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IOException  作者: 175の佃煮
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1001:十日目(A)

 重い瞼を開く。雀が窓の外で盛んにさえずっている。いつもは忌々しく思える鳴き声も、今日は不思議と愛らしく感じた。

 ベッドの上で寝返りを打ち、うつ伏せになる。横目で時計の分針を見るが、まだタイマーが鳴り始める時間より三十分ほど早かった。


 昨日はゲームの後、なかなか寝付くことができなかった。アップステアーズの作られた経緯、翔太の友人の憎しみ、知ってしまった真実が重く圧し掛かっている。加えて昨日の夜からずっと頭から離れないのは、さくらのことだ。


「胸ときめく少女じゃあるまいし、格好悪……」


 再び寝返りをうって仰向けになり、布団を直してため息をついた。

 布団の端から手を出し、唇に触れる。さくらの触感と匂いを思い出し、背中がむず痒くなった。


「格好悪……」


 昨日のあれはゲームの出来事だ、何故狼狽しなければならないのか。再びため息をつくと、指を離して目を閉じた。



 チャイムの音。ドア越しに母親の声が聞こえてくる。内容は分からないが、何やら上機嫌のようだ。続いて、誰かがカパカパとスリッパの音を立てて近づいて来た。

 部屋の前で足音が止まる。母親なら、壊れるのではないかと思うくらい容赦なくドアを開けて起こしにくるはず。しかし今日はどうやら様子が違い、ゆっくりとドアが開かれた。

 人の気配を感じ、薄目を開ける。横目に、スリッパを脱ぎ音を立てないようにそっと歩いているさくらの制服姿が映った。面白そうなので薄目を開けたまま様子を見守る。


『まずは目覚まし時計だ。あいつはいつも七時にセットしてるから、そろそろ鳴り始めるぞ』


「ラジャー」


 さくらは携帯電話を片手に、ひそひそ声で話している。漏れている声から判断すると、相手は準貴のようだ。

 さくらは真っ先に、あと五分で鳴るはずだった目覚まし時計を止めた。

 そういえば中学時代に彼女に目覚ましを止められるという、しょうもないイタズラをされ、しょうもなく遅刻したことがあった。昨日テレビ電話で言っていたのはこのことだろうか?

 続いて俺が寝ていることを確認した後、引き出しを次々に開け始めた。


『オイ、何だそのゴソゴソした音は?』


「ナンデモナイヨ。アタシナンニモシラナイヨ」


 さくらが全ての引き出しを確認し終え、舌打ちをした。

 弱みを握るつもりだったのだろうが、想定の範囲内。涼子の指摘していた場所はきちんと整頓しておいた。……なんで外人口調?


「任務続行します、少佐」


『よし、メインイベントといこうじゃないか』


「ラジャー」


 やりたい放題やって満足して帰るかと思っていたが、さくらはベッドの方に近づいてきた。


「祐太、朝だよー」


 思えばさくらと出会ってから苦節十余年。起こすことはあれど、いたずらされることはあれど、低血圧である彼女に起してもらったことは一度もなかった。準貴から散々、『幼馴染に起こされることは男のロマンだ』と聞かされていたが、その気持ちも少し分かった気がする。目頭が熱くなるが、寝たふりを続けることにした。


