土岐家の人って
「そうだ!歓迎会をしよう!
久々に腕振るっちゃうぞ〜」
と、事務所を出て行った秋彦さん。
ヤシさんも、
「あ、そうだ、スイスイにお土産が有ったんだ」
と続いて退室、静かになった事務所の中に残された僕達は、重いため息を吐いてしまった。
「…………何と言うか…独特なノリの方達ですよね?」
僕が言うと、ガックリと肩を落としたズルさんが、
「うちの家では一家に一人は爺さんの血が濃いのが居るんですよ」
ドユコト?と首を傾げると、隣のスイからカミングアウトが始まった。
「うちの叔母のミキさんは見ての通りの真面目な方です」
ミキさんが「普通ですよ」と笑う。
「しかし父がアレです。
大体仕事からして、旅人なのですよ」
え?職業旅人?この世界ってそんな仕事が有るんだ。
「そしてうちの妹は踊り子で、今は隣の国で踊ってるわ」
ランさんが言うと、デカさんが、
「次男が吟遊詩人でどこにいるか分からない」
頭を振りながら言う。
「チビの家は末っ子が引き篭もりのニートで、その親で俺の弟のチビは失踪中……」
書いてくれた家系図を指差しながら説明してくれる。
見事に一家に一人マトモじゃ……特殊だ。
「でもスイの世代は皆まともな子達だから良かったわよ」
「本当よね、これでこの呪いが延々と続くなんて冗談じゃないからね」
ミキさんとランさんの言葉だけど、これは何とフォローするべきか…。
「刺激的なご家庭ですね」
頑張って言葉を探してみたら、女性二人が近寄って来て、ソファーの横と後ろから抱きしめられてしまった。
「スイちゃん、この子良い子ね〜」
「こんなにちっちゃいのに気を使ってくれちゃって」
うわ……ちょっとお姉さん方、おっぱ……豊満で柔らかくも弾力のある物が四方から……。
「叔母様方、子供扱いは失礼ですよ、ウチ様は三十を超えた大人の男性なのですから」
おぶおぶしている僕のフォローをしてくれるけど、止まったのは一瞬。
「まぁ〜若いわねぇ」
「こんなオバちゃんにくっつかれても嬉しく無いでしょうね〜」
二人はキャッキャしながら離してくれない。
「いえ…お二人ともスイと変わらない見た目ですから、少し困ってます」
正直に言うと、
「あらあら、上手いわね〜〜」
と、余計揉みくちゃにされてしまった。
正直に言えばいいと言うもんじゃ無いんだね。
ズルさんが止めてくれるまでおもちゃにされてしまった。
*****
夕食は歓迎会とかで秋彦さんがご馳走してくれるそうなので、それまでの時間潰しに他の店も回ってみることにした。
食材の店は見た事ある物、見知らぬ物、ヤギさん家の畑で見た野菜や、現物そのままの動物や野獣の肉(死体と呼びたい)。
それらを呼び込む人、購入を悩む人、値切り交渉する人、購入品を指定の荷車に積む人、売れた品を補充する人、会計をする人などで、なんとも賑やかだ。
しかも小売店の仕入れの人達だろう大量買の人の多い事。
一種類の品で小型とは言え荷車は満杯だ。
テレビで見た朝市とか卸市場とかが、こんな感じだったよな。
しかし活気があり過ぎて、幼児が一人で歩くのは危険だ。
スイがしっかり手を繋いでくれてるから良いけど、これがスイ以外なら、問答無用で抱っこ一択だろうなぁ。
加工品スペースは誘惑の場所だ。
菓子類はあまり食べない僕でも、揚げ菓子を揚げる音、出来立ての匂い、それらを食べる人々の笑顔と、視覚、聴覚、嗅覚に訴えられると、店先に足が向かってしまう。
「何か食べられますか?」
のスイの言葉に、思わず「全部味見したい!」と口にしそうになったけど、胃の容量的にも無理だし、スイがそれを許可する訳ないのは分かっているので、普段なら絶対に食べないような揚げ菓子を買ってもらった。
食べてみると、昔ながらのドーナツをツイスト仕様にして揚げて、砂糖をまぶした感じの、甘いけど腹に溜まる菓子だ。
ニコニコ顔で食べ終わった後、スイが濡らして来たハンカチで、口の周りと手を拭いてくれた。
う〜ん、子供扱い。
それを見る周囲の視線?そんなのは気にしなきゃ見られて無いのと一緒だよ。
衣類や家具や嗜好品、装飾品はあまり興味が無いので、ザッと見ただけ。
輸入品は「何じゃこれは」的な物も多く、楽しかった。
でも一番心踊ったのはやはり金物。
農具はヤギ家に行った時に触らせてもらったりしたから、それなりに楽しかった。
工具は日曜大工やった事無くても、男性としては興味惹かれるものがある。
でもやっぱり一番ワクワクするのは…
「使う訳じゃ無いし、使った事もないけど、やっぱりカッコよく感じるよね」
僕が直接手にするのは危ないので、スイが目の前で剣を掲げてくれる。
やっぱり武器や防具ってのは男として、と言うより男の子心を惹きつけるものがあると思う。
西洋風のフルアーマーやロングソード、戰斧に弓や槍も良いけど、やっぱり日本刀!
カッコイ〜〜イ!持ちた〜〜い!振ってみた〜〜い!!
でも無理だわ、僕の身長と同じくらいの長さがあるもの……。
太刀とは言わない、脇差……いや、小刀や懐剣でもいい!
日本刀をガン見している僕の背後から、
「危ないからダメですよ」
と冷ややかな声が……。
デスヨネ〜。
今は無理でも、もう少し身長伸びたら手に入れてやる!
メリークリスマス
って本当は今日なのに、何故25日って終わった感が満載なんでしょう。
土岐家の人達の暴走と商店巡りが楽しくて、今回少し長いです。
明日は歓迎会からの…です。
明日もよろしくお願いします




