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IOException  作者: 175の佃煮
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1002:十日目(B)

 巨大な白い虎が洞窟の中を疾走していく。美月と巧と弘樹が、振り落とされないように必死にその体にしがみついていた。速力のお陰か、智和による足止めのお陰か、後ろに灰燼達の姿は無い。


 急に虎が爪を立ててブレーキをかける。三人が慣性で前に放り出されて地面の上を転がった。


「ご、ごめんなさい!」


「……うぅーん」


 上体を起こして背中をさする。結構勢いよく滑り込んでいたが、体はあまり痛くなかった。


「すまん美月、どいてくれるか?」


 どうやら男二人の上に落ちていたらしい。声のする先を見ると、私の肘が弘樹の頬を潰していた。


「そう急がないでよ。軽いでしょう?」


 失礼なことに返事はなかった。

 男臭いマットから立ち上がって辺りを見渡す。四方の壁が随分と離れている。顔を上げると、無数の鍾乳石が生えた天井が遥か上に見えた。

 洞窟内にできた部屋。それも、朱雀で飛べそうなほどに広い。


「どうしたの、真央?」


 申し訳なさそうに頭を低くしている白い虎に話しかける。


「道が分かれてたから止まろうとしたんだけど、スピードがつき過ぎていて止まれなくて……」


「どんまい。あれだけ走れば、さすがに追手の心配はないだろう」


 起き上がった弘樹が、辺りを見渡して確認しながら言った。


「智和のやつ、大丈夫かな? あいつ荒っぽいし馬鹿だと思っていたけど、根は結構いい奴だったんだな……」


 巧が尻を払いながら口を開く。三人の目が一斉にこちらに向けられた。


「なに、私の顔に何かついてる?」


「正直になれよ。お前らお似合いだと思うぜ?」


 巧の言葉に、弘樹が自分も同じ意見だと言いたげに何度も頷いた。


「それは、私があのストーカーと同程度だと言いたいの?」


 男二人はヤレヤレと両手の平を上に向けた。


「趣味じゃないのよ、ああいう不器用な男」


「お前も、あまり器用な方では無いと思うがな」


「今日はやけに突っ掛かってくるじゃない、弘樹」


「止めて、二人とも!」


 真央が声を荒げるので、仕方なく弘樹から目を逸らした。



 端末を開いて現状の確認を行う。ログアウトも試みたが、仮想世界はうんともすんとも言わなかった。

 灰燼の異常発生といい、深刻なエラーでも吐いているのだろうか。それとも、もっと別の――。

 急に弘樹が目を見開いてしゃがみ、顔を横にして地面に耳をつけた。


「何してんの? ハイヒールで踏んで欲しいって?」


「静かにしてくれ。何か音が聞こえないか?」


 四人全員が同じように地面に耳をつけて音を探る。


「こっちに向かってくる?!」


 巧が叫び、三つの道の内の、私達が来た方向とは違う方の一つに体を向けた。


「何が来るって?」


 巧の側に寄り話しかけた。

 既に地面が揺れ始め、上から砂が舞い落ちてきている。黒波の先触れ。無数の金属同士が当たる音が近づいてくる。


「灰燼――?!」


 四人が互いに距離を取り、自身の姿を各々の獣に変えた。


「桜井君がやられたの?」


 心配そうな表情をした白い虎が三匹に尋ねる。


「いや、こっちは俺達が来たのとは違う方向だ。他の灰燼の群れと考えるのが妥当だろう」


 亀が答えると、虎は胸をなでおろしたようだった。ため息をついてから、彼女と一緒になって安心してしまっていた自分に気が付いた。幸い、亀と竜には気付かれていないようだ。気を取り直して戦闘に備える。


