代行者……ヤメテ
「それで?国民への演説はうまくいったんだろ」
ソファーにうつぶせてふて寝をしている僕に、にやにや笑いながら問いかけてくるニト。
「どうせスイに聞いたんでしょ?」
「まぁね〜。
でも人伝と当事者から聞くのとでは違うだろ」
完全におもちゃ状態だ。
思い出したくもないんだよね、あのクズの暴走は……。
*****
城の前の大広場に集まった群衆の前でクズ皇帝の演説はなされた。
広間を埋め尽くす人々に声が届くように、音の子の拡声の術をかけてもらい、すべての人々に声が届くようにした。
人々へ、集まったことに対する言葉と時候の言葉の後に本題だ。
「この地は原初の神々の降り立った地である事は間違いはない。
しかし、我々は……我はいくつかの思い違いがあった事がこの度判明した。
その一つが、この地の生きる全てのもの、空を飛ぶ鳥や大地を駆ける動物、水中を泳ぐ魚や、我らと異なる姿の魔物、その全てが等しく我らと同じであるという事を」
『俺たちが動物と同じ?』『魔物と一緒だとか何を言っているんだ?』
騒めく民衆の声が聞こえてくる。
「静粛に。
我は先日原初の神々の住まう場所へ誘われた」
更に騒めきが大きくなる。
「そこで神々の記憶を見せられたのだ。
五柱の神々の神話は現実にあった事を我は知った。
そこでもう一つ知った事柄が、我らは他の生物と同じく、神々により造られたに過ぎず、神々の血を引いていないことを」
それから今回の事を、直接的な事は伏せて、異世界から召喚をする為に魔物の人を攫ったこと、その人達に酷い目に遭わせたこと、それを南方の国の人々に止められたこと、賛同した重臣達は既に処分されたこと、そして神々に記憶を見せられたことを順に説明した。
騒めいていた民衆は、次第に静かになっていく。
更に【神の血を引く国の民】と言う選民意識を無くさなければ、神罰が降り、国ごと粛正されてしまうということを告げた。
「直ぐに考えを変えるのは難しい事だと思う。
しかし変わらなければ我らに待つのは破滅のみである事を理解し、意識を改めて欲しい。
特にこれからを担う子供達には徹底し、正しき事を教えて欲しい。
全ては各々のためである事を理解してくれ。
そしてこの国を良くして行くことに力を貸して欲しい」
そんな感じに話は終わった…と思ったら、まだ続いていたのだけれど、それがいかんかったですわ。
「それに我らには力強き協力者がいる」
僕たちラグノルの国の事かな?なんて思っていたら、大間違いだった。
クズ皇帝の言葉を合図に、重臣達に囲まれて担ぎ上げられ、クズ皇帝の隣に連れていかれた。
敵意も無いし、あっという間の出来事だったから、僕の後ろに居たネイも反応が遅れたようだ。
「神々の代行者、トウ・ドウ・ウチ様である。
我の暴走を止め、神々の元へと誘い、我らの行く先を示す方である」
おおおー!と、湧き上がる群衆、ドヤ顔のクズ皇帝、振り向くとネイまでドヤ顔をしている。
いやいやいや、ちょっと待て!
何だよ神の代行者って!
行く先を示すって!
そりゃあどうすればいいかなとか考えたよ?
でもこの国をどうするかなんて、自分達で考えろよ、僕はこの国の民じゃあないんだからね!
頭の中で叫び声を上げても、それを表に出すのは憚れて、この場は仕方なく、にっこり微笑んで片手を挙げた。
その後、クズ皇帝が何やら僕が凄いとか、素晴らしいとか延々と述べてたけれど、心の耳を塞いで聞いていないよ。
どうやらこの一週間僕と繋がっていた事により、僕がこの国について色々考えていた事も、全部垂れ流し状況であったらしい。
それでほぼ洗脳かよ!って状態で、まるで新興宗教の教祖状態になってしまったと……。
勘弁して、神の代行者とか。
僕は普通のおっさんです。
例え見た目が幼児でも、妖精達に好かれまくってても、変なフェロモン出してるようでも、ちょーっと神々の領域へ自力で行けたとしても、僕は普通のおっさんです。




