お昼を食べてちょっと休憩
会議室乱入後、なんだかんだで僕は妖精との交渉人?みたいな仕事を請け負う事となった。
仕事と言っても難しい事ではなく、何かあった時の通訳みたいなものだそうだ。
まあこの世界で生きていくには仕事をして収入を得なければならないので助かるか?
特に幼児の姿になっているから力仕事など体を使う仕事は無理だろうし、事務仕事も知らない世界の事務なんて無理だろ。
所詮僕の特技は動物に好かれる事だけなんだし……ふっ………。
*****
「おおおお」
目の前に広がるのはテーブルの上に所狭しと並べられた沢山の皿。
皿の上には煮物、焼き物、スープにパンにご飯、和洋折衷だ。
肉じゃがの横にローストビーフ、焼き魚の横にはホワイトシチューと並んで多分ほうれん草のおひたし?
他にもまだまだ山盛りだ。
会議室で王様に仕事を頼まれている途中、騒ついている室内に響き渡る程の音がしたんだよ、僕のお腹から……。
仕方ないよね、昨日の晩御飯も食べずに呑んだだけで、今日もまだ何も口にしてないんだがら。
そこで急遽昼食を簡易歓迎会として、その場に居た皆を引き連れてホールにこの大量の食事を用意してくれたのだ。
正式には夜パーティを開くそうなのだが、まずは大臣達に顔合わせ、みたいなところかな。
そして急過ぎた為のこの和洋折衷みたいだ。
在るものと直ぐに出せるものをとりあえず並べてのバイキング方式だ。
見知った食べ物も多いのは過去の英雄さん達が伝えたんだろう。
でも見慣れた物の中に見知らぬ物もチラホラ。
まあ、お腹が空いてるからまずは見知った物からいただきまーす。
しかし屈辱的なのはこの幼児体形。
テーブルの上が見えないどころか、テーブルより低い……。
椅子を引きずって来てよじ登りテーブルの上を見ていたら、
「危ないですよ」
とマキに抱っこされてしまった。
降ろせよとジタバタしていると、他の人も寄って来て
「あっちのテーブルも見てみるかい?」
「ほら、こっちのテーブルのお肉も美味しそうだよ」
と、次から次へたらい回しに抱っこされてしまった。
リレーのバトンかよ!
途中で諦めて『コイツらは食事補助アンドロイドだ』と思うようにして、抱っこ状態でテーブルを渡り歩いた。
「いやー、可愛いですね」
「彼は34歳らしいですけど、実年齢なんてこの世界では関係無いですからね」
「そうだな、見た目が第一だ」
謁見の間に案内してくれた金髪と、扉の中に居た黒髪、そしてマキが話しているのが聞こえて来た。
因みに金髪にはケモミミ、尻尾と合わせてみると犬系?
そして黒髪の方は英雄家系で多分さっきマキが言ってた仕舞える羽を持つハーフかな?
因みに今僕を抱っこしてデザートのテーブルに居るのは何とも迫力の有る青年。
笑った顔は子供みたいだけど、醸し出す雰囲気が大物だ。
尻尾は見えないけど、黒髪で頭にくるっと巻いた羊みたいな角が付いている。
魔王って感じの人だ。
近くで見るからわかるけど、この人も瞳の中の金が多い。
しかし何となく気になるのが、抱っこしたがる人達とは別に全く近寄って来ない人達も居る。
抱っこされた僕が右へ行くと左へ、中央へ行くと左右へと逃げて?いく。
何だろう、あの一団は?
そんなこんなを考えていたんだけど、お腹がいっぱいになった僕は、幼児の身体の影響か、耐えきらぬ睡魔が襲って来て巻き角の人の腕の中で眠ってしまった……不覚!
*****
二時間くらい寝てたのか、どうやらゲストルームみたいな所で寝かされていた。
天蓋付きのデッカいベットで……。
起こしに来たのは執事らしき紳士と三人のいかにもなメイドさんだった。
執事さんは黒髪だった。
黒髪って英雄家系なのに執事なんだ、など寝起きの頭で考えていたら、ベットから抱え降ろされいきなり服を剥ぎ取られた。
「え?な、何?」
びっくりしてる間にポールハンガーにかけられた燕尾服を次から次へと着せては脱がされまた着せられ。
訳がわからん。
「一体何なんですか?」
着せ替え人形となりつつも黒髪の執事に聞いてみる。
「今夜の晩餐会の衣装ですが、作るのには間に合いませんので、応急処置と致しまして、殿下の衣装をお借りする事となりました」
「晩餐……あ、夜のパーティですね。
服を借りるのは分かりましたけど、これ全部同じなんじゃないですか?」
さっき着たのも今着せられてるのも同じサイズだよな?
「いえ、先程のは殿下の四歳半の時の物、その前のが四歳四ヵ月の物、こちらは四歳九ヵ月の物です」
「いやそれ変わらんだろ!」
いくら子供の成長が早いと言っても二、三ヶ月でそうそう変わらんだろ。
「何を仰いますか。衣装は身体に合ってこそ。
サイズの合わない衣装などみっともなく、そんな姿で殿下に恥をかかせるわけにはまいりませんでしょう。
今回も少しでもお身体に合ったものをとの殿下のご厚意です。
なれば一番サイズの合うものを選ぶのが私達の仕事です」
何だろう、何だか逆らえないオーラみたいな物を感じて、その後は黙って為すがまま着せ替え人形になった。