「この場所なら思い切り戦えるわ。今度こそ奴らの玉ブッ潰すわよ」


「ヒュー、怖い怖い」


 竜がどうやったのか分からない口笛を吹く。


 数百の灰燼の群れが押し寄せてくる。四匹の獣達は、静かに息を呑んだ。


「――お、真央じゃないか」


 道を塞いで立つ四匹の間を吹き抜けていった風が、声を発して静まった。


「準貴君?!」


 虎が素っ頓狂な声を上げる。部屋の中央には、さくらを背負った準貴の姿があった。続いて息を切らせた祐太と、彼を励ましながら涼子も走って来た。


「準貴君達も、この洞窟に?」


「あぁ、ログイン早々灰燼どもに追われてな」


 準貴が返事をしながらさくらを背中から降ろした。


「どうやら……、管理者が、俺達を、閉じ込めたらしいな……」


 祐太が部屋に足を踏み入れてから口を開いた。膝に手をつき顔を歪めて荒い呼吸をしている。既に息が整った隣の涼子を見て、人事ではなく生活習慣病には気をつけようと思った。


「あんた達、何か知ってそうね?」


「こいつらを……、片付けてからで、いいか?」


 エターナルリカーランスの四人も、洞窟の奥から迫ってくる灰燼の群れに体を向けた。


「いや、ここは俺が引き受けるから、そっちの道に行け」


 亀が後ろ足で立ち上がり、私達が来た方向ではない道を指差した。


「正直この戦力でも、あの大群と戦うには骨が折れる。お前らが先に行って管理者とやらを何とかして来い」


「一人だけ格好つけてるんじゃねぇよ、俺も混ぜろ」


 竜が亀をどついて、横に陣取る。


「それなら私も……」


「私も混じってあげるわよ」


 鷲と虎も横に並ぼうとしたが、亀に制止された。


「いや、お前らは先に行け。二人に怪我でもされたら彼氏に合わせる顔が無い」


「……分かったわ」


 灰燼を放っている元凶がいるとすれば、ここに戦力を集中させても仕方がない。言葉に甘え、人間の姿に戻って二匹の獣に背を向けた。


「ただし言っておくけど、あの馬鹿は彼氏じゃないから!」


「自覚してるじゃないか」


 亀が甲羅を上下させて、クックッと嬉しそうに笑っている。


「中曽根以外は真央に乗せてもらいなさい。あんたは自分で走れるわね?」


「あぁ。真央、みんなを頼む」


「任せてください!」


 エターナルリカーランスの三人が膝を屈めた虎の背中によじ登っていく。彼らに続く前に、意気込む爬虫類達に声をかける。


「弘樹、巧。私に無許可で死んだら承知しないわよ!」


「ヒュー、怖い怖い。泣きっ面に蜂ってやつだな」


 白い虎と準貴が二匹に一礼をし、空気を揺らして駆けて行った。



「なぁ、さっきの俺格好良かったか?」


 ぽつりと竜が尋ねた。

 黒い波が押し寄せる。射程に収まったようで、化け物達が一斉に手の平を正面に向けた。竜と亀が地面を踏みしめ激突を待っている。


「なんだ、まだ氷室を狙っていたのか」


「涼子ちゃんさ、指輪を右手の薬指に逆さまにしてつけてただろ? あの指輪はクラダリングって言って、あの付け方は恋人募集中っていう意味なんだぜ」


「ほう、詳しいな。……付き合った経験ゼロにしては」


「うるせー」


 竜の頭上を金属の物体――グレネード弾がかっ飛んでいった。


「美月のアレが終わったら、お前の恋路も応援してやるさ」


「本当だな? 頼むぞ?」


 二体の獣が同時に地面を蹴った。

 竜が灰燼の一体を顎に挟み、左右に振り回して薙ぎ払う。亀が太い前足を振り下ろし、複数の灰燼を同時に叩き潰す。洞窟が激しく揺れた。




 前方から押し寄せてくる灰燼の群れを、龍之介と隼人が瞬時に殲滅して進んでいく。進むにつれて戦闘の頻度が高くなっており、中枢に向かっていることが予想できた。

 前方の壁が光で照らされ、白く反射しているのが見える。


「オイ、出口みたいだが、本当にこっちでいいんだろうな?」


 躊躇なくスタスタ歩いていく龍之介に話しかけた。


「確かにこの向こうから、人間であろう微弱電流を二つ感じる」


 洞窟内とは一転し光に満ち溢れた空間へと足を踏み出す。じゅうたんのように柔らかい地面を踏んだ。四人が眩しそうに手をかざして辺りを見渡す。

 四方は洞窟同様の石灰岩の壁で囲まれているが、そこには天井が無かった。真上に青空と太陽が位置し、壁の上には生い茂る木々が見える。柔らかいと思った足元には草が生えていた。


