三人で居るのが一番落ち着くね
牧さんのダメージが大き過ぎて、その場は一旦解散となった。
「………………」
「………………………………」
「………いや、濃いね……」
「返す言葉がございません」
「凄くダメージ受けてたけど、大丈夫なの?」
「喧嘩したらいつもの事だか……ですから」
「でも何があんなにダメージを与えたんだろう」
「そうですね、曽祖父に言わせますと、【自分は真性だけど、元の世界では犯罪になった事でも、ここでは合法だ】と幼い頃聞いた覚えが有ります」
「まぁ、五百歳なら犯罪ではないかもしれないけど、僕にはわからない世界だな」
「性癖はそれぞれという事ですね」
「………………ところでニト……気持ち悪い」
気軽い会話に慣れてるのに、改められると他の人と話してるようだ。
「そう言われましても……」
ちろりと後ろに視線を向ける。
勿論その視線の先に居るのはスイだ。
会話は聞こえて居るはずなのに、いつものポーカーフェイスだ。
秋彦さん達以外だと、崩れにくいんだなぁ。
宿泊する部屋に入り、ソファーに腰を下ろす。
「この後の予定は、本日はユウ様ご家族と晩餐と、その後少し時間が欲しいとユウ様から申しつかっております」
どうされますか?とスイに尋ねられたけど、さっきまではあのノリと、ツルスベ対モフ……価値観の相違で殆ど話し合いになってないから。
僕が了承すると、
「では先方へ伝えてきますので、お寛ぎになってて下さい」
軽い会釈をしてスイが部屋を出ると、それまで僕の対面のソファーに座っていたニトが、ゴロンと横になった。
「あ〜〜本っっっっ当に堅物なんだから。
公務つったって俺の実家だよ?
別に良いじゃんねぇ」
「そうだねと頷きたい気持ちは有るけど、休みで帰って来たとかじゃなくて、僕の付き添いと考えると、何とも言えないかなぁ」
丁寧に喋るニトに違和感は感じるけどね、やっぱりスイの言い分は間違ってないと思うから。
「あ〜、ウチも奴の味方なんだ」
言いながらソファーから起き上がり、テーブルを回って来たニトに抱き上げられてしまった。
「こーんなに仲良しな俺より奴の方が良いんだ」
抱えた僕の頭に顎をグリグリ押し付ける。
「ちょ…痛いからやめてくれよ」
「やーだね、俺の心の方がもっと痛いんだから」
「痛い痛い痛い!髪の毛が攣るって!禿げるって!」
ジタバタしてたら、僕の危機だと思ったのか、熊澤さんがニトの腕に噛み付いた。
「イテーーーー!」
「うわぁ!熊澤さん、離して!イジメられてたんじゃないから!ふざけてただけだから!」
「毒!毒はちゃんと抜いてるの?」
「それは大丈夫……だと思う」
「おい、ちゃんと断言してよ」
ドタバタして居るところに戻ってきたスイが、無言で荷物から応急セットを取り出し、ニトに投げる。
「手当してくれないの?自分でしろって?」
「どうせウチ様に下らないイタズラでもしていたのでしょう。
自業自得です」
喚くニトをスルーして、優雅にお茶を淹れてくれたけど、熊澤さんが噛んだんだから放ったらかしてお茶を飲むなんて無理だ。
ニトの手当をしようとしたら、横から取り上げられて、
「ウチ様の手を煩わせる事は有りませんよ」
と、結局はスイが手当をした。
仲が良いんだか悪いんだか……。
でもいつもの空気で落ち着くわ。
*****
「先程は取り乱してすまなかった」
夕食の後、憔悴したままの牧さんが頭を下げる。
「いえ、こちらこそムキになってすみません」
大人気なかったよな……お互いだけど。
「ちゃんと謝ったからもう勘弁して」
「ちゃんと反省した?」
「十分に」と神妙な顔でロリさんと向き合う牧さん。
「おかのした」
意味不明な返事をした後、ポンっと音を立てて八頭身美女は幼女に戻る。
「おおおおお〜、神の如きちっぱい!もふもふシッポにピクピクおミミ〜〜」
危ない呪文でも唱える様な言葉を並べて、牧さんはロリさんを抱き上げる。
…………部屋に戻って良いかなぁ。
思わず逸らした視線の先で、ニトが「ファイト!」と小さくガッツポーズをしている。
頑張りたくないけど、頑張るわ。
頑張りたくないけどね…。
とりあえずスイの淹れてくれたお茶で気持ちを落ち着けよう。
七日間連続更新お付き合い頂きありがとうございました。
……あんまり進んでない気がするけど…………あれ?
次回更新は奇数日の明日です。
よろしくお願いします。




