。時間も忘れて仮想世界に没頭していたと。
「でも、いざゲームが完成して明日みんなに公開するっていう時に、無性に怖くなってしまったんだ。ベッドに入った後も、拒絶されたらどうしようか、余計にいじめられたりしないか、二人に迷惑をかけることになるんじゃないか、色んなことを考えてた。――そしたら気付いた時には、ボストンバッグに貯金箱と少しの服を詰め込んで家を飛び出してた。何処に行くあても無かったけど、電車に乗って海に向かったんだ」
掲示板で見た、翔太を応援してくれていた人々は皆一様に、明日頑張るようにと書き込んでいた。それはこみ上げた思いそのままだったろうが、退くことを妨げる結果になり、翔太を逆に苦しめることになってしまっていたのかもしれない。
「靴が港で見つかったって聞いたが……」
準貴が我慢できずといった様子で口を挟んだ。
「あっ、海に出てから無いのに気付いたけど、長靴に履き替えた時に港に置きっぱなしにしてたのか」
「海に出る?」
今度は健太が口を挟む。
「うん、この半年くらい漁船に乗せてもらってたから」
「「漁船?!」」
とうとう全員が声を上げた。
なんでも翔太は家を出て辿り着いた港で親切な船長さんに出会い、手伝うことを条件にして遠洋漁業の船に乗せてもらったらしい。昨日の夜一区切りがついて船から降ろしてもらったそうだ。
「この半年、色々なことを学んだよ。――今までの僕は、いじめられる原因はすべて世の中の方にあると思っていて、自分の行動を顧みることなんて考えもしなかった。その日は相手の虫の居所が悪いのだろうと思って諦めていた。……でもそれは違うんだ。僕らには口がついている。嫌なことは嫌と言うことが出来たはずだし、ゲーム公開の不安を二人に相談することもできたはずなんだ」
BCIケーブルを通して知覚できる翔太の姿は半年前と何も変わっていないが、どこか肝が据わったような表情をしていた。
「ごめんなさい、僕のせいで迷惑をかけました。嫌な思いをさせました。本当にごめんなさい!」
翔太が囲んでいた生徒達に深く頭を下げた。
「頭をあげてくれよ、翔太」
彼の肩に手を乗せた。謝るのは翔太ではない、責任は彼をそこまで追い詰めてしまった自分達にある。
「俺達こそ、ごめん。お前がどんな気持ちでいるかも考えないでひどいことをしてしまった、嫌な思いをさせてしまった、人生を狂わせてしまった。本当にごめん」
「「ごめん……」」
生徒達が次々に頭を下げた。
「みんな……」
頭を上げた翔太は目に涙を浮かべていた。続いて彼は一歩下がり、両脇に立っている二人を見た。
「加瀬君、山並さん――」
「翔太……」
「翔太君……」
ずっと死んでしまったと思っていた親友が戻って来てくれたというのに、彼らは暗い顔をしている。三人はしばらく無言で見つめ合っていたが、翔太が再び頭を下げた。
「逃げ出してごめんなさい。辛いことをさせてしまってごめんなさい」
二人が戸惑いながらも手を伸ばす。壊れ物でも扱うようにそっと翔太の体に触れて、ようやく表情が和らいだ。
「私こそごめんね、あなたの思いに気付いてあげられなかった……」
「今のお前の顔を見て、ようやく思い出したんだ。翔太は優しい男だった、復讐なんて望む男じゃなかった……。そんなこと初めから知っていたはずなのにな。翔太、すまない。僕はお前の復讐の為だと言って、自分のどうしようもない怒りをクラスメイトにぶつけていたんだと思う――」
「ううん、あの温厚だった加瀬君をそこまで突き動かしてしまったのは僕のせいだ。迷惑をかけてしまったみんなに謝ろう、僕も一緒に謝るからさ」
生徒達はみんな泣いていた。
自分以外の誰を責められるだろうか? 翔太も、聖も、七海も、クラスメイト達も、個々それぞれが立ち振る舞った結果こうなったというだけの話。もう少しお互いの思いが伝わっていればこんなことにはならなかったのかもしれない。ただ一言自分の気持ちを口に出すだけ、ただ耳を傾けてあげるだけ、それがとても難しいのだ。
黒い背景に27人の顔写真が並んだ画面。クラスメイトの顔が並んでいる。
今日はすべての生徒が色つきで表示されていた。十五番目には翔太の顔写真が載っている。
だんだんとフェードアウトし、赤い文字で『GAMECLEAR』と表示された。