トモ家へご挨拶
トモ家は城のすぐそばの、長屋のうちの一件だった。
長屋……うん、本当に時代劇で見るような平屋で一棟と言うのかな?入り口が四つあると言うことは、四件で一つの棟で、それが五つ建っている。
20世帯が住まえる長屋のうちの一件だ。
「ハルさん、いらっしゃいますか?」
まずはネイが引き戸を開けて中へ声を掛けた。
「これはこれはネイ様、ようこそお越しくださいました」
中から年配の男性が出て来る。
ほぼ白髪だけど、黒いものもチラホラ見えているから、この人がトモ家の跡取りなんだろう。
「お久しぶりです。
今日は連絡があったと思いますけど、我々の始祖様と同じ世界から召喚されたウチ様の共として、護衛を兼ねての帰宅です。
こちらがウチ様です」
紹介されて前に出る。
「初めまして、東堂内柊一郎です。
こちらの世界の法則に倣ってトウ・ドウ・ウチと名乗っています。
宜しくお願いします」
何時もの挨拶をする。
「お目にかかるのは初ですが、お話は聞いております。
トモ家の後継のトモ・ヤク・ハルです。
狭いですがどうぞお上り下さい」
玄関で靴を脱いで中へ入るけど、ネイ以外は入り口に立ったままだ。
「どうしたの?」
スイとニトに声をかけるけど、
「いえ、私達はこちらでお待ちしております」
と言われた。
いつもならスイは絶対について来るのに。
まあいいか、障子を開けてたら、入り口から中は丸見えなんだし、会話も筒抜けだし、護衛的な意味だとネイが一緒だから問題ないんだろうな。
通された居間には囲炉裏が有って、それを囲むように敷かれた座布団に腰を下ろす。
右斜め横にネイが、向かいにはハルさんが、そして斜め左にお茶を持ってきた女性が座る。
お茶を一口飲んで、ネイが口を開く。
「ウチ様、こちらはハルさんの伴侶のロコさんです」
紹介された女性は随分若い……二十代後半くらいの人だ。
随分年の差がありそうだけど、この世界見た目と実年齢バラバラだからな。
耳も普通で尻尾も見えないけど、これも断言できないんだけど、普通の人みたいだ。
「ウチ様方は城に泊まって頂きますが、基本ご自由に町を見て回って頂きます。
うちでは長や相談役が常時城に居ますし、ハルさんも仕事の関係上いつもこちらに居られますので、何かあればお尋ね下さい。
こちらの長屋はトモ家の所有でして、ハルさん以外のトモ家の者が住んでおります。
今は…こちらには何人程居るのですか?」
ネイがこれからの事を説明してくれる。
最後はハルさんへの問いかけだ。
「今は直系と傍系合わせて5家族住んでおります。
後は…………」
「分かりました。
後書の方は準備されて居ますか?」
「はい、いつでもご覧いただけます」
「だそうですので、ウチ様の都合のよろしい時にごらんくだね。
ハルさん以外のトモ家の者は、夜に歓迎会を城で開きますので、その時にご挨拶させます」
昼だから仕事に出て居るんだね。
しかし歓迎会か……魔物の人が少ないといいな。
「それでは城へ向かいましょう。
荷物の整理も有るでしょうし、あちらで泊まるのですから、あちらでゆっくりしましょう」
ちょっと忙しないけど、言ってる事は最もなので、残ったお茶を一気に煽って立ち上がる。
でも実は、久々に正座で足が痺れてきてたから、早々に立ち去るのはありがたい。
しかしまぁ、ネイとハルさんは見事としか言いようがないよ。
僕は片手をついて立ち上がったんだけど、ネイは右手に刀を持ち、左手は軽く膝に置いたまま、すっと立ち上がった。
すっとだよ、すっと!
カッコイイわー、ネイは団服を着ているんだけど、侍にしか見えない!
僕も筋力鍛えたら、すっと立てるかなあ、これは益々体を鍛えねば!
感動した僕と共に、一行は歩いて城へ向かう。
その途中でスイがそっと訪ねてきた。
「ウチ様、足は大丈夫ですか?」
足?……あ、もしかして…、
「さっきスイが中に入らなかったのって、正座が苦手だから?」
言い当ててしまったのか、バツの悪そうな顔をするスイ。
「この町の方々は慣れているようですが、あの独特の座りは……」
「座るだけで足は痛いし、暫く座ってると痺れてくるし、何より靴を脱ぐってのがなぁ」
ニトもうんうんと頷く。
まあ僕も正座が得意なわけではないけど、骨格の違いなのか、西洋人は正座で座りにくいとか、どこかで見た気がする。
この世界の人も同じことかな?
でも慣れたらあぐらでも正座でも出来ると思うけど、痺れはねぇ……。
体重を片足ずつにかけるとか、足の親指を重ねるとか都市伝説だよなぁ。
……城に泊まるってなってるけど、スイ達大丈夫なの?




