歴史の時間です
昼食後、スイにこの国の歴史を教えてもらった。
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この国の歴史はおよそ千年程だ。
元々中央大陸と呼ばれている大陸には北に人間、南には魔物が多く住んでいた。
北は土壌が豊かで気候も安定しているけれど、南に行けば行く程気温が高く、乾燥した荒地が多くなり、実りも少ない。
豊かな人間は満ちて広がり、新たな土地を求め南下する。
そして約千年前、初代王がこの地に国を作ったのが始まりだ。
新たに地を求める人々は更に南下をして行った。
しかし南は元々魔物の領域。
勿論元々住んで居た魔物は反発する。
初めは小競り合いだった。
組織だった戦い方をする人間に対して魔物は個々で防戦し、追いやられて行く。
やがて人間は大陸全てを手中にした。
しかし散り散りになって居た魔物は魔王が誕生した事により、統率が取れ組織だった反撃を始めた。
それが役六百年前の事。
南下した人達は魔物との戦いで追われ、戦いの前線は徐々に北上する。
やがて魔物との戦いはこの国にも及ぶ。
元々人間より力も強く、人には無い不思議な力、魔法を使う魔物に対抗の術はない。
そんな時、この地に住む妖精が力を貸してくれた、それがこの国の人と妖精の付き合いの始まり。
妖精の祝福で繋がるよってことにより使える術でも長く平和で居た国の人間は力が及ばない。
戦いは激しくなる一方で、国が滅びる寸前まで行ってしまった時、当時の妖精王から秘術がもたらされた。
英雄召喚
その秘術をどうして妖精王が知ってたかは分からない。
ただその秘術は妖精王が、自分と繋がっている当時の国王を死なさない為、好きな人間の為に伝えられた『その時』に『必要な』人間を『別の世界から喚び出す』術だ。
そして……この地に初めての英雄が姿を現した。
それが今から五百年前の事だ………
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「と言う風に伝えられて居ます」
「へぇ、本当にお伽話の様な話ですね。
その英雄の子孫が黒髪の人達なんですね」
目の前に居るスイも合わせて。
「そうですね。
それぞれの家系の詳細は、それぞれの家に系譜と一緒に保管されて居ますが、この歴史書を作成したのはマキ家です」
「マキって書庫番のニトさんの家ですか?」
昨日色々説明してくれた青年を思い浮かべる。
「そうです。
元々が文章作成が得意な英雄だった様で、ニトの親のマキ・ユト・ミルは晩餐会でもお会いしたと思う文部大臣ですよ」
……居たっけ?
正直混乱と抱っこの屈辱と、一度に複数の人を紹介されたから覚えていないってのは黙ってた方が良いな。
無難にそうなんですか、と濁しておき話も変えよう。
「でも妖精は凄い術を持ってたんですね」
「そうですね。
昔はいざ知らず、今は妖精の祝福の術が無ければ生活も覚束ないと思いますよ」
『そうなの、ワタシ達凄いの』
『ボク達いっぱい助けるよ?
だから仲良くしてね?』
定位置なのか左右の肩に乗った女王と王が顔にへばりついてくる。
「でも思ったより国の歴史は浅いんですね」
「祝福を受ける前は寿命も短かったと聞きますが、今となっては長ければ二百年以上生きますからそう感じますね」
『あのね、好きな人には長生きして欲しいの。
だから祝福して一緒に生きるの』
『そして一緒に眠りにつくんだよ』
え?何だか聞き捨てならない事言ったか?