「ドリーネか」


「ドリ……何だって?」


 龍之介の呟きを聞き返した。


「ドリーネ。カルスト地形で地面がすり鉢状にへこんでいる場所だ」


「カル……、いや、もう何でもいい」


 別段興味がある訳でもない、ここが何処だろうが喧嘩をする分には関係ない。鮮やかな緑色の草がまだらに生えている部屋の中央に視線を向ける。一人の少女が俺達に背を向けて立っていた。


「やはりあなた達がここに来たのね」


 少女が口を開いた。あまりホームルームに出たことはないが、たしかあれは出席をとっていた声。クラス副委員長、山並七海。アップステアーズ三日目に俺が排除したはずの女。


「てめぇは、あの時死んだはずじゃあ……」


「あなた達は、シューティングゲームでいう自機数が1。対して管理者である私達はそれが無限であるという、ただそれだけの話よ」


 七海が淡々と話しながら振り返る。感情を押し殺した、冷たい表情をしていた。

 自機数が無限、つまりゲームオーバーになることはないということだろう。驚いている三人を余所に、龍之介が話しかける。


「私達と言ったが、もう一人は加瀬聖でいいのか?」


「えぇそうよ。もう全て知ったのでしょう?」


「そのつもりだ」


「そうそう、あなたのことだから微弱電流を追ってここまで来たのでしょうけど、ここに彼はいないわ」


 七海が眉を上げ首を振る。


「そのようだな、この部屋に入った途端に微弱電流が一つ消えた。それも管理者の特権というわけか」


「御名答。ご褒美をあげましょう」


 七海が滑らかに腕を上げ、右手の指を鳴らした。

 後方で爆音が轟く。四人が急いで振り返った。土石が吹き飛ばされ、ドリーネと洞窟を結ぶ通路が崩れ落ちている。


「ご褒美として、死ぬまで私と戦うことができる権利を与えましょう」


「……確かにそいつは最高の褒美だ。気が利くじゃねぇか」


喧嘩好きの身には垂涎ものの好遇。自然と笑みがこぼれた。拳の関節を鳴らしながら七海の元へ向かう。


「兄貴、俺が先に行きます!」


 孝大が重そうに走り、隣にやって来た。


「邪魔するんじゃねぇよ、こいつは俺の獲物だ」


「兄貴の邪魔をするつもりはありません、あいつの能力を明らかにするまで任せてください。俺の能力なら撃墜されることは無いから、あいつらと同じく自機数が無限のようなもんですから!」


「ふん、そこまで言うなら行ってきやがれ。……気をつけろよ」


 顎で七海を指し、踵を返して龍之介の隣に戻る。確かに全身に絶対防御を纏った彼の能力なら斥候にはもってこいだろう。



「待たせたな」


 孝大が七海の前に立ち、口を開いた。


「いいえ。今日は時間が無制限だから、ゆっくりしていて構わないわよ」


「俺の能力は――」


「自身で呼んでいる名前は『絶対障壁アブソリュートディフェンス』。効果は皮膚の強化と絶対防御。他の皆さんの能力も知っているので、あしからず」


「それなら話は早い、防御に関しては最強の能力だ!」


 孝大が拳を構え、地面を蹴った。


「防御に関して最強……、それは聞き捨てならないわね」


 七海が腕を突き出し、中指と親指を合わせた。先刻爆発を引き起こした構え。

 中指が親指の付け根を弾き、パチンと爽快な音が反響した。

 音が鳴るのと同時に、走り出していた孝大が動きを止めていた。不自然に体の力が抜けている。うつ伏せに倒れこんだ。


「オイ、孝大!!」


 孝大の元へ駆け寄る。さすがに絶対防御の皮膚を持つ男、外傷は無いようである。体を回して起こし、顔を上に向けさせた。


「っぐ?!」


 強烈な悪臭。血――、脂肪――、胃液――。それ以上の判断は嗅覚野が拒んだ。吐き気を催し、口に手を当てる。

 腕の中から滑り落ちた孝大の体は、タプンタプンと水の揺れる、人にあらざる音を立てて地面の上に転がった。鼻から、瞳が覗いていたはずの眼窩上の切れ目から、力なく開いた口の端から粘った赤い液体が垂れ流れている。

