第一話
柊斗は机にアゴを乗せて、楽しそうなカップルを目で追っていた。
暁彦と奈都…。
今日も楽しく元気にドタバタやってる。
「ま、暁彦よりも将来イイ男になって見返すしかないっしょ。それじゃ。」
とは言ったけど、そうそう簡単に好きな人を忘れられるわけないでしょ…。
見たくはないけど、ついつい目で追ってしまう…。
なんで、イケメンの振りしなくちゃならねーんだろ?
オレってもっと小心者だよ?
それが誰の期待に応えなきゃいけねーんだよ。
好きな人にもフラレて…。
ホントは泣きながら食い下がりたかったんだ。
でも、それをしたって得られるものなんて何もない。
ついついイケメンのフリをしてしまう。
回りだってそう思ってるし…。
イケメンって不自由…。
「柊斗くん。ハイ。これ上げるね。」
「ああ…。奈都…。ありがとぉ~…。」
奈都は毎日少しずつお菓子を持って来る。
今まで貰ってた分のお返しらしい。
が、別にオレは甘いものが好きではない。
でも、貰っておくか…。
「何?ドコ見てたの?」
お前だよ…。
「いや…。ぼーとしてただけ。暑いからな~。」
「だよね~。」
と言いながら制服の胸の部分を掴んでパタパタとやっている…。
あの…ブラチラしてますけど…。
始業のチャイムがなり、奈都はパタパタと自分の教室に帰ってゆく…。
ま。今日も話せたな。
フラレたけどこうやって話せるってのはいいのかもしれない。
…でも忘れられないってのはダメなのかもしれない…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
放課後…。奈都は暁彦と楽しげに手を繋いで帰る。
それを部活をやりながらグラウンドの中で眺めて、コーチにしこたま怒られしごかれるなんてしょっちゅうだ。
だが、みんなには傷心のためだとは思われていない。
いつものイケメンスマイルでその辺は切り抜けている。
誰にも、誰にも悟られていない。
部活も終わり、一人心も肉体もボロボロのまま帰路につく。
だが、家に入るまではそれを誰にも分かられないよう、クールに背筋を伸ばして歩く。
「よ!シュートも部活終わり?」
元気な声。それに気付いてオレも振り向く。
「なーんだ。ニコルかぁ~。」
「なんだはないでしょ?疲れてるみたいね。カバンもって上げようか?」
「おう。じゃぁ、よろしく~。」
そう。こいつは波留。
昔っからの腐れ縁。幼稚園から一緒のご近所さん。
いっつも、何言われてもニコニコしてるから、オレが「ニコル」ってあだ名をつけてやった。
決して藤田ニコルに顔が似ているわけじゃない。
どっちかっつえば不美人なほう。
陸上やってて顔の色も黒いし。
まぁ…。こうやって気がついていろいろやってくれるから甘えられるっちゃぁ、甘えられるそういう存在かな?
「なんだよぅ。元気ないねぇ。」
う…。こいつ鋭い…。
昔からいるから分かられちまう…。
「男にはいろいろあるんですよ~。」
「あそ。どーせ、前カノのことでしょ。」
グサ。
瞬殺。もうくじけそう…。
「おっとっと。フラつくなってば。…そっかぁ~…。図星かぁ…。」
「ま、オレから振ったってことになってるしてあるけど…。まだ誰にも言ってないんけどな…。実は、奈都ってば、彼氏のことお菓子をくれる人だと思ってたんだと…。」
「タハ!」
腹を抱えて崩れ落ちた。
そら、そーなるよなぁ~…。
高校生にもなってよぉ~…。
「ウフ!ゴメン。失礼失礼。そーかー。なっちゃん、そんな感じの子だもんね。あー…おかしい。」
「笑うな。当事者はかなりツラいんだぞ?」
「でしょうねぇ。」
「でしょうねぇじゃねーわ。帰る。」
「あ。一緒に帰ろうよ。」
「やーだね。気分を害した。」
と言って、オレは駆け出した。
「何?子供みたいに!カバンは!」
急ブレーキ!…そうだった…。
しかも、顔が笑ってた…。
いたずらするみたいに…。
コイツの前だとそうなっちまう。
ついつい、昔と同じように…。
ニコルは追いついてオレのカバンで頭を叩いた。
「いで!」
「そら痛いでしょ。痛いように叩いてるんだから。」
「ひでぇ…。痛い。頭も痛いし、心も痛い…。」
ニコルはいつものようにニコリと笑い、オレの手をそっと引っ張った。
「はいはい。ゴメンゴメン。ホラ、帰ろ。」
ニコルに手を引かれて自分の家の前に到着…。
なんか非常に落ち着いた。
「じゃーな。今日はありがトゥゥゥゥゥ!」
「うん。じゃーね。あれ?」
「ん?」
「なんか、家、真っ暗じゃない?」
振り返ると、真っ暗。
電気が点いていない…。
「あ!そーだ!親、旅行だった!明日の休みを利用して…。」
「あらまぁ。」
「コンビニでメシ買うの忘れてた…。…む、無念…。拙者、飢え死に致す…。」
「ププ…。コンビニ遠いもんね~。」
「ニコル…。なんか作って…。」
「なんだそりゃ!あたしはあんたのお母さんじゃない!」
と、憎まれ口を叩いたあとニッコリと笑い、玄関前まで来てくれる。
オレは玄関のカギを開けて、ニコルと一緒に家の中に入った。