第四話
それからまた数日が過ぎた。
ニコルを気にしないように、オレは部活に打ち込んでいた。
その日の部活が終わり、部室で着替えをしていると、
「オイ。風炉。」
オレを呼んだのは同じサッカー部の一つ上の先輩だった。
「なんスか?」
「お前さ、里中波留の幼なじみなんだろ?」
ドキ。
「はい。」
「どう?彼女、彼氏いる?」
ドキン…。
「どうでしょ?いないと思いますけど。」
「あの子、なかなか可愛いよな?」
はぁ?ニコルは黒くて、そんなに可愛くはねぇような…。
と思っていると、他の先輩も同調して来た。
「だよな。だよな。オレもいいと思ってた。」
「ダメダメ。オレが先だろ。」
なんのことか分からない。
「波留っすよねぇ?そんなに可愛くは…。」
と言うと、先輩方の動きがピタリと止まった。
「どんな審美眼してんだ?お前…。」
と言いながら、スマホを出して来た。
ニコルが部活をやっている姿を隠し撮りしたものだった。
大きく胸を撃ち込まれた…。
カワイイ…。
なんで画像だとこんなにカワイイんだ?
ひょっとすると…。
オレって…。昔からのイメージを持ちすぎてて…。
今のニコルをよく見てなかったのかも…。
「で?どうなんだよ。」
「は、はぁ…。」
「里中に彼氏いねぇんだよな?」
「は、はぁ…。」
「ダメだ。コイツ…。帰っていいわ。」
先輩から解放されて、オレは河原の土手の道に向かって走った。
いた!
ずいぶん遠くだけど、ニコルだって分かる。
オレは走った。
ニコルの背中に向かって…。
そして、彼女の部活のバッグのヒモを掴んだ。
「あっ!」
そう言ってニコルは振り向いた。
先輩から見せられた画像の顔がそこにあった。
「ニコル!」
「なぁんだ。シュートか。」
ニコルはバッグを握るオレの手を軽く払った。
「ごめん。急いでるから。」
そう言って、前のように早足になる。
「ちょ、ちょっと待てって。話しながら帰ろうぜ。」
「なんの話し?」
「あと…。ええと…。あーと。ぶ、部活はどうだ?」
「楽しいよ。」
終わった。会話が終了。
おおい。もっとキャッチボール。
キャッチボール!
「昨日のテレビみた?動物の。」
「見てない。」
「最近、ドラマ見てるか?」
「どんなのあるかも知らない。」
「週末の映画は?」
「さぁね。」
そっけねー。
そっけなさすぎー。
普段はお前から話題を振って来てくれるんだろーが!
話しって…。
どうすりゃいいんだよ…。
わかんね…。わかんねーよオレ…。
ニコルの早足に付き合っていたら、いつの間にか家の前だった。
「じゃぁね。バイバーイ。」
「あ、う、うん…。」
自分の家に帰っていくニコルの背中が…。
…小さくなってゆく…。
ニコルが俺から…。
離れて行く…。
離れて行ってしまう…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
完全にやられた。
ニコルのこと…。
先輩に写真を見せられたからじゃない…。
心を奪われてる…。
あの笑顔が見たくなってる…。
いつも…。昔から見ていた…。
ニコニコしていたあの顔を…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の部活が終了した。
あの先輩が、ドヤドヤと早着替えをして、外に飛び出した。
「じゃあな!また明日ァ!」
慌ただしく、そこら中に体をぶつけながら。
気になったオレは近くの先輩に聞いてみた。
「先輩、どうしたんすか?いつも最後まで残ってるのに…。」
「ああ。なんか女陸の一年の子に告白すんだとよ。」
…え…?
やばい!ニコルのことだ!
あの先輩は、そこそこ女子から人気がある…。
横からかっさらわれちまう!
慌てて着替えをして、部室を飛び出した。
…でも…。どこに行けばいいのか…。
女陸の先輩を見つけて、ニコルのことを聞いてみると、先輩と正門のほうに行ったと言うので走ってそちらに向かった。
ニコルは…。
先輩と並んで歩いていた。
あの笑顔をしながら…。
ニコニコ笑いながら…。