妖術を教えてもらおう
よく覚えていないけど、悪夢にうなされて、朝起きると凄く汗をかいていた………。
*****
朝食後、ソファーでぐったりしているとスイに案内されて来たのは書庫番のマキだ。
「おはよございますウチ様。
妖術を使いこなせる様になりたいとの事で、王に言われて参りました。
改めましてよろしくお願いします、マキ・ミル・ニトです」
僕はソファーから身体を起こしキチンと座り直し、頭を下げる。
ぐったりしていた僕を見てマキは
「…体調でも悪いのですか?」
と聞いてくるけど、
「いや、体調じゃなくて、悪かったのは夢見です……」
としか答えられないよな。
ソファーから離れ、窓辺に運ばれたテーブルセットに移る僕とマキ。
スイがお茶を邪魔にならない所へ置いて部屋を出て行く。
パタンと扉が閉まった後、それまで背筋を伸ばしていたマキが、ダランと力を抜き椅子の背もたれに身体を預けた。
「あー、席を外してくれてよかった。
ずーっと畏まってると疲れるよな」
ダラけたまま聞いてくる。
この前も途中から言葉が砕けたけど、
「こっちが本性なのですか?」
「ああ、ウチも言葉崩していいよ。
普段書庫に篭りっぱなしで、他人と顔を合わせなくて良いから楽なのに、いきなり妖術教えろー、だって。
カチコチじゃあ疲れるじゃん?
楽に行こうよ楽に」
いや、宮勤めだろ?
しかも王様でさえウチ様って呼ぶのに……まぁ、正直こっちの方が気が楽だけど。
「俺の事もニトで良いから。
あ、分かってるだろうけど、他の奴の前じゃあキチンとしてんだから、内緒な」
テーブルに肘をついてニヤリと笑う。
裏表が有るとか、これも仕事だろ、とか有るだろうけど、僕は嫌いじゃ無いな。
だから素直に頷くと、テーブル越しに頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。
「ちょっ…何で頭撫でるんだよ」
「いや、だって触りたいんだもん。
何なら膝抱っこでも良いけど…」
「いや、良く無いから」
即拒否するとちぇー、と口を尖らせる。
「まぁ良いか、そのうちだよな、そのうち。
じゃあ説明始めようか」
前半分は聞かなかった事にして、妖術の授業?講義?を始めてもらった。
*****
妖術とは以前にも聞いたけど、祝福で繋がっている妖精の力を借りて術を使う事だ。
繋がった妖精により使える術は様々で、複数の祝福が有れば複合術も使えるそうだ。
術は空気中の魔素を使い発動されるけど、魔素が薄くなると妖精は消えてしまうらしい。
「そこでだ、是非とも妖精王に聞いてみて欲しい。
魔素が無いと妖精は死んでしまうのか、それともそこまでこき使われると頭に来て祝福取り消して去ってしまうのか。
ウチは会話が出来るんだから聞いてみてくれないか?」
ワクワク顔で身を乗り出して来るニト。
まぁ聞くぐらいなら問題ないかなと、ピヤとニヤを呼んでみた。
「ニヤー、ピヤー」
『とうちゃーん!』
『うぇ〜ん、やっと呼んでくれた〜〜』
窓をすり抜けて入ってきた二人は、ビターンと顔に張り付く。
相変わらず熱烈だなぁ…。
『全然呼んでくれないのって寂しいの。
もっと呼んで欲しいの』
『ボク達の事嫌い?』
「あーゴメンゴメン。
これからもっと呼ぶから」
宥めている僕にニトはワクワク顔だ。
「本当に会話してる、会話が成立するなんて素晴らしい!」
アレも聞いてみたい、いやそれよりあの事を聞くのが先か?それとも……と、ワクワク通り越してニヤニヤしている…。
『とうちゃん、あの人から不穏な空気感じるの』
『うぇっ…怖いよ〜』
あー、僕も同じ空気感じるわ。
そんな空気の中妖術についての講習?が始まった。