「おーい! 起きないと朝飯食べちゃうぞ。……それは名案かも」


 肩を掴んで揺らされる。ついでに朝飯が危険にさらされている。いい加減フリだと気が付きそうなものだが、それでも寝たふりを続ける。


「準貴、ダメ。起きない」


『いつもはすんなりと起きて来るんだがな。こうなったら、シンデレラ作戦だ』


「シンデレラ作戦……、何するの?」


『目覚めの口付け――キッスだよ。こう――、ハァハァ』


「それ白雪姫。しかもあたしが王子様だし。……というか、準貴もキスして起こしてたの?!」


 何やらとんでもない誤解が生まれている気がする。


『馬鹿言え、俺は真央一筋だ!』


「でも真央ちゃんとはまだなんだよね〜」


『俺達はピュアな恋愛してるからいいんだよ。エロスなお前らと一緒にすんな』


「エロスとか言うな」


 さくらが肩を上下させて、深く息を吸って吐く。


「起きないと、目覚めのく……、く……」


 さくらの顔が傾く。薄目の視界に、そっと目を閉じたさくらの顔が映る。柔らかそうな唇に目がいってしまう。どちらが発したものか、唾を飲む音が聞こえた。


「く、口……、口封じするぞ」


「――殺してどうする!」


 思わず目を開いてツッコミを入れていた。

 どういうわけか、さくらは勝ち誇ったように口元を歪めている。顔を離し、俺の耳に携帯電話を当ててきた。


『寝起きドッキリ成功!』


「やったね!」


 ベッドの隣と携帯電話の向こうから笑い声が上がる。


「格好悪……」


 少し期待していた自分が恥ずかしい。部屋を出ていくさくらの後姿にため息をついた。


「先にリビング行ってるね〜。寝起きの男の子の布団をはがさないであげた厚意に感謝しなよ」


「そりゃあ、どうも。厚意ついでに、牛乳とトーストくらいは残しておいてくれよ」


 さくらは返事の代わりに手をひらひらさせて、リビングへと消えていった。

 いつの間にか起きるのに丁度いい時間になっている。ベッドの中から抜け出し、開きっぱなしの机の引き出しを閉めた。

 机の上の鞄には、昨日寝る前に詰め込んだ教科書とノートが入っている。――翔太の友人、それは恐らく聖と七海。一年の時に彼らが一緒に話しているところを何度か見た。今日学校に行ったら、彼らにアップステアーズのことを改めて聞いてみよう。


 リビングからさくらのいただきます、という声が聞こえてきた。




 ホームルームのチャイムが鳴る。担任が前の扉から入ってきて教卓の前に立つが、いつものように号令がかからない。


「加瀬と山浦は休みか。ここのところ珍しいことが続くな。火原、代わりに挨拶と出席をとってくれるか」


「……はい」


 席に着いている生徒達を見渡して、担任が口を開いた。美月の席から舌打ちの音が聞こえた気がする。


「ねぇ祐太、聖君と七海さんって……」


 後ろの席からさくらが話しかけてきた。


「アップステアーズのこと、もう一度聞いてみようと思ってたんだけどな」


 どうすれば連絡先を知らない彼らと話す機会を得られるだろう。準貴、陸、蓮、敦、聖、七海、薫、大樹――、八人の生徒がいない教室は、ずいぶんと閑散としていた。




「「退院おめでとう!」」


 数人の看護師と一部のクラスメイトによる多様な声色の祝福を受けて、中央たたら病院の裏玄関から三人の生徒が出てきた。準貴はまだ松葉杖をついているが、陸と蓮は固定していた包帯が外れて、傍目からは怪我しているようには見えない。


