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英雄召喚されたのに色々問題発生です  作者: 七地潮
第一章
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フジ屋へ行ってみた

案内されたのは、城に程近い甘味処で、他の店より外のイートスペースの椅子が多いかな、くらいの違いしかない。

その店の名前は【フジ屋】……。


「こんにちは」

ネイが店内に向けて声をかけると、着物姿の女性が出てきた。

「あらネイ、お帰りなさい。

あなた、ネイが来たわよ」

呼ばれて顔を出したのはらヒョロっとした背の高い中年男性だ。

男は柱の影からひょこりと頭を下げる。

「ウチ様、私の叔母のアリと、その旦那さんのサワさんです。

叔母さん、こちら最近日本から召喚されたウチ様です」

昨日言ってたラトさんの妹かな。

アリさんは胸の前でパチンと手を合わせて、驚いた顔をした。

「まぁ、日本って始祖様がいらしたって所なの?

本当に日本なんてあるのね」

そう思う気持ちは分かる。

別の世界があるなんて思わないよね、普通。

「初めまして、フジ・モト・アリよ。

遠い所をようこそ」

うん、遠い所だよね、確かに。

「こっちが亭主のフジ・ユグ・サワよ、宜しくね」

旦那さんが再び頭を下げる。

「トウ・ドウ・ウチです、宜しくお願いします。

……あの、フジってもしかして、王都の城下町で病院をやってるフジ家と関係があるのですか?」

何となくだけど、顔付きが日本人っぽい感じに見えるんだよな。

「あら、フジ家をご存知ですか?

うちの旦那は先々先代の弟の娘の三女の息子なんですよ」

遠いなぁ。

「甘い物が好きでこのオワリの町に来て、私の務めていた甘味処に弟子入りしてたんですけど、最近独立してんですよ」

柱の影に潜んだまま頷くサクさん。

「すみません、うちの人ちょっぴり恥ずかしがり屋なんですよ」

さっきからアリさんしか話してないし、全然出てこないけど、もしかしてカンに触る事でもしたかなぁ。

「すみませんウチ様、いつもの事でして、実は私も一度も声を聞いた事が無いんです」

ネイに耳打ちされるけど、それでいいの?客商売で。

「まあ立ち話も何ですし、ささ、座って下さいよ」

赤い布……非毛氈ひもうせんって言うんだっけ?が掛けれた椅子…じゃないよな、何か呼び名があったような……?

とりあえず腰掛ける。

「飲み物はどうされますか?

お抹茶って好き嫌いがあるから、緑茶、煎茶、番茶、麦茶の五種類用意してますよ」

確かに、僕の周りでも抹茶や緑茶がダメって人いたもんな。

選べるのは良いかもしれない。

実際僕以外は麦茶にしたみたいだ。

僕は折角だから抹茶で、この世界で見るとは思わなかったお団子と一緒に頂く。

うーん、これはまたなかなか。

目を閉じると、別世界って事を忘れそうだ。


美味しいお茶と団子を頂きながら、アリさんと話をする。

オダ家では、武の道に進む者と、甘味から離れられない者が多く出るらしい。

武と甘味……。

兄にあたるヤクさんの子供たち、甥や姪は母親の血が濃いのか、鍛治関係に進んだらしいけど、オダの家系的には作るより使う方が断然多いとか。


「イル達には合ったの?

え?兄さんってば弟子入りしたばかりでまだまだ未熟者だから、会う必要無いなんて言ってるの?

まあ呆れた、頭固すぎだわ。

よし、私に任せて。

ちょっとあなた、私出てくるから」

アリさんが仕切り、店の中のサワさんに声をかけるけど、サワさんはまたもや柱の影から顔だけ出して、ブンブンと音がするほど首を横に振る。

でもアリさんは気にせず、

「じゃあお店宜しくね。

さ、行きましょ」

と歩き出してしまう。

慌てて後を追いながら振り返ると、頭を抱えたサワさんがしゃがみこんでた。

……良いの、あれ。


その後、鍛冶屋を二軒と銀細工屋を回って、ヤクさんのお子さんのイルさんと、ユグさん、娘さんのチコさんと挨拶を交わした。

フジ屋に戻るまで、ずっとアリさんは話し通しだった。

お店に戻ると柱にもたれかかった涙目のヤクさんの姿が……。

その後店の奥から一歩も出てこなかったので、挨拶の声だけかけて僕達は城へ戻った。

【ちょっと恥ずかしがり屋】では無かったような……。

まあその分奥さんが喋るから釣り合いは取れているのか?

でも結局サワさんの声は一言も聞かなかったな。

へ……風変わ………ゴホン、世の中には色んな人が居るんだな。

と言うことにしておこう。

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