 既に息が絶えていることは明らかだった。


「それが……、お前の能力か」


 背後から声が聞こえ、振り返る。龍之介が俺の後ろに立ち、七海を睨んでいた。


「そう、『カトプトロン』。元来意味を成さない幻想にして、片や全世界を破壊し得る武力」


「龍之介、そいつは俺に殺らせろよ……」


 頭を揺らして立ち上がる。ドスをきかせたつもりだったが、声が震えてしまっていた。

 世界を破壊できる力と聞いて、恐れているのか? まさか。これは怒り。殺意。食い破って飛び出してきそうなほどに渦巻いた憎しみを、なんとか体の中に抑え込んでいる。


 拳を強く握り、七海に向かって歩き出したが、後ろから肩をつかまれた


「――いいや、今のお前に任せることはできない」


「何だと……?」


 殺意の対象を龍之介に代えた。あの女は舎弟の孝大を殺した。自機数が無限というなら好都合、無限に殺してやる。邪魔は誰にもさせない。


「冷静になれ隼人。その女は絶対防御を突き破り、体の内部にダメージを与えた。グリフォンになったところで孝大の後を追うことになるだけだ」


「だからどうした! 俺は俺のやりたいように――」


「黙れ!」


 今までどんな時でも冷静沈着だった龍之介が、取り乱して叫んでいる。思わず口を閉じて息を呑んだ。


「俺は……、お前が協力してくれれば勝てる気がすると、そう言っているんだ……」




getConnection( 13, 武田龍之介)


 これはアップステアーズ一日目、隼人と合流した後の話である。

 二人で島の西部を歩いていたところ、黒江綾音と遭遇した。彼女もPTに入りたいと言い始め、いざPTを作ることになったのだが、リーダーを巡って隼人と綾音の間で口論がなされている。


