尻尾と寿命と金目のゴマちゃん
「し……シッポーーー⁉︎」
腰に巻き付いて居た五センチ幅ほどの白いロープかスルリと落ちたかと思うと、それは意志を持ってゆるりと動く。
「え?……は?…尻尾?」
人の頭の上に動物の耳だけでも有りえなさ過ぎるのに、この上尻尾まで?
きっとここで喜ぶ人は居るのだろうけど、あいにく僕は喜べない。
動物の耳や尻尾は動物に付いていてこそだ。
後輩の読んでいた漫画にはそんな絵も有ったけど、それは所詮漫画の話。
現実に目の前に居るのと訳が違う。
よく『バケモノ』と叫ばなかったと自分を褒めてやりたい。
しかもこの尻尾……爬虫類だよな…。
「…………へぇ、成る程、耳や尻尾の無い世界の人ってこんな反応するんだ」
マキの声に尻尾から目を離して見ると、その表示は悪戯が成功した子供の様な表情で、その右手は腰の剣にかかって居る……。
「ごめんごめん、記録によると始めて魔物を見た地球人の反応は殆どが「バケモノ」って言って襲い掛かってくるそうだから、襲われたら反撃させて貰おうと思ってたけど、凄いね、叫びはしたけどその後の言葉も行動も意志で抑えたでしょ。
見た目ちっちゃな子供だけど結構大人?」
言葉が一気に砕けたマキは面白そうに聞いてくる。
「もうすぐ34才になる」
「うわっ、結構オッサン?見た目は幼児なオッサン?
因みに俺は61歳」
……爺さんにオッサン呼ばわりされた…。
「61歳と言っても祝福三つだしハーフだから、二十歳前ってとこかな?
こちらでは寿命まちまちだから見た目年齢がそのまま一般年齢だと思ってね。
そうすると、あなたの場合見た目5才として平均寿命の80歳まで75年、祝福が少なくて100だとして7500生きるって事?
数が多すぎて訳わかんないけどこれで合ってるの?
7500年…………うっわー……」
いや待て、こっちがうっわーだよ!
どうすんだよそんなに長生きして!
ってちょっと待て、話が明後日の方向へ行ってるぞ!
「寿命は置いといて尻尾だよ!」
そうそう、と軽く言うマキ。
「君は」
「マキかニトで良いよ」
「じゃあマキは耳は普通の人の耳だよな、でも尻尾が有って爬虫類の尻尾だから」
「そう、母親が蛇系の魔物。
耳に特徴の無い魔物の耳は普通の人と同じだね。
近衛騎士の団長も母親鳥系だから羽は有るけどケモミミは付いてないね」
「羽?そんなの付いてる奴居たか?」
謁見の間にケモミミ付いてる人は複数居たけど、羽付きは居なかった様な。
「種族に寄るけど羽って仕舞えるんだよ、ズルイよね」
いや、ズルイとか言われても……。
「だから普通の人と見分けるには、耳や尻尾だけ。
見た目的にはそれくらいしか変わらないよ」
いや、耳や尻尾が付いてる時点で全然違うと思うけど。
「そんでもって寿命事だけど、大体のところ人が70〜80年、魔物が200〜300年、ハーフは寿命も親の魔物の半分、祝福を受けた人は受けた数だけ伸びるって感じかな。
ハーフで祝福を受けたらまた伸びる、つまりハーフで英雄家系で祝福三つ持ちの僕は400歳くらいまで生きるのかな」
400歳迄生きるなら60過ぎても確かに若造か?
しかし僕自身は何千年も生きるって何その地獄。
「後祝福を受けた人の見分け方も有るんだけど、普通は中々気づきにくいんだけど、ココ」
言いながら自分の目を指し顔を近づけて来る……近いよ…。
「分かるかな?瞳の中に金が有るでしょ?」
言われてよくよく見てみると、彼の緑色の瞳の中に金が散っている。
確かに近づけば分かるけど、普通こんなに近くで人の瞳を覗き込むことはないから気づかないよな。
「この金は『妖精の光』って呼ばれて居て祝福の数が多いと金も増えるんだ。
だから祝福一つだと殆ど分からない。
特に生まれた時に親の知らぬ間に祝福受けた場合、成長が遅くて瞳をよく見て見たら金が有ったって事も良くあるんだ」
親の知らぬ間って…やっぱり呪いなんじゃあ………。
「だから君みたいだと『英雄召喚されてスッゲー祝福受けた人』ってのが一目でバレちゃうワケだね」
「…………は?…」
黒髪だから英雄召喚されたってのが人に知られるのは分かる。
でも何故祝福迄……って……!
「か…鏡!鏡どこだ?」
「そっちのクローゼットの扉の内側に姿見有るよ」
指された方に走り寄り、クローゼットの扉を勢いよく開けて自分の姿を映し出す……。
この世界に来て始めで見た自分の姿は、アルバムの中で見た幼稚園の頃のままだった。
大人になってからは『ボーリングの玉みたいだから玉ちゃんだね』と呼ばれて居た顔も、子供の頃は『ゴマアザラシの赤ちゃんみたいだからゴマちゃん』と渾名を付けられていた頃そのままだ。
唯一の違いは黒に近い濃い目の茶色だった瞳の色が金色だ…。
人の瞳の色でこんなの見た事ないし、正直言って…
「気持ち悪い……」
自分の顔に猫の瞳を埋め込んだ様な違和感……ゴマアザラシの赤ちゃんの瞳は黒だから可愛いんで有って、金色だと異形感が拭えない。
「え?何が気持ち悪いの?
透明感有ってとても綺麗だと思うけど」
これは生まれ育った環境の差か?見慣れていないからだけなのか?
あまり見ていたくなくて扉を閉じた。
ボーリングの玉とゴマちゃん一緒にするなと言われそうですね。
因みにモデルは作者の連れの女性です。
ゴマちゃんフェイスでびっくりして口を大きく開けたらボーリングの玉になります。
黒目が大きいんでしょうね。
因みに作者は親指に似てると言われた事が有ります……親指って…………
話が明後日の方向なな行ってしまいましたが明日もよろしくお願いします