2回目の会議
他の面々も会議室を出ようとしたところに、一人の男性が部屋に入って来た。
「ハル様」
どうやらトモ家の人のようだ。
小声で何かを告げながら、紙っぽい物を手渡して、部屋を出て行く。
手渡された紙を、ハルさんは牧さんに手渡す。
渡された紙を見た牧さんの表情が固まった。
そのまま動かないのが心配になって、側に寄って行くと、牧さんは口を開いて話し出した。
「この世界に来て二百年以上経つけど、こんな事件イベ初めてだよ。
ストーリー的に良くあるパターンだけどね。
エロ貴族に拉致られて、おもちゃにされるケモ女性、使い捨ての労働力にされる獣人男性、変態おっさんのコレクションにされる子供達……。
あるあるだなぁって、有りがち設定乙とか、ゲームやラノベで見て思ってたけどさ、自分の周りでやられると、ふざけんなとしか言いようが無いよな」
やっぱり牧さんも……いや、きっと皆攫われた魔物の人達の辿る道は、同じ行く末を思い浮かべているだろうな。
「この国って、小さないざこざはあっても、鉄板な横暴貴族や、ワイロ塗れの腐った司祭とか、そんな悪役ポジの奴居ないし、お綺麗で刺激の少ない世界だなぁ、なんて思った事も正直あるよ。
でもさ、日々の暮らしだっていろんな出来事が有るんだから、真剣に生きてたら退屈なんて感じる暇無いんだから、刺激が少ないなんで思う事じゃ無いよな。
妄想は得意だけど、想像が足りなかった。
平和?退屈?そんな日常が大事なんだよな」
言いながら手にしていた紙を見せてくれる。
写真…絵の子の写し絵に映し出されていたのは、倒れた馬車と、二人の魔物の女性……事故現場の風景を、取り急ぎ伝えて来た物なのだろう。
一人の女性には見覚えがあった。
「この…右側の人って……」
「ああ……【俺の嫁】の一人だ。
運命の人と出会ったからって、先週マモランドを出て、相手の元に向かった筈なんだけど……何でこんな所で寝てるんだろうね」
二人とも虚ろな表情で横たわっているけれど、そのハラワタは無残に食い荒らされている……。
「結婚式には呼んでくれるって……、子供が産まれたら名前を付けて下さいって…………また二人で遊びに来ますって……………今までも幸せだったけど、もっともっと幸せになりますって……笑っていたんだよ………」
牧さんはハルさんに深々と頭を下げる。
「お願いします、何が起こっているのか、誰が何の為に魔物を攫っているのか、詳しく調べて下さい」
「勿論一族の総力を挙げ、即急に調べます」
真摯に受け止めたハルさんが、強く頷く。
僕にできる事は無いのか考えながら、解散となった会議室を出て部屋へ戻った。
次の会議が開かれたのは三ヶ月後の事であった。
*****
三ヶ月の間にも、兵士の人達が見回りを強化しているにも関わらず、三人の魔物の人が行方知れずとなった。
ラグノルだから三人で済んでいるのであって、他の国では二桁の魔物の人が姿を消している。
行方不明者を出さないためと言って、兵士を差し出すのは越権行為になってしまうので、他国の事はどうしようも無い。
魔物の人達は家から出ないようになり、マモランドへ移住する人も増えて来た。
今は魔物の人だけだけど、いつハーフの人や、人間が被害者になるのかわからない状況で、国への出入りは厳しくチェックするようになり、国内の雰囲気がギスギスして来ている。
そんな中、ハルさんからの通達で、二回目の会議が行われることとなった。