「準貴君、良かったですね」


 真央が白い歯をこぼして準貴の元に駆け寄る。準貴は顔を赤くして頬を掻いていた。

 二人の邪魔をしては悪いので、一人悲しそうな顔をしている陸に近づく。


「陸、残念だったな」


「まったくだ、共に芸術を愛でる友ができたのによ……」


 陸はとても残念そうに目を閉じて首を振った。同じ部屋で一緒に芸術(AV)を鑑賞していた蓮と離れることになるのだ、陸にとっては悲しいことなのだろう。たぶん。


「なぁ陸、今度お前の家に行ってもいいかな?」


 隣にいた蓮が恥ずかしそうに陸に話しかける。


「もちろんだ、友よ!!」


 男二人が抱き合ってはしゃいでいた。輪に入れそうもないので、退院のお祝いに来ている生徒達の元に帰る。


「何、アレ」


 涼子が歓喜の声を上げる二人の男を指差している。お祝いに来ているのは、さくらと涼子、手形村の四人、隼人と孝大である。


「メロスとセリヌンティウスのような、一点の曇りもない男達の友情だ」


「ふーん……」


 今回は嘲笑を受けることもなく誤魔化すことができた。


「そうかなぁ、あたしには栗の花臭く見えるけど」


 さくらも腕を組み、頭を傾げて眺めている。


「それを言うなら胡散臭い、な」


 準貴が松葉杖をついて歩いて来た。


「脚大丈夫か?」


「あぁ。医者が大げさなだけで、今すぐにでもカバディできるぞ。カバディ、カバディ、カバ――」


 腰を落とし両手を広げてキャントを始めたが、真央のたしなめる声が聞こえ、姿勢を正した。


「マンションに帰ろ」


 さくらがたたら南の方向を指差す。


「悪い、この後真央と遊びに行く約束をしてるんだ。アップステアーズの時間までには戻れると思う」


「楽しんでらっしゃい」


 涼子が薄笑いして手を振っている。


「おう、今度こそ惚気話用意しておくからな。……お前らもどっか行って来いよ」


 準貴は再び松葉杖をつきながら真央のところに戻っていった。


「俺達も行こうか」


「うん!」


 歩き出すと、さくらがポニーテールを揺らしながら嬉しそうについて来た。しかし涼子は難しそうな顔をしてそっぽを向いている。


「……私、用事思い出したから、二人で行ってきなよ」


「用事って?」


「二人で行ってきなよ」


 視線を合わせずに同じ言葉を繰り返す。

 さくらと向かい合い、お互い軽く頷いた。無言のまま左右から涼子の手を取り、へっぴり腰の彼女を二人で引きずっていく。


「ちょ……」


「昨日お前も言ってただろ、俺は鈍感でしつこいんだ」


 涼子は大きくため息をつき、とうとう自分の足で歩き出した。


「用事はやっぱりキャンセルになった」


「それは良かった」




「――それで、エスコートを任せた結果がコレ?」


 涼子が嘲笑を浮かべる。準貴達と別れてからしばらく後のこと、何故か三人は南たたら駅前で牛丼をつついていた。


「甲斐性無しでごめんなさい」


 小さくなってうなだれた。


「まぁまぁ。ボックス席に座った辺りに、エスコートのエの字が含まれているんじゃない?」


 さくらが牛肉を口に運びながら擁護してくれた。

 退院を見届けた後、三人はたたら中央の街中にあるボーリング場に向かった。二ゲームで息のあがった二人がよろよろと歩きながら牛丼屋に吸い込まれていき、椅子に腰掛け今に至る。


「でも楽しかったわ。じゃ、またアップステアーズで会いましょう」


 一番先に牛丼を平らげた涼子が、席に小銭を置いて立ち上がった。


「まだゲームまで時間あるけど……」


 店を出ようとしている背中に声をかける。


「カップルが仲睦まじく丼がっついているところを邪魔するほど野暮じゃないわ」


「お前、またそうやって気を遣って……」


「こうやって大人しく身を引いてあげるのも今日だけだから、ありがたく頂いておきな」


 店員の声を受けながら涼子が店を出て行った。さくらと顔を見合わせる。


「……涼子もああ言ってくれてたし、食べ終わったら少しだけデートしようか」


「うん」


 さくらが頬っぺたにご飯粒をつけたまま頷いた。




 昼間来ていた子供に忘れ去られたのだろう、派手な配色をしたプラスチックのスコップが砂場に突き刺さっている。日中は親子連れで賑わっていた公園も、今の時間は閑散としていた。

 俺達はベンチに隣り合って座り、温かい缶ジュースを両手で包み込んで持っている。


「なぁ、賞金のことだけどさ……」


 砂場に視線を向けたまま口を開いた。コーヒーのスチール缶を持つ手に力がこもる。


「ん?」


 さくらがこちらを向いて次の言葉を待っている。


「賞金が出なかったら、俺の名義で奨学金借りるよ。だから、さくらも――」


 恐らく賞金は出ない。だから彼女の夢を叶える為に、俺に何かできることがないかと考えた。


「祐太は前にもそんなこと言ってくれたよね。その時、あたしは何て言ったか覚えてる?」


「――二人に迷惑をかけるくらいなら、大学には行かない」


 以前話したのは高校に入ってからすぐの事。あの時は冗談半分に話をしていたが、さくらは真面目な声でそう返事をした。


「今もその気持ちは変わってないよ。あたしは三人とずっと一緒にいたい、だから家庭の事情に巻き込むことはしたくないんだ」


「ごめん……」


「気持ちだけありがたーく貰っておくからさ」


 さくらはそう言いながら立ち上がり、飲み終えた缶をバスケのシュートみたいに構えた。放たれた缶が、放物線を描いて自動販売機脇の籠に吸い込まれていく。缶同士が当たる音が鳴った。