「だから言ってんだろ、俺がリーダーでこいつが舎弟だ」


「誰がどう見ても逆じゃないの」


 綾音が隼人と俺を見比べ、ヤレヤレと両手を上に向けた。


「俺はそれで構わないのだが……」


 少し離れたところで瓦礫に腰掛け見守っていたが、話がまとまらないようなので口論に口を挟む。


「ほら見なさい、アレがリーダーとしての風格よ?」


「なんでだ。俺がリーダーだと認めた台詞じゃねぇか」


 二人を止めるための言葉だったが、どうやら水を差しただけのようだ。

 隼人は眉をひそめて俯いていたが、突然勝ち誇った表情をして顔を上げた。


「そうだ、龍之介の奴、IQが何とかっていう天才なんだろ?」


「そうね」


「だったら俺達のやり取りを見て、どっちが天才か思い知れよ」


 特に首を振る理由はない。綾音がしぶしぶ頷いた。


「龍之介ぇ、問題を出すぞ」


 隼人が腰に手をあて、上機嫌でこちらに向かってくる。


「あぁ」


「尻を英語で?」


「hipだ」


 予想外に簡単だった質問に戸惑いながらも即答した。


「胸は?」


「bustだ」


 羞恥心を煽る、小学生が思いつきそうな低俗な問題だが、言えないレベルではない。


「なら……、アソコは?」


 口を開くが、答えを言うべきか戸惑った。額に冷や汗が流れる。一応クールとして通している俺が、女性のいる前でそのような下品なことを口にしていいのだろうか。


「分からねぇのか? なら俺が答えちまうぞ」


 隼人が心を読んだかのように、口元をゆがめて急かしてくる。


「い、いや、少し待て……」


 唾を飲み込み、震える唇を開いた。


「genital」


 あくまで冷静を装い、小さな声で答えた。鏡を見なくても自分の顔が赤くなっていることが分かる。


「何だって〜? もっと分かりやすい英語で言えよ」


 耳に手を当てるジェスチャーをして隼人が尋ねてくる。


「ペ、peni――」


「ヴァ――カ!! 『あそこ』はゼアだろうが!」


 途端、隼人が腹を抱えて笑い出した。世界が逆さまになったような衝撃を受けた。


「指示代名詞の『あそこ』を、話の流れから名詞だと思わせるとは……。恐れ入った、完敗だ」


 隼人はまだ笑いこけている。


「――勝者、武田君」


 綾音は頭を傾け、つまらなそうに右手を挙げて宣告した。


「何でだ女! 今のは誰がどう見ても俺が天才だろうが!」


「自分でやってて恥ずかしくないの? ――それはある意味天才よね」


「てめぇ……。なら今度はお前が答えてみろ。ピザと十回言え」


「肘」


「くっ、シャンデリアと十か――」


「白雪姫」


 隼人が膝を曲げて崩れ落ちた。どういう問題かは分からないが、綾音は的確に解答したらしい。


「もう、お前らの好きにしろよ……」


 哀愁を誘う丸まった背中が、すっかり生気をなくした声を出した。




「隼人、先程の問題は素晴らしかったぞ」


 瓦礫の上で黄昏ていた青年に声をかけた。


「あれは前に桜井にやられて恥をかいた問題だ」


「そうか……」


 綾音の指示により、俺をリーダーとする三人のPTが完成した。名前は同じく彼女の趣味で、『エクスカリバー』と『ユグドラシル』から選ぶように要求され、どちらも安直で迷ったが世界樹に決めた。


「お前さ……」


 隼人がこちらに背中を向けたまま口を開いた。


「なんだ?」


「天才とか言うから全能全智の凄いやつかと思っていたけど、案外普通だな」


「……そうだな」


 彼の隣の瓦礫にゆっくりと腰を下ろす。


「頭も固いしな」


「そうだな」


 口元をゆるめて返事をする。――普通。自分を指して言われたその言葉が妙に嬉しかった。


「お前の言う通りだ。IQなんかが高いからといって全能全智にはなれない。勉強をしなければテストで赤点を取るし、宇宙創生の真実や永久機関の作り方なんて一生かかっても分からないだろう」


「はぁ? 俺達となんら変わらないじゃねぇか」


「そうだな――」


 端末の時間を確認すると、そろそろログアウトの時間だった。


「だけどよ、黒江は天才のお前に惹かれて寄ってきたんだ。その期待には応えてやるのがリーダーとしての、頭としての責務だと思うぜ」


「それがお前の不良をやる上での心得か?」


「さぁな」


 隼人が愉快そうに口元をゆるめる。


「てめぇがリーダーをやる以上、仕方ねぇから従ってやるよ」


「いや、別に従わなくても好きなように――」


「おいおい、責務と言った側からそれか? リーダーやるからには、死んでも勝たせろってそう言ってるんだよ」


 実際人の上に立っているからだろうか、彼の言葉には重みがあった。


「――分かった、約束しよう」


 隼人は一回だけ頷き、一足先にログアウトしていった。頭の上にCPUという文字が浮かぶ。


「あら、隼人が人に隙見せるなんて珍しい」


 背後から綾音の声が聞こえた。


「ログアウトの前に、これからの方針を聞かせてもらえる?」


「――序盤は有能な人材を集め、確実に勝利が得られるだけの組織を作り上げる。PTができ次第拠点を設け、そこを中心に戦闘を行う」


「あら、やっぱり天才君が仲間というのは心強いわね」


「安心しろ、死んでも勝たせる。そう約束した」



 強制ログアウトの時間になる。

 視界がフェードアウトし、いつの間にか質素な自室に戻って来ていた。俺はワークチェアに深く腰掛け、疲れた目を手の平で覆った。


 初めて自分を負かした男、最強を目指すという男、普通と言ってくれた男、奇妙な奴だった。直感で、彼は自分と逆の人間のような気がしていた。しかし何故だろう、彼が仲間になったことをとても頼もしく感じたのは。


End




 隼人がもう一度孝大の遺体に視線を向けた。


「……悪かった。ここでやられたら、明日学校で孝大の奴に笑われちまうな」


 苦笑して龍之介の隣に向かう。興奮は冷めやらないが、肩の力を抜いて冷静になろうと試みる。


「忘れているかもしれないが、俺も弾除けくらいにはなれるからな」


 続いて健太も龍之介の隣に立った。


「そんなことはない、頼りにしているぞ」


 戦意を取り戻した三人がそれぞれに構える。七海はそれを眺めながら冷たく笑っていた。

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