「ナイシュー」


「帰ろ、そろそろ時間だよ」


 腕を後ろで組んでこちらを見下ろしているさくらの顔は、もう心配は無用だと告げていた。




 少年は他の乗客と行き違うようにして、一人面沢高校前駅で降りた。既に日は沈み、道には点々と街灯が灯っている。

 ドラムバッグを担ぎ、懐かしい景色にわき目も振らず走り出した。時刻は八時、アップステアーズの開始時間に間に合わせることができなかった。


 昨晩はネット喫茶で久しぶりにインターネットを使い、掲示板とアップステアーズのログを確認した。英語と数字の羅列から導き出されたのは、ゲームの本来の目的とはあまりにかけ離れた、とんでもない現状だった。


「聖君……、七海さん……」


 人通りの少ない道を、力の限り速く走る。彼らは恐らく、僕の為にクラスメイトと戦っている。僕が止めなければならない、自分の弱さから引き金を引いてしまった僕が。




 アップステアーズ九日目。……本当にアップステアーズ九日目?

 時間通りにログインした俺達は、見知らぬ暗い場所にいた。天井と床には小さな尖った岩が生えており、左右の湿った壁は石灰質でざらざらしている。どちらが入り口でどちらが出口か分からない、一本道のその場所は洞窟だと気付いた。


「私達、ユグドラシルの拠点でログアウトしたはずよね?」


「あぁ。少なくとも、俺はこんな場所知らないぜ」


 涼子と準貴は早速端末を開いていじり始めた。ゲームは前日にログアウトした場所から開始されるはず。何故行ったことのない場所に来てしまったのだろうか。

 天井から小さな岩の破片が落ちてきた。


「祐太……」


 さくらが洞窟の奥を見ながら、くいくいと袖を引いてくる。俺もつられて彼女の視線の先を追った。

 リズムよく石灰岩の地面が揺れている。


「な、なぁ……。準貴、涼子」


「何?」


「どうした?」


 二人は真剣に端末を見つめている。返事だけを返してきた。

 洞窟の奥から聞こえてくる、幾重にも重なった金属音。ゆっくりと近づいてくる。軍隊のように足並みを揃え、それでも個体差から不規則な音を立てている。

 二人も顔を上げて、洞窟の奥を見た。


「明日の夕食、豆腐余ってたし麻婆豆腐にでもしようかなぁ……」


 さくらはそれを見ないように、腕を組んで下を向いている。


「現実逃避するな」


 黒い外骨格、小さな頭、太い体と腕、紅く灯る二つ――いや、数百の目。目の前には、洞窟の奥が見えないくらいにたくさん敷き詰められた、灰燼アッシュの群れの姿がある。


「バッド……トリップ……?」


 同じく腕を組んで下を向く涼子。


「お前まで現実逃避するな、さりげなく問題発言だし。いや、そもそも現実じゃないから空想逃避……?」


「リーダー、どうする。戦るのか?」


 準貴はすでにやる気満々で拳同士をぶつけている。


「ざっと見て百体くらいか。一人二十五体、いけるか?」


「背後をとられなければなんとか、かな」


 弱気な台詞とは逆に、涼子も同じくやる気満々で鯉口を切っていた。


「じゃあ――」


 その時、俺の頬のすぐ横を、何か金属の塊がかっ飛んでいった。後方から爆発音が届き、熱風が伝わってくる。四人は言葉を失っていた。

 群れの先頭に、穴の開いた手の平をこちらに向けている灰燼がいた。残りの九十九体の灰燼達も一斉に腕を上げる。


「――逃げようか」


 俺が提案をすると、三人は大人しく頷き踵を返して走り始めた。




「男共、なんとかしなさいよ!」


「そう言われても、こんな狭いところで能力を使うわけにもな……」


「右に同じく」


 美月が後ろから走ってくる巧と弘樹に向かって声を荒げた。五人の生徒が一本道の洞窟の中を突っ走っている。


「なんとかしなさい、ヘタレの桜井!」


 横で走っている智和に矛先を変える。


「南の桜井だ!」


「だいたい、なんであんたまでここにいるのよ?!」


「ゲームの管理者に聞いてくれ。……俺は感謝したいくらいだがな」


 アップステアーズにログインすると、そこは洞窟の中だった。奥から無数の灰燼が迫ってきたが、この戦場は生体転移系マニューバーを使うには狭すぎる。仕方なく五人が走って逃げ出したところ、灰燼の群れは急にスピードを上げ、じりじりと後ろから距離をつめてきた。

 しばらく考え込んでいた智和が口を開く。


「出雲、お前の能力ならぎりぎり洞窟の中でも使えるんじゃないか?」


「多分……」


 真央は美月の隣で息を切らして走っている。


「ちょっと! 真央に戦わせるつもりならぶん殴るわよ!」


「それなら、三人を背中に乗せて走れ」


 智和が足を止め、後ろを振り向いた。


「桜井?!」


 四人も足を止めて振り返る。


「行け、ここは俺が引き受ける!」


 灰燼の群れがけたたましい音を立てて迫る。

 男の戦いとは自分の大切なものを護り抜くこと。無事だった姿を見て、それ以上の幸せを得られる。美月は昨日の彼の台詞を思い出していた。目の前には冷や汗を垂らしながらも、ギラギラした目を見せる男の姿がある。


「行くわよ! 真央、白虎使える?」


「うん!」


 洞窟内に忽然と巨大な白い虎が現れ、背中を低くして三人に向ける。巧と弘樹が急いでよじ登っていく。

 美月も後を追うが、一瞬だけ智和の方を振り向いた。


「心配しなくても、一匹たりとも先には進ませないさ。さ、早く行ってくれ」


「……何よ、ちょっとだけカッコイイじゃない」



 美月を乗せた虎が、地面を抉り猛スピードで走り去っていった。後ろを振り返らず、右手の中にランスを作り全身に鎧を纏う。


「カッコイイ、ね……。上等な冥土の土産じゃないか」


 ランスの槍頭を正面に向け柄を脇に挟んで構える。勇ましく掛け声を上げ、灰燼の群れの中へと突っ込んでいった。




 暗い洞窟の中に細い水色の光が走る。次の瞬間、数百の灰燼の上半身が次々に崩れ落ちた。手の平から可視光域のレーザーを放つ技、美緒の金枝篇。


「てめぇ! 半分残しておけって言っただろうが!!」


 洞窟の天井に鷲の頭を擦りながらグリフォンが叫ぶ。


「すまない、隼人はこの場所では不利かと思ってな」


「不利じゃねぇ、ハンデだ!」


 言い合っている龍之介と隼人の後ろでは、健太と孝大がため息をついていた。


「龍之介、これはその管理者――聖と七海がやっていると?」


 このままでは埒が明かないので、健太が二人の間に入る。


「あぁそうだ。残存していた勢力の戦いも終わった。俺達に戦う気が無いというのは、彼らにとって不都合だろうからな」


「あいつらをブッ潰せば済む話だろ」


 隼人は人間の姿に戻り、不機嫌そうに腕を組んでいる。


「兄貴なら楽勝ですよ!」


「そうだ、期待しているぞ」


「けっ……」


 孝大と龍之介が褒めちぎると、ばつが悪そうに横を向いた。

 先程は、十字路のうちの一方向から灰燼の群れが押し寄せてきた。龍之介が一つ一つの方向を見て、そのうちの一本に向けて歩みを進め始める。


「てめぇ、本当に方向分かってるんだろうな?」


 隼人が龍之介に従って歩き始め、孝大が駆け足でその横につく。


「この洞窟全体から電流を感知できるが、この方向では二つだけの微弱電流を感じた」


「加瀬と山並、か……」


 健太が一番後ろからついていく。


「おそらくはな」


 四人は砂に還った灰燼の死骸を尻目に、洞窟をさらに奥へと進んで行